学校に防犯カメラを設置 ー 性暴力から子どもを守る効果と限界
増加する子どもへの性加害
ここのところ、児童生徒を対象とした盗撮事件が連日のように報道され、教育現場の安全確保が喫緊の課題となっています。スマートフォンや小型カメラの普及が犯行の秘匿性を高めたことは否めません。
こうした状況で、愛知県みよし市が、市立小・中学校全校に合計で194台の防犯カメラを設置することが話題になりました。これは、2025年7月、市内中学校で女子更衣室を狙った盗撮未遂が発覚したこと等を受けたものです。設置は廊下等の公開空間に限定し、更衣室・トイレ・教室内部は撮影しないことになっています。
ここで、「学校に防犯カメラを設置すべきか」「防犯カメラによって盗撮などの性加害から子どもを守ることができるのか」という問いが浮かんできます。この問いを科学的に検証したいと思います。
盗撮被害の特性と学校という場の脆弱性
盗撮は身体侵害を伴わなくとも、強い羞恥・恐怖・不信をもたらす深刻な被害です。成長期の児童・生徒では対人不信を高めたり、安心して学校に通えなくなったりすることが危惧されます。
学校は児童・生徒にとって、「安心安全の場」であるべきですが、更衣室やトイレといったプライバシー空間が不可避であることに加え、体育や水泳の授業、部活動などで着替えの機会も多いという構造的脆弱性を同時に抱えています。
防犯カメラの効果と限界
市街地や店舗などにおいては、防犯カメラの設置が飛躍的に進んでいます。防犯カメラに期待できる効果は大きく分けて二つです。
第一に、犯罪の抑止が挙げられます。人は「見られているかもしれない」という認知がはたらくと、規範遵守の意識が強まることが期待されます。
第二に、事後的証拠の提供です。防犯カメラに犯行の状況が録画されていたり、逃走の足取りを追うことによって、加害者特定や犯行時刻・行動の同定に資することができます。
とはいえ、防犯カメラだけで犯罪が確実に減ると断言できるエビデンスは乏しいのが現状です。公共空間全般では防犯カメラが犯罪減少とある程度関連するというメタ分析が複数あります。(Welsh & Farrington, 2008; Piza et al., 2019)。それによると、特に駐車場での車上荒らしの防止効果が一貫して大きい一方、場面によって防犯効果にはばらつきがあります。
学校領域の量的研究では、屋外のカメラや見回りの存在が生徒の「安全感・支援感」を高める一方、屋内での過度なカメラの配置は生徒の支援感・公平感を下げ得ると報告されています(Johnson et al., 2018)。
大学キャンパスなどでは、導入校と非導入校の比較で有意な低減がみられないという分析もあり、単独の技術的施策が万能でないことを示唆しています。
さらに、教室・更衣室・トイレ内部は倫理的・法的に設置が不可能であり、盗撮が起きやすい場そのものに直接カメラを向けることはできません。
このように、現時点での研究結果をまとめると、「適所・適量・適切運用なら抑止と証拠確保に資するが、過度な屋内監視は学校風土を損ない得る」といえるでしょう。したがって、目的・設置位置・保存期間・閲覧権限・使用条件を明示し、透明性を高めることが不可欠です。
カメラだけに依存しない多層防御を
そもそも盗撮の動機は性的興奮、スリル、支配感、ストレス対処の誤りなど多様で、衝動性が高い群も存在します。防犯カメラは、初犯・潜在的加害者には抑止が効きやすい一方、衝動優位の反復者には抑止効果が限定的です。再犯防止には、防犯カメラのような「外的抑制装置」の設置だけでなく、さらなる多層的防御が必要となります。
先行研究・実務レビューは、単独の防犯より、環境設計(死角をなくす)、人的巡回、通報・相談体制の拡充、予防・教育的介入などを組み合わせた多層防御の有効性が示されています(Piza et al., 2019; LPI, 2018/2023)。
さらには、教員が職員室外に私物のスマートフォンを持ち込めないようにする、児童・生徒とのSNSなどでのやり取りを禁止する、密室での個別指導をできるだけ回避するなどの方策も考えられます。
みよし市の事例は、公共空間(廊下)中心・限定利用・第三者関与という望ましい設計原則を備えているといえるでしょう。しかし、導入後の生徒の安全感・学校風土・事案発生率の推移等を継続評価し、結果を公開して改善サイクルを回すことが、全国的な防犯カメラの実装に資することにつながるでしょう。
主要参考文献
• Johnson SL et al. (2018). Journal of School Violence, 17(3), 354–367.
• Learning Policy Institute. (2018/2023). Safe schools, thriving students.
• Piza EL et al. (2019). Justice Quarterly, 36, 1–31.
• Welsh BC & Farrington DP (2008). Campbell Systematic Reviews, 2008:17.