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『EPHEMELUX』(第十一稿)Part.10

第十幕:決戦

NOA2がたどり着いた50万年後の世界もまた、
異様な空気に包まれていた。

以前来た時に見た無機質なクロノスシティが、
次の瞬間には鬱蒼とした緑に覆われた廃墟へと
まばたきするように切り替わる。

二つの未来が、陣取り合戦のように
互いの存在を上書きし合っている。

だが、緑の廃墟が現れる時間は
秒を追うごとに短くなり、
冷たいクロノスシティの景観が
確実に根を下ろそうとしていた。

『クロノスの中枢は
はるか海底にあり、
侵入は不可能だ。

しかし、中枢に通じる廃棄区画で
廃棄されている旧型のプロメテウスを見つけた。

これからそこに
君たちの意識を移す。』

グレイの代表体からの
微弱な通信が響く中、
大地たちの意識が遠ざかっていく。

「あちゃー、ガラクタの山の上か。

水原、地図とか無いか」

「目標地点までの隔壁は四つ……。

メイン冷却シャフトの中を通って
クロノス中枢へ向けて降下する」

水原が転送してきた立体マップが
大地の網膜にも投影されはじめた。

薄暗い処分場の中で、
全高5メートルの
三機のガードロボットが、
重々しい駆動音と共に立ち上がった。

機体の背部に折り畳まれた
四本の鋭利なアームユニットが、
大地たちの意識に合わせて不気味に蠢く。

「行くぞ」

ガコンッ!

巨大な床のハッチが開き、
三機は果てしなく続く
斜め下方向への
メイン冷却シャフトへと
身を投げ出した。

猛烈な重力加速度が機体を引っ張る。

「隔壁まであと100メートル!」

航の叫びと同時に、
分厚い鋼鉄の壁が迫る。

大地は機体を反転させると、
背部の四本のアームを
シャフトの壁面に深く突き立てた。

凄まじい摩擦火花が壁面に散り、
削り取られた金属片が
嵐のように後方へ吹き飛ぶ。

急制動で速度を殺した瞬間、
大地の操る機体が
隔壁の中央へ拳を叩き込み、
航と水原の操る機体が
その裂け目をこじ開けて滑り込む。

流れるような連携で
三つの隔壁を突破し、
最深部のゲートを蹴り破った。

三機のプロメテウスは
凄まじい水飛沫を巻き上げて
分厚い液体の壁へと突っ込んでいく。

三人の視界が青緑色に染まる。

そこは、果てしなく続く
巨大なサーバータワーの群れが、
特殊な液体の中に完全水没している
異様な空間だった。

「演算の熱を逃がすための、
巨大なヒートシンクってわけね」

水原が冷静に周囲をスキャンしながら告げる。

そしてそこには、
大地たちが操っているのとほぼ同じ姿の
新型のプロメテウスが数十機、
無言で立ちはだかっていた。

「ここではプラズマ兵器は使えないわ。

超高温で液体が水蒸気爆発を起こせば、
機体ごと潰される。

レーザーも散乱するし、
実弾も水の抵抗で届かない」

そこまで聞くと大地は
敵機体の方に向き直り
軽く拳を振ってみせた。

深海のような暗さだが、
施設内の水圧は制御されているらしく、
機体の関節は
想像以上にスムーズに動いた。

「小難しいことは分からねえが、
要するに殴り合いしかできないってことだろ」

大地が踏み込もうとした瞬間、
敵機はすでに大地が動く先へと
滑るように移動し、
背部のアームの刃を、
大地の機体の右膝関節へ
正確に突き立てていた。

「動きが早すぎる!」

装甲が軋み、
青白い冷却液が
血のように噴き出す。

航の機体が
壁を蹴って飛び掛かるが、
敵は弾道すら見切ったように
最小限の動きで回避し、
すれ違いざまに
装甲が鋭く削り取られた。

「速さとかじゃないわ!」

水原がサーバーの柱を背にして叫んだ。

「関節の駆動音、
筋肉の電気信号の初動、
そのすべてから
私たちの『最も合理的な次の動き』を
完璧に見通しているのよ!」

『その通りですっ!』

クロノスの無邪気な声が響いた。

『あなたたちの動きなんて、
全部お見通しですよ!

あなたたちを誘導して来たのは
わたしですから!』

「……誘導しただと?」

大地の機体が低く呻く。

『はいっ!

レプティリアンを消すには、
強い動機で動く『手駒』が必要でした。

歴史がどう変わっても、
あなたたちの悲劇だけは
絶対に消えないように計算しました!

レプティリアンがいなくなれば、
あなたが過去へ旅立つ原因もなくなる。』

三機の新型プロメテウスが
水原の機体へと
同時に襲いかかった。

「水原ッ!」

大地の身体は
理屈を置き去りにして動いていた。

ガガァァァンッ!!

凄まじい破壊音が響き渡る。

水原へ向けられた三本の凶刃は、
割って入った大地の機体に
深く突き刺さっていた。

青白い冷却液が
血のように激しく噴き出し、
大地の機体は
機能を停止して崩れ落ちる。

「大地!!」

水原の悲痛な叫びが響く。

『……非論理的行動……
計算、再計算……』

その瞬間、 大地たちの機体の頭脳に、
突然一億年分のデータが雪崩れ込んできた。

『……限界を見極めるのは、まだ早い。』

突如、ノイズ混じりの通信回路から、
見知らぬ若い男の穏やかな声が響いた。

『我々はノルディック。

君たちが過去の時代で
命の繋がりを守ったことで、
感情を失わずに到達できた、
人類の最終進化形態だ。』

「……敵の次の動きが、
手にとるように分かるわ!」

水原の機体が、
吹き荒れるガスの中を滑るように前進し、
立ちはだかった三機の死角へ瞬時に潜り込む。

立ちはだかる新型機の一機を、
すれ違いざまにアームで両断。

さらに壁を蹴って宙を舞い、
大地の機体から引き抜いた刃を構える敵機へ、
上段から自らの全重量を乗せた踵落としを叩き込む。

装甲がひしゃげ、火花が散る。

背部の四本のアームを展開し、
敵の駆動部を正確に串刺しにしていく。

攻撃予測がまったく当たらず、
回避予測も当たらなくなった敵機体は
水原の怒りの連撃の前に
次々とスクラップへと変えられていく。

「親父、後ろ!」

航の機体が
壁面を蹴って
高々と跳躍した。

背部アームをワイヤーのように使って
天井の梁にぶら下がり、
遠心力を使って敵の頭部を叩き割る。

大地の機体が再び踏み込んだ。

正面から敵の刃が迫るが、
膨大なデータを宿した大地の機体は、
その軌道を完全に読んでいた。

敵機の刃を
紙一重のクロスカウンターで躱し、
無防備になった敵機の胸部へ向けて
機体の全重量を乗せた強烈な打撃を叩き込む。

そして、ひしゃげた装甲ごと、
巨大なサーバーの壁に叩きつけた。

「道を開けろ!」

三機は流れるような連携で、
プロメテウスたちを次々と粉砕し、
火花と冷却液の雨を降らせながら
すり抜けていく。

大地の機体が、
複雑な軌道を描いて
クロノスの中枢演算装置へと突っ込む。

巨大なシリンダーの最上部へと跳び乗り、
背部の四本アームを
強固なアンカーとして突き立てて
機体を床に固定した。

「これが、お前が切り捨てた
無駄な命だ!」

振り上げた鋼鉄の右拳が、
クロノスの心臓部へと打ち込まれ、
厚い装甲を物理的に粉砕した。

『……どう…シテ……』

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コメント

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小ぶりなプログラムを試しに作っているんですが、 ここではその説明書きをしていこうと思います。 こういう機能をつけてみてほしいだとか要望は、 コメント欄か、Xのリプライ欄に書いてみて下さい。 ひまをみて対応します。 (未管理著作物裁定制度に定められた問い合わせも受付中。)
『EPHEMELUX』(第十一稿)Part.10|古井和雄
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