「初めてなので自信がない」
手術ではA医師が主に執刀し、ベテランのB医師が助手を務める予定だった。
ところが、のちにXさんがB医師から聞いたところによると、手術が始まったとたん、A医師は「この手術は初めてなので自信がない」などと言い出した。そのため、2ヵ所あった患部のひとつをまずB医師が執刀して手本を見せ、A医師に引き継いだという。
それからほどなく、悲劇は起きた。A医師がドリルで骨を切削していたとき、刃が脊髄の一部を巻き込んでしまったのだ。裁判にあたってXさんが入手した手術中の映像には、刃先に白っぽい神経が絡みつく痛ましいようすが映っている。
「手術は昼すぎには終わると聞かされていましたが、ミスの処理のためか、母が病棟へ戻ってきたのは19時半すぎでした。病院側から、何が起きているのか説明は全くありませんでした」(Xさん)
手術を終えて出てきたA医師は憔悴していた。別室へXさんを連れてゆき、説明を始める。
「手術中に問題が起こりました。ドリルの先端が硬膜(脊髄を覆う膜)に当たってしまい、神経が飛び出したので、もとに戻したのです。現段階では神経が切れたかどうか、後遺障害が残るかどうかわかりません」
だが、実は手術終了直後から、Xさんの母は「足が動かない」と訴えていた。しかも、後日開示されたカルテには、A医師自身がこう記している。
〈硬膜損傷後1時間ほどしてMEP(注・手足の筋肉が動くときに神経に流れる電流)が消失した〉〈術後、右足関節の動きが低下。右下腿末梢部以遠の感覚脱失していた〉
A医師がXさんに伝えたのは、控えめに言っても「希望的観測」としか言えない説明だったのだ。