坂本真綾×奈須きのこ対談|「FGO」にとって坂本真綾は“輝ける一番星” 11年の旅の「余韻」を込めたベストアルバム (3/3)

第2部終章の後に用意されたもう1つの物語

──改めて、第2部終章を終えられた今のお気持ちをお聞かせください。

奈須 初めて連載形式の物語を10年間かけて携わったのはすごく大きな経験でしたし、こんなこと続けたら死んじゃうぜ!とも思っています(笑)。とはいえ、おそらく人生で一度きりの仕事だったので、第2部終章を終えた今、解放感というよりは……自分なりによくやったじゃないか、という自己肯定でしょうか。奈須きのこという物書きがここまで育つために使ったエネルギー分の仕事ができたと思います。人間は偉大にならなくていいなんて言いながらも、やっぱり何か偉大な、自分の能力値よりちょっと上のことをしたいと思うものですが、それができたので、後はもう自由に生きていいのかなと。

──本当に予想外で、でも素晴らしいエンディングでした。今でもふとした瞬間に思い出して涙があふれそうになります。

奈須 たくさんのユーザーの皆さんと、最後まで望んだ通りの形で駆け抜けられて「本当になんて気持ちのいい奴らじゃ」という気分ですね。「ルパン三世 カリオストロの城」の銭形の気分。気持ちよく去っていったみんなを見送るような、そんな気持ち(笑)。でも、もう二度とこんなキツいことはしたくない!って思っていたのが、2025年12月31日でした。

──現在は?

奈須 年が明けて、これで仕事が減る!と思ったら、仕事が増えている。話が違うじゃねえか!

一同 (爆笑)。

奈須 でもこれは、あらゆるアーティストが味わっているんだろうなと思います。本当に創作から離れて生きていくって決めない限りは、永遠について回るんでしょう。

坂本真綾

坂本真綾

──坂本さんはいかがですか。

坂本 実はまだけっこうセリフの収録で呼んでいただいていて。「余韻」って早かったのかな?(笑)

奈須 (小声で坂本に囁きながら)まだやるよ! 逃さねえ……!

坂本 ふふふ(笑)。でも、やっぱり心の中で1つゴールを決めて走り抜けるのもすごく大事なことなので、奈須さんが充足感と達成感を感じる瞬間があったならよかったです。クリエイターとして、10年間生み出し続けるって本当に大変だと思うんですよ。私はただ歌を歌っていただけですけど、奈須さんが曲からインスピレーションを受けてくださる方だとわかってるから、奈須さんがんばれ!って気持ちで応援歌みたいに曲を作っていました。だから第2部終章まで走り抜けることができよかったし、その余韻は別にいくら長くてもいいだろうって。

──そうですね。

坂本 10年って、10歳も歳を取ることなので、年齢とともに価値観や世の中が変わったりして、自分のしたいことも変わってきたりする。そんな中、自分の30周年のタイミングとも重なってこれから先また新しいステージを想像できた。そういう節目をともに味わえたっていうのは、すごく意味のあることだったと思います。最初は物書きである奈須さんがいるのに、私が歌詞を書いていいのかなって思いながら始まった「FGO」でした。でも10年の歩みの中で、こんなに信頼していろいろ書かせていただいたことが、作詞を仕事にしている者としても非常に自信につながったし、鍛えていただいた場でもあるので、すごく感謝しています。また何かあればいつでも言ってください(笑)。

奈須 また無茶振りしていいのか!?(笑)

──あはは(笑)。1つ大きな節目は迎えつつも、今は新たなメインストーリー「アフタータイム」が展開されていますよね。

奈須 第2部終章でいい体験をして、次のステージに行く前に、やっぱりこれだけ愛したものだから、まだもうちょっと味わっていたいという思いを去年の夏くらいからスタッフさんからもユーザーさんからも感じていて。なので、後夜祭のつもりで作ろうということになりました。寂しいけど、最後にみんなで一緒に楽しんで、手をつなぎながら本当のお別れをしようという雰囲気で作るのだったら、まだちょっと続けられるなって。それでそのままプロットを作ったら、悪い癖でどんどん大変なことになっていって……(笑)。

──それはファンとしてはうれしい情報です。ところで以前、奈須さんは第2部終章終了後のパターンを2つ考えているとお話しされていましたが、もう1つの案はどのようなものだったのでしょう。

奈須 現在はみんなの意思で「FGO」を終わらせた結果の物語が展開されています。もう1つは「『FGO』に終わってほしくない! 正義とかどうでもいい! 俺はこのゲームでずっと遊ぶんだ!」っていうユーザーさんが半分以上いて、レイドが終わらなかったときのパターンですね。レイドが終わらなければ、ラスボスは倒せないけど、「FGO」は続くんですよ。そうなったら、ラスボスは健在のままカルデアの物語を続けるパターンが展開されていました(笑)。

──ちょっと見てみたい気もしますけど(笑)。

奈須 でもそのパターンを作るほうは地獄だよ。だってそうでしょ? 「自分が楽しければ世界の平和なんてどうでもいい」なんてビースト化したマスターたちをどう楽しませろと言うんだ!

一同 (爆笑)。

奈須 ただ、仮にそのパターンになったとしてもそれはユーザーさんの選択だから。先ほど坂本さんがお話しされていましたけど、第2部終章では自分が選択して選んだ道以外は、全部消えてしまうのかっていう、究極の選択をゲームでやろうとしたんです。どちらのエンディングを選んでも、ユーザーさんの選択だから文句は言えない。ソーシャルゲームとしてその決断をみんなに問うことができれば、「FGO」というゲームは体験として意義があるものになるはずだと。実際、多くのユーザーが自分の意思で終わらせてくれたのでよかったです。

──すべてを取り戻したいけど、終わってほしくないという複雑な思いはありましたけどね。

奈須 SNSの高度な情報戦で、「レイドやらないほうがいいよ!」とか「放置すれば『FGO』は終わらないんじゃないか」とか言われたら、やめろー!って言ってたと思います(笑)。でもね、うん。楽しかったよ。苦しかったけど、めちゃくちゃ楽しい10年間でした。

──まさに「余韻」が続いていますね。

奈須 「余韻」が「網羅」にならないようにがんばらないと。

坂本 あはは(笑)。

「FGO」にとって坂本真綾は“輝ける一番星”

──11年一緒に歩んできて、坂本さんにとって「FGO」はどんな存在になりましたか。

坂本 声優としてももう引き出しがありませんというくらい、いろんな引き出しを開けてきましたね。同じキャラクターの別クラスとかがどんどん出てきて(笑)。作詞の面でも、歌の面でも、今までソリッドな曲はそんなに多くはなかったので、激しくてドラマチックな楽曲たちが「FGO」から生まれたことで増えていって、私の中の1ジャンルになりました。この30年の歌の仕事の中でも、新しいものを開拓させてもらった10年間だから、本当に鍛えていただいたと思っています。「色彩」を初めてライブで歌ったときは本当に難しかったし、「逆光」も「躍動」も全部難しい曲なんですけど、今や歌うのが快感になっている。自分の中では成長の場として過ごさせてもらった10年でした。

坂本真綾

坂本真綾

──逆に、「FGO」や奈須さんにとって坂本真綾さんはどのような存在でしょう。

奈須 ジャンヌ・ダルクを演じていただいたのもあるんですが、一番初めに先頭に立って旗を振ってくれた人で、まだ「FGO」が形も見えない頃から勇気を持ってプロジェクトに全力で関わってくれた。この人がここまでやってくれるなら、いいものになるに違いないってみんなが思ってくれたんじゃないでしょうか。そういった意味で、坂本さんは本当に輝ける一番星だと思います。

──輝ける一番星。ぴったりだと思います。

奈須 仮に「FGO2」を作るとしたらテーマは違うものを作るだろうから、「FGO」で固まった坂本さんの強烈なイメージに話を合わせられないので大変だろうなって。それくらい坂本真綾というアーティストは、何があっても外れてほしくない輝ける一番星なんですけど、奈須きのこから見るとまた違って。

──と、言いますと?

奈須 まだ関わりがなかった頃は、僕にとって温かな太陽だったんですよ。それからキャストを引き受けていただいて、ご縁ができて、ライブに初めて行ったときの印象は、めちゃくちゃ速くて眩しいシューティングスターでした。ハッピーな空気を放ってるんだけど、自分勝手ではなくて。「みんなも幸せになれ!」って空気がすごくて、スター性に惚れ込んでしまいました。何度も何度もライブを観るうちに、シューティングスターだと思ったり、輝く太陽だと思ったり……。本当にキラキラしたものを見ているという印象がずっとあります。

坂本 (謙遜して首を振る)

奈須 坂本さんが出演されたミュージカル「ダディ・ロング・レッグズ」も素晴らしかったんですけど、こんなすごいものを見ることができるのは、ここにいる人だけなんだ。そうか、これが人類史なんだって思って。ものすごい才能のある人が、ものすごい愛情で作った素晴らしい2時間30分を体験できるのは本当にひと握り。それは特別な人じゃなくて、誰もがそういう素晴らしいものに出会っては消えていく。それを知っているのは、その場に居合わせた者だけって。それってすごく切なくて虚しいことでもあるんだけど、なんて尊いんだと思って涙ぐんでしまいました。この経験を作品にも活かそうと思いましたね。

坂本 うれしい……! ありがとうございます。

奈須 それくらい、坂本真綾というアーティストの発する光は、生で見るとすごいんですよ。そんな人がいるということが創作の励みになって、シナリオのクオリティも1段階上がったと思います。坂本真綾というアーティストは僕を成長させてくれたから、自分にとってはマシュと一緒で、“神の恵み”だったのかもしれません。

プロフィール

坂本真綾(サカモトマアヤ)

1980年3月31日生まれ、東京都出身。幼少期より劇団で活動し、自身が主人公の声を担当した1996年放送のTVアニメ「天空のエスカフローネ」のオープニングテーマ「約束はいらない」で歌手デビュー。以降コンスタントに作品を発表する傍ら、声優、俳優、ラジオパーソナリティとしても活動している。2025年10月にデビュー30周年記念ベストアルバム「M30~Your Best~」を発売し、2026年4月には記念ライブを開催。声優としての主な出演作品に、「空の境界」(両儀式役)、「エヴァンゲリオン」シリーズ(真希波・マリ・イラストリアス役)、「〈物語〉シリーズ」(忍野忍役)、「攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL」(草薙素子役)などがある。

奈須きのこ(ナスキノコ)

1973年生まれ。シナリオライター、小説家。ゲームメーカーTYPE-MOON所属。中学時代からの同級生である武内崇らと、1999年に同人サークルTYPE-MOONを結成し、2004年に商業ゲームメーカーに移行。代表作に「月姫」「Fate/stay night」「空の境界」「Fate/Grand Order」などがある。