坂本真綾×奈須きのこ対談|「FGO」にとって坂本真綾は“輝ける一番星” 11年の旅の「余韻」を込めたベストアルバム (2/3)

泥だらけで戦う人の思いを抽出した「逆光」

──第2部終章を終えたこのタイミングで、特に掘り下げたい楽曲についてもお伺いできればと。まず「逆光」ですが、第2部の終盤でオルガマリー・アニムスフィアの思いを歌った曲であると判明しました。改めて制作時のお話をお聞かせいただけますか。

奈須 10年前くらいの話になるんですが、坂本さんの心が闇に染まっていたのか「今は光に満ちた明るい歌を歌えるテンションじゃないんです」とお話しされていて。

坂本 その頃は別の創作活動で光を使い果たしちゃっていて、私の中には泥のようなものしか残ってない状態だったんです(笑)。

奈須 ふふ(笑)。でも「第2部は暗い話なのでちょうどいい」と思って、第2部の漠然としたイメージを伝えました。ただテーマとして伝えたこともあります。嵐の向こうで泥にまみれながら1人で戦ってる子がいて、その子のことは誰にも見えない。でもその子は、同じく嵐の向こうでがんばっている人がいるから、それだけを頼りに意地を張ってがんばってる。そんな女の子の話なんですよ、という話をして、気持ちのいいヒロイックな曲でありながら、最後のほうにその意味がわかるように隠してほしいと言ったかな。「色彩」でやったように、ユーザーが最初は「カッコいい曲だ」と思っていた曲で、最後の最後に衝撃を受けてもらうっていうのをもう一度やりたくて。

──その時点では、シナリオの細かい部分までは決まっていなかったんですよね?

奈須 そうですね。手術室でひどい目にあったことはお話ししましたが、まだ細かく説明できるほどの状態ではなかったので、本当に全体のイメージと、やりたい仕掛け、オルガマリーというキャラクターがテーマだということを押し付けて、「あとはよろしく!」みたいな状態だったかと(笑)。

──難しい要求を(笑)。そんな中、オルガマリーの思いをどうやって歌詞にしていったのでしょう。

坂本 第2部の大筋と、必要とされているテーマ、歌の主人公、その人が何を思っているかというところだけを抽出していきました。私の中に残っていた泥がちょうどこの曲のテーマに合っていて活用できました。泥だらけで必死になって奮闘している人は、自分ではつらいし惨めな気持ちになるかもしれないけど、他人から見たら美しい姿に見えるということが書けたらいいなと。みんなオルガマリーほどの孤独ではないにしても、「こんなにがんばってるのに誰も事実を知らない」というモヤモヤや虚しさを感じながら置かれた場所で戦い続ける経験をしているかもしれない。孤独な戦いって決して遠い話じゃないなと思ったから、自分ごととして書けた部分もありますね。

──なるほど。

坂本 全体的に壮大で、「戦う」というイメージのワードは多くなりますけど、多分「生きる」ことと「戦う」ことが同義語みたいになっていて。ファンタジーではなく、自分に落とし込んでみんなが聴いてくれる曲になったかなと思います。これまでの曲の中でも「逆光」は一番泥臭い戦いをしていて、自分でもすごく気に入ってるんですが、こういう楽曲は作品に背中を押してもらわないと絶対に生まれないなって思いました。「絶望のほとり」みたいな歌詞は、自分のアルバムのための曲では絶対に出ない。

奈須 あの状況を「絶望のほとり」って表現するんだって、びっくりした。本当によかったです。

坂本 作品の世界観によって歌詞が引き出されるのが面白いですよね。奈須さんとのやり取りは、アニメの主題歌やテーマソングを作るときとは全然違うんです。アニメでは原作があったり、脚本ができあがっていたりするので、どの話数が来ても合うように作るんですよ。でも物語が更新されていくスマホゲームだからこそ、曲が並走していける。曲を作りながら、ユーザーの皆さんも楽しみながら、奈須さんも物語を書きながらみんなで進んでいって、その先にまだ見ぬ結末があって。奈須さんは音楽との合致を考えながら書き進めてくださるから、音楽と物語が普通じゃない噛み合い方をしていくので、ユーザーさんに対しての説得力がすごいんです。

坂本真綾

坂本真綾

──「逆光」は本当に噛み合いすぎて、種明かしされたときは「坂本さんはどこまで知っていたんだろう」と思いました(笑)。

坂本 知らないです、知らないです!(笑) 私も当時はふわっと概要しか聞いてませんでした。

奈須 打ち合わせしたときは第2部第1章だって始まってないから(笑)。

坂本 でもユーザーさんが事前に歌詞を見て、想像する時間も楽しみながら、最後に思わぬ角度から答えが来て膝を打つみたいな、独特な快感が「FGO」の楽曲にはありますよね。

──ある種の考察コンテンツのようになっていますね(笑)。奈須さんは「逆光」を最初に聴かれたときの率直な感想はいかがでしたか。

奈須 Cパートの開放感がすごくて、「ここまで気持ちよくしていいんだ!」と。つらい、戦う、キツい、でもがんばる……というところから、そんな状況でも最後にさらに高く飛ぶというか。あの気持ちよさにはめちゃくちゃ感動しました。

──「逆光」は第2部のラストバトルでも使用されましたね。

奈須 第2部のラストバトルは、最初から気持ちのいい戦いをしようと決めていたんですが、その演出に向けて専用の曲を作る必要があると思っていたんですよね。でも「逆光」を聴いたときに、「逆光」のインストゥルメンタルでいけると思って、そこから10年越しにアレンジしてもらったわけです。

──ラストバトルの演出は、本当に涙で画面が見えなくなるくらい泣きました。「逆光」との相乗効果もあって、思い出がより鮮明に焼き付いて……。

奈須 やっぱり音楽って、一番記憶を想起させやすいので、ここは曲の力を借りようと。スマートフォンでできることは限られているし、最新のゲームに比べたら映像的には今の一線級に及ばないけど、こっちには坂本真綾の曲があるんだから負けないぞ、と(笑)。

寂しさと誇らしさでユーザーに寄り添う「時計」

──「時計」についてもお聞かせください。「時計」は坂本さんが自ら作曲まで担当したいと希望されたそうですが、どんな思いがあったのでしょうか。

坂本 私はエンタテインメントのあり方として、ちゃんとみんなが納得する終わりを用意することも、すごく大事だと考えているんです。例えばライブ中は夢のような時間だと思ってもらえるかもしれないけど、最後は家に帰らなきゃいけない。そんなとき、「また現実が始まる」よりは、「ライブを観た後だから、何かが変わっているかもしれない」って思いながら、足取り強く現実に帰ってもらうのが私の理想なんです。「FGO」もみんなにずっと夢を見せてあげることもできるけど、一度きちんと終わらせて現実に返してあげたところが素敵だし、そこにすごく共感しました。だから勝手な思いかもしれないけど、始まりから見つめてきた「FGO」の最後のときにかかる音楽は、こういうものであってほしいという理想が私の中にあったんです。それをどなたかに作ってもらうよりは、自分が作ったほうがイメージ通りになるんじゃないかなって。

──なるほど。

坂本 今までの主題歌は依頼があって、イメージを伝えてもらって作ってきたけど、「時計」に関しては私が勝手に「最後は私に作らせてください」って言ったんです。

奈須 穏やかな曲になりますということははっきりお話しされていましたね。第1部の終わりも、第2部のラストバトルも華やかだったから、最後に穏やかな曲で締めくくるのは坂本さんらしいなと思って。だったらお任せして来るのを待とうと。

──「時計」を聴いて、どのようにエンディングのイメージを膨らませましたか。

奈須 大きなことを成し終えた後、どう明日に向かっていくか。疲れ切ったでもなく、かといって「すごいだろ」と威張るわけでもなく、自分はいつも通り、自然にこれからの毎日を歩いていくんだ。というような印象が一番大きかったです。「FGO」のエンディングはある意味つらいものなので、この曲はその喪失感を優しく受けとめてくれる。この曲があれば言葉はいらないから、エンディングムービーをシュウ浩嵩さんというこれまたすごい方にお願いして、最後の再会のシーンまで観てもらえればユーザーの気持ちは爽やかなものになれるだろう、と。そのイメージのまま仕上げました。この曲に合わせて、最後の着地点をあのように描こうと思えました。

──武内さんの反応は?

奈須 曲が届いたときに「聴いた!? 聴いた!?」って速攻で言ってきて、こいつご機嫌だなって(笑)。僕にはこの曲をどのように活かすべきかという責任があるので、喜びを90%くらいで抑えてたんだけど、ヤツはファン目線で100%喜んでました(笑)。うらやましい!

坂本 武内さんはこのアルバムのために、ジャケットの裏側にも東京駅の絵を描いてくださって。東京駅はユーザーさんにとって思い入れのある場所になっていると思うので、CDを外してその絵が現れたら、ハッとすると思います。お忙しい中、お願いした以上に描いてくださって、本当に「時計」という曲に思いを寄せてくださったんだなと感じて、すごくうれしかったです。

坂本真綾

坂本真綾

──こんな仕掛けが……! 私も終章を終えてすぐに東京駅に行きましたが、エンディングに登場する看板に人が集まっていたのが思い出深いです。ちょっと目が合って、「俺たち、やり遂げたな……!」みたいな空気が流れたりして(笑)。今や「FGO」の聖地の1つですね。

奈須 誇らしいみたいな空気感があったんですよ。僕も行こうかと思うくらい気持ちが上がっていたんですが、「締め切り」という4文字が大きく頭をよぎって行けなかった(笑)。行きたかったな。

──それほどエンディングがユーザーの心に響いたのだと思います。優しい歌詞に心打たれた人も多いと思うのですが、どんな思いで作詞されたのでしょうか。

坂本 終章が終わった後に、なんて言われたらうれしいかなと考えました。がんばれって言われるのも嫌だし、複雑な気持ちになる時間を何かで埋められたくもないというか。11年という年月のひと区切りを見た後、みんながエンディングをぼんやり眺めているときに、そこで邪魔をしない言葉でありたい。ただただ、寄り添っていたいという気持ちでした。

奈須 強い言葉を使うんじゃなくて、寄り添う。それであんなに素直にエンディングムービーを観ることができるんだな。

──個人的には、「なんの変哲もないただの一番星を 兆しと受け止めるとき 秒針は動き出すんだ」というフレーズが印象的でした。

奈須 世界から承認されることはない。自分も何も覚えていないけど、何かすごいことをしたんだという小さな希望というか。胸に灯る星みたいなものしか残りませんよと、坂本さんには伝えたかも?

坂本 誰のためでもなく、自分が納得して進むということをテーマにしたいなって思って書いていました。日々目に映るものは、なんの変哲もないいつもの景色なんだけど、その中に自分へのメッセージがあるかもしれない。それをどう受け取るかは、自分次第というようなことを書きたかったんです。

坂本真綾

坂本真綾

──ご自身で気に入っているフレーズはありますか。

坂本 「旅人がみんな勇敢なわけじゃない」というのはすごく気に入っています。物語の主人公は選ばれし存在って思いがちだけど、なんでもない誰かの物語が、いつか英雄の話として語り継がれてきたように、なんの変哲もない人間だからこそ、その人生をただ懸命に生きていくという思いを込めています。

──「FGO」を象徴するようなフレーズですね。奈須さんは歌詞にどんな印象を持たれましたか。

奈須 「寂しいけど誇らしい」ということですね。最初はすごく静かで、悲しい印象から始まって。でもどんどん前向きな感情になって、最後に「真白に広がる 次のページへ」と、扉を開けて次の場所に向かって、光に満ちた終わりを迎える。僕らの人生においても、大きな仕事を終えた後、充実感と同時に喪失感があって、それでも次の充実感を得るためにやっていく。人生はそういうふうに回っていくんだというメッセージを受け取りました。本当に優しくて、それでいて顔を上げたくなるような曲です。

──奈須さんのお気に入りのフレーズはどれでしょう。

奈須 ゲームでもセリフに取り入れましたが、「思い描いてたさよならとは少し違ったね」というフレーズを寂しく、かつ優しく歌っているところが、一番好きです。自分の人生も、そんなことばっかりだったので。それでよかったんだという気持ちと、思い描いたようにはならなくて、欲しいものは手に入らなかったけど、それ以上に必要なものを手に入れたんだと。そこが一番“奈須きのこ的”だなって。

──「ひとつ選んだら 他の未来は捨てて 失うのかな それとも そのひとつを守る 見えない盾になるの」という歌詞も、マスターとマシュの選択と歩みが表現されているようで、ジーンときました。

坂本 ずっとマシュの武器が盾だということに意味を感じていて、それが「色彩」を書くときから私の中では大きなヒントになっていました。人生には選択を迫られる場面があって、実は選ばされているようで選べない。自分自身、1つを選んだらほかのイフは全部失って、私からなくなるんだと思って、苦しい思いをしたこともあったりして。でも選ばなかったものは消えるわけじゃなくて、選んだ1つがうまくいくように守ってくれていると思えたときに、マシュがそこに活きてくるなと感じたんです。人生の選択において私が抱えていた思いと、ユーザーさんが第2部終章で迫られる選択が重なって浮かんだ歌詞でした。

──あえてお伺いしますが、「時計」の歌詞は誰の視点で書かれましたか。

坂本 やっぱりマスターですね。1つ大きな旅を終えての視点かなと。

奈須 僕も、「色彩」がマシュ、「逆光」がオルガマリー、「時計」はマスターというのは、本当にその通りだと思います。

──ここまでお話を伺って、本当にエンディングのために書かれた歌なんだなと感じました。が、念のため聞かせてください。「時計」というワードは、どうしても今進行している「運命の三女神編」を連想しちゃうのですが……!

奈須 関係ないです!(笑) 「アフタータイム」のテーマを時間にしようって決めたときには、すでに「時計」という曲はあったので、本当にただの偶然です。アフタータイムが発表されて、時計のビジュアルが出たときに「やっぱり『時計』は『アフタータイム』と関係があるじゃないか!」ってユーザーさんから反応があったんですが、違う、違うんだ!って(笑)。

──よかったです(笑)。「時計」は安心して聴いてくださいということですね。