宛先不明の心臓
新年早々がこれからスタートっていうのはどうかと言う感じですがあけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
書きたいものアンケート調査で一番多かったの話より。
ネガティブ弓さんが影弓や士郎を羨ましく思う話。
別の人間と思っているから、自分は相手の思ってる存在じゃないと強く拒絶態勢になってしまい好きが通じない人なネガティブ弓です。かっこいい人など一人もいない。
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同じ一人のマスターに従い共通の敵を持つ。長いグランドオーダーの旅路は聖杯戦争の短いけれど凝縮したあの時間とは違いゆるゆると流れる。
そこには、仲間同士の連帯感も親愛も生まれるに足る時間で、新たに絆を作るには十分すぎる時間だろう。始めにエミヤが苦手と告げたランサーのクーフーリンや金色のアーチャー(こちらは未だ子供の姿と賢王しかいないため比較にはならないが)とも普通に会話する程度になれている。
あまり得意ではないが、酒宴につまみを作った流れで参加させられそこで共に話をすることも構わなくなっている。大体、ここにいるものの殆どは物語で見た英雄たち。只人である己には到底近寄れないような存在だ。断るのも数が増えれば無礼になるだろう。
だから気安く話しかけてくる顔見知りの存在に他よりも口が軽くなることも、そして、そこまで機密事項というわけでもない元の名前を話したのも、ただ普通の人であった自分を知っている者達だから、何者かの説明がいらないで済む、それだけの理由で何度目かになる「何者だ」という問い掛けに自身から答えた。これに答えればもう必要以上に何か声をかけてくることもなくなるはず、という思いもあったが。
「君らも知ってる通り、あの聖杯戦争のエミヤシロウの成れの果て、可能性の一つさ」
「やっぱりね。でも、残念ね。ここにあの貴方のセイバーがいたら喜んだでしょうに」
察しが良く、この真名が知れた時点で予測のついていたらしいメディアの言葉に肩を竦めると、空になっていた彼女のグラスにおかわりを何か入れようかと手を差し出す。
「彼女の想う衛宮士郎は私ではないよ。それに、原点は衛宮士郎だとして、もはや私はあの未熟者とは全く違うものだ。あれとの同一視は止めてもらいたいものだな」
メディアに冷えた紅茶を渡しながら釘を指すように睨むと、困った坊やだことと笑う魔女を無視して先程から感じる強い視線に煩わしいという思いを隠すことなく顔に出しながらそちらを向けば、ランサーだけではなくキャスターのクー・フーリンと言う予想以上の視線にエミヤもひくりと口許をひきつらせ思わずたじろいだ。
「な、何なんだ? ランサーだけではなくキャスターのクー・フーリンまで揃って・・・」
二人揃って行動など常にはしてないだろうに、なぜここに貴様ら揃って居るんだと睨み付けるが、ニヤニヤとした笑みに眉間に寄る皺が深くなっていく。
「あの坊主が立派になったもんだなぁ! しっかし、性格はこんなひねくれんでも良かったろうに」
「あれと、私は違うと言っておるだろうが! 貴様の耳は飾りか? 失礼、それとも脳みそがおがくずだったか」
「んだと、コラァ」
煽れば噛みついてくる相手に安堵してこのまま争いの勢いで席を外れても良いだろうと思っていたエミヤの目論見を挫くように、ランサーの顔を片手で鷲掴み止めさせたキャスターが穏やかに笑いながら諌め取りなしてくる。
「只人がよくそこまで至ったって、ことだろ。そんなに牙を剥くな」
キャスターの目が細められて笑みを浮かべているが、どうにもあの目は笑っているように見せかけてこちらを探るようでランサーのように挑発にも乗らず得体の知れなさをエミヤに感じさせる。警戒が表に出れば苦笑と共になにもしないと囁かれるが、それで警戒が解けるならこのようなモノになっているわけがない。
「とにかく、私の存在が何者かということは知れただろう。そして、神秘の無い時代に・・・このようなアラヤの守護者となったのだと。だから、君らのような英雄と私は違う存在であるという事を理解していただければありがたいな」
偉業があるわけではない。むしろ記録としては一人の悪人として名が乗っただろう。しかし、死の前に願い辿り着いてしまったアラヤとの契約。人類の守護者それによりサーヴァントとなった。それで、話は終わりだとばかりにそそくさとその場を後にすれば、これ以上深くかかわられないはずだった。それが一体どうしてこうなってしまったのか。
その時から何故かやたらとクー・フーリン達が構ってくるようになったのは、エミヤの最大の謎であった。
お前の事を放っておけない。アイツのようになるな、などと言ったのはどちらのクー・フーリンだったか。あれから何かにつけ声をかけてくるようになった二人のクー・フーリンは時々案じるように顔を見つめる事があり、それがまたエミヤの心をささくれだたせた。
特異点F。ここで聖杯の泥に汚染された英霊エミヤはアラヤの使命ではなく、泥により反転した騎士王の為だけの存在として生きていたという。
守護者としてそれは起きてはいけない事態であると同時に、理想に裏切られて自分殺しを行い存在を消したいと願った事もあるエミヤとしてはなんとも羨ましい話である。守護者としての自分は、きっと今でもこのカルデアが人類の為にならない組織であると判断が下り命が来たとしたら、何を相手取ってもここを潰しみな殺すだろう。それくらいに守護者として縛られている。
泥に侵されたことでできないことをやってのけたその分霊を、仕方のない奴だと少し慈しむように呟いた衛宮士郎が憧れた英霊は、やはり正義を目指す余りに人殺しに成り果て、裏切りやプライドなど今更要らぬ物をどうしようと構わないと、少しでも多くの人を救うために少数を殺す守護者よりも、みんなではなく誰か一人を守るという、人間らしい存在の方が聖杯戦争中の敵とは言え好ましいのだろう。
「私には、関係ないことだ・・・」
そう、冬木の話を聞いた時、自分にはそんなことは起こりえない関係ない話だと思っていた。どこか優し気な目をしてそんな話をしていたキャスターのクー・フーリン。それを聞いていたエミヤ自身とランサーのクー・フーリン。
あの時、どちらのクー・フーリンが言ったんだったか。どちらにしろ、なるなと言いつつも己の中に居なくなったその一人を思う影が無いか探る視線を感じたのだけは事実だった。
あれから何度目かになる、あの時の感想の言葉を呟いて暗い部屋の中で膝に抱えて呟くなんて子供みたいな行動も、見る人もいないこの場限りならば許されるだろう。もう、自分はあの未熟でいびつな願いを抱えていた子供ではない。その果てに来てしまった。
絶対そうはならないと宣言した、あの、いつかの聖杯戦争の衛宮士郎こそをきっとランサーは好んでいただろう。そう、はた目から見てランサーはあの衛宮士郎を気に入っていた。
このカルデアに着き、エミヤが衛宮士郎のなれの果てだと気付いた時には驚いただろうが、じっと瞳の奥を探るように見つめながらあの聖杯戦争を覚えているかと問いかける声に、ああ、この男は己の中のあの未熟者を探しているのだと理解して少しおかしくなった。
人らしく誰か一人の為にという存在が、間違ってはいるけど哀れでそうなる前に助けたかったというのも、可哀想というのは好きだから出てくる言葉とそういえば誰かが昔言っていた気がする。
同一存在であるお前は、ああなる前に今度こそオレが助けられるなと囁かれたのも、可哀想と思った相手と同じ存在があるからつい気になったということだろう。
こんなに、好かれて気にかけてもらえて消えたアレは好きにした後こんな幸せなことはないだろう。それを代わりに投げられる自分の身にもなれ、と特異点で消えた分霊に向かい怨嗟を投げても文句は言えまい。
あれから折々に言われるそれぞれのクー・フーリンからの言葉は、どう言われても自分ではない存在への言葉としてエミヤはただ投げられてはそのまま、ぽいと心の奥へおもりを着けて沈めていくことしかできないでいた。
「お前がああなる前に必ずとめてやるからな。お前だけは俺の側から離れないようにしてやる」
(そんな起きえない事を言って私を贖罪の道具に使うな)
「あの坊主がよくぞ神秘の無い時代に、ここまで上り詰めて、オレと同等に戦うなんざ大したものだ。もっと誇れ。お前はオレの唯一心臓をもらい受け損ねた相手だ」
(衛宮士郎とすれば、英霊に並ぶだけの場所に到達したという事で褒めるのだろう。しかし、ただの人殺しの掃除屋になった私は忌むべき者だろう)
笑みを浮かべ、同一存在達が笑う。気に掛ける。それは、どちらも自分ではないものなのだと言った方が親切だっただろうか。キャスターの気にかけるのは守護者から外れたあのシャドウサーヴァントで、ランサーが見ているのはサーヴァントになるまで至った衛宮士郎だ。ここに存在しているアーチャーのエミヤという守護者は、彼らの中ではきっといけ好かない腐れ縁の敵それだけだろう。
「何度、どこでだろうと、クラスが違っても出会うってことは、お前は本当にクー・フーリンの運命だな」
笑み浮かべそういうが、それは私が受け取って良い言葉ではない。だって、その受け取る相手は君らの求めるものか過去の私ではない存在で。決して自分ではない自分なのだから。いい加減、そろそろ言わなければいけないと言うのに、エミヤの口がそれを否定する言葉を紡ぎだせないでいた。
「たわけた事を言ってないで、さっさとマスターの所へ行け」
そう言って傍らに付きまとっていた相手を追い払うと深くため息を吐き出した。
誤っても好きだとか言わないでくれと切実に願う。エミヤの方には好意はある、ただでさえ憧れた英雄という存在でセイバーの次にかかわりのあった、英雄様だ。さらにアーチャーとして召喚され闘った時、あのまっすぐな赤い瞳が己を向くことに、戦って己を映し好敵手と認めることに気分は高揚した。己の存在を見てくれる、あの時無力に殺された衛宮士郎がやっとここで打ち合えるまでに強くなったと、嬉しく誇らしくもなった。
しかし、いつだってランサーの口からは「あの坊主が」とエミヤではなく、エミヤシロウを引き合いに出す。懐かしいという優しい視線と相反するように甘く焼き尽くす熱が時々籠るのに、その勘違いの恋情まで向けられるのは勘弁してくれと神に祈っても良い。
キャスターにしても、次はちゃんとといつまでもシャドウサーヴァントのになった己を気にかけている。こちらは、もしかして何かゲッシュと行かないまでも約束があったのだろうか。守り切れなかった後悔で気に掛けられて、聖杯の泥も何もないこの場所でどうにかなるわけがないというのに、とこちらは何度か諭したが、そういう意味ではなく危うくて心配で見ていたいと言われてエミヤは困惑するしかなかった。
なんて、自分で無い過去のもの達はこの光の御子に深く気に入られて心に入り込んでいるのか。これが不毛な焼餅でしかないと認めたくは無いのに、あまりの頻度にエミヤの心が軋む。己自身を見て欲しい、と。なんとも甘い拙い願いに首を振りおもりを着ける。
「運命など、消えてしまえばいい」
また今日も心の奥へ、とぷんと沈めていく。
只の魔術回路もほとんど無い、未熟な技能と突っ走ることしかできない青いセイバーのマスター。確かに殺したはずのそれが、なんの魔法か生きており聖杯戦争を生き抜きそして英霊となり今度は己の槍を防いで見せた。二度も心臓をもらい損ねているなんて、これはどんな縁よりも強い縁だと正体の知れたアーチャーについてクー・フーリンの感想は本当に運命ものの相手だったという再認識であった。赤毛で琥珀に輝く瞳が白く染まり肌の色すら魔力で焼け、瞳は琥珀からくすんだ鋼のような色に変わり、何よりどれだけの苦労を積んであの肉体になったのか、想像もつかない強い体。
いけ好かない好敵手、獲物を交えるのが楽しいそんな相手から、仲間になりそして誰彼なく博愛で世話を焼く姿にイライラした所で己はあの弓兵が好きなんだと気付かされた。それは同時に己の同一存在も同じ意識を持っているということに気付いて自分が複数いる弊害というものに直面していた。
声をかけ、お互いにどうも相手には伝わってない事だけ確認ができたが、どちらが優劣着けられているというわけでもなく、同等に嫌な顔をされているというお互いにクロスカウンターで倒れるような情報交換を行った。
「どうにも、アイツには婉曲な方法では通じないってことだけははっきりしたな」
「しかし、告白しても通じるかどうか。アレの博愛はすげぇからな」
うんうん二人で頭を突き合わせて考えても良い考えは浮かばず、むしろ浮かんだどころでお互い相手を出し抜いて先に告白してあの赤を手に入れようとするだろう。油断ならないが最大に信頼も情報交換で有益なのも互いと思っているはずだ。
「もういっそ、体から落としてやろうか・・・」
二人がかりで連れ込んで、お互いの顔見ながら行うのはいただけないが、それ以上に相手を抑えて愛を教え込むには絶好の相棒になるだろう。どちらからも愛を注がれ、言葉と行動でたっぷりと示せば、さすがにあの男でも落ちるだろう。落ちはしなくても意識はしてこちらを気にするはずだ。博愛のあれが一度懐に入ったものに甘くなる。絶対的に嫌うこともできず、言葉とその行為を思い出してきっとウンウン悩むだろう。悩むうちにクー・フーリンの事だけ考えるようになれば良い。
悪い計画を立てている二人に、一人若いクー・フーリンは離れた場所でまた禄でもない話をしているなと遠い目をしてキッチンから持ってきた生姜湯というものをちびちび飲んでいた。
「あいつら、気付いてないんだろうなあ」
そのキッチンでこの生姜湯を入れてくれた、年をとった槍と術の己の執着している運命の相手は、その運命という言葉すら忌避しているというのに。
『君は私の事を知らないようだ。ここで新たに関係を築いていけたらいいな。運命など・・・きっと、彼らの言う運命の相手は私ではない、いつかの私や私の捨て去った未熟な時代の者などにもっている縁だろう』
己ではない誰かを重ねていると思い込んでいるエミヤには、あの計画通りの事が起きても自分は身代わりだとかたくなになるだろう。もし実行されたら、縁の無い自分が助けてやるか、と食べ物で若干ほだされている感はあるものの気に入っている部類になるエミヤの事を思った。
「オレには縁なんて無いからなぁ」
だからこそ、ここで今のエミヤだけ見ているってことが解るのだろうけど、やたらと以前からの縁を見せつけてくる別側面の二人の鼻を明かせるかなという思いと、そうなる前に邪魔して悲しませない方が良いか悩むなと思案にふけっていた。