なぜ円買いのためにユーロを売ったのか?
変動相場制度のもとでは、市場における需給に応じて為替レートが決まる。通貨当局による為替介入は、本質的には非市場的な行為であるため、慎重に行われるべきだ。また為替介入は、その規模次第では相手国の金利に影響を与える。日本が大規模な円買いドル売り介入をする場合、米国の金利が上昇しかねない。
日本が円買いに用いるドル資金を得るためには、米短期国債(T-Bill)を売らなければならないからだ。ゆえに主要国間の為替介入は政治問題化するリスクを常にはらむが、今回、米国はユーロ売りで円買いの資金を得たようだ。EU(欧州連合)から事前に承諾を得ていたと考えるのが筋だが、そうでなければかなりの大ごとである。
そもそもユーロを売って得たドルで円を買う場合、理屈の上では市場に出回るドルの量は変わらないため、米国の金利の上昇にはつながらない。米国の債券市場は、ドナルド・トランプ大統領が就任して以降、相互関税(トランプ関税)やイラン戦争などのリスクイベントが立て続いていることで、不安定な地合いになっている。
こうした中、スコット・ベッセント財務長官は、とりわけ長期金利の上昇を警戒しているようだ。
日本が円買い介入のために米国債を売れば米国の金利の上昇につながるため、可能な限りこの選択は回避したい。ベッセント財務長官が期待しているのは日本による財政拡張の抑制だが、高市早苗首相の財政拡張志向は強い。
他方で、日本は米国の国債の最大の投資家でもある。その日本の経済がガタつけば、米国にも悪影響が及ぶことになる。できるだけドルの需給に触らず、自らの金利に影響を与えない手段として米国が白羽の矢を立てたのがユーロだったようだ。
しかし繰り返しとなるが、この手段は、為替介入に伴う金利変動コストを欧州に押し付ける。
米財務省が週次で公表する「外貨準備資産報告」によると、7月24日時点で、米国が保有するユーロ建て資産は143億6800万ドル相当の国債と115億7300万ドル相当の現預金だった。うち国債は、ユーロ加盟国の各中銀の口座に保管されていると考えられる。米国が保有するドイツ国債はドイツ連銀に預けられているのだろう。
現預金については、欧州中央銀行(ECB)かドイツ連銀、フランス中銀といったユーロ加盟国の各中銀に加えて、国際通貨基金(IMF)、国際決済銀行(BIS)の口座に保管されているようだ。いずれのユーロ建て資産でも、すぐに為替介入に使える資金量は制限されるため、米国はEUから事前に承諾を得ていたのではないか。