―お題公募SS企画― ※キャラ、世界観無効のお楽しみ企画

『サイゼ』

 リーディッツ大学キャリア研究会『鳳』の活動は、週三回という頻度で行われる。時に企業の財務諸表を読み解き、時に経営者との交流を企画し、自らの将来を切り開かんという熱意溢れるサークルだ。

 あまりの意識の高さからメンバーは、わずか五名ほど。

 最近は「自分もぜひ学びたいでござる」という高校生を加えて活動している。

「クラウスさんとアーディさん、予定が長引くそうです♪」

「あらぁ。時間が余っちゃったねぇー」

 この日は大企業のOB・OGを招いて、最新の業界事情を学ぶ予定だった。

 が、彼らから『一時間ほど遅れる』という連絡が届いてしまった。

 サークルの会長であるビックスが「どこかで時間を潰しましょうか♪」とすまなそうに提案し、会計のファルマが「近くに喫茶店があったかなぁ」とスマホを取り出した。

 メンバーはしばし悩む。相手の会社近くで待ち合わせしたため、まるで土地勘がない。喫茶店にでも入れればいいが、六人という人数で気軽に入れる店などそう多くはない。

 こういう時の答えは一つ。

 そう言わんばかりに、サークルの雑用係ヴィンドが歩き出した。

「サイゼに行くか」


 ◇◇◇


 知らない方向けに紹介すると、『サイゼ』とは、イタリア料理が提供される全国的ファミリーレストランである。安くて美味しい料理と「ここが、私の人生とボッティチェリの唯一の接点……」と呟きたくなる特大絵画が出迎えてくれる。

 席に着いた途端、サークルの仮メンバー――高校生のランが「ズバリ」と声をあげた。

 繰り出されるのは、永遠の問い。

「兄さんたちの推しメニューは⁉」

「カプレーゼ♪」「……串焼き」「青豆かな」「トニックウォーター」「ティラミスぅ」

 ビックス、クノー、キュール、ヴィンド、ファルマの順で答えられる。

 『鳳』のメンバーを尊敬してやまないランは、なるほどなるほど、と頷いた。

 たかがファミレスと言えど、されどファミレス。推しのメニューには本人のセンスが表れる。そのセンスをぜひとも学びたいと思ったが――。

「一人、ドリンクバーをあげてるなぁ⁉」

「他のチェーン店にないからな。トニックウォーター」

 ランのツッコミに、堂々と答えるのはヴィンド。好きな料理は全部なので、もはや飲み物で優劣をつけるしかないという。

 ランは愕然と「まさか看板メニューのドリアを誰もあげぬとは……」と呟いた。

「安すぎる」「もっと店に金を落とせ」「……それしか頼まない奴とは口を利かない」

「思想が強いでござるな⁉」

 ランの推しメニューだったが、他メンバーは微妙らしい。主に味以外の理由で。

 ここまでの会話でランも察したが、どうやら『鳳』はサイゼに並々ならぬ愛情を注いでいるらしい。三百円という破格の安さのドリアには目もくれず、積極的に金を落とそうと高額な新商品を注文していく。

「もはや飲食経営のお手本だからねー」

 理由を明かしたのは、サークルの副会長のキュール。

「国内千店舗超。日本一のファミレスチェーンを追い抜く勢いだもん」

「……是。広告は打たない、斬新なビジネスモデル」

 続けて同意するのは、書記のクノー。

「……従業員にノルマもなく、徹底的なセントラルキッチン方式で、ほとんど店内調理もさせない――もはや勉強の場だ」

 以降も彼らは届いた料理に舌鼓を打ちつつ、サイゼの経営について語り合っていく。「オーストラリアに自社工場はもはや卑怯♪」と「タブレット注文という高コストなオーダーシステムをあえて導入しなかったんだよね」などとサイゼ愛を語る。

「な、なるほどでござる。こ、これが大学界隈で有名な――」

 飲食店に入っても学び続ける先輩に、ランは尊敬の視線を向けた。

「学内アンケート『いけ好かない、意識高い系サークル』ランキング1位『鳳』か!」

「初耳なんだけど、それ⁉」

 イカ墨のスパゲッティをむせるキュール。

 どうやら大学内フリーペーパーの情報らしい。他にも『近寄りがたいサークル』や『SNSのアイコンの自撮り率高そう』などがランクインしているようだ。

 キュール以外は興味なさそうに、次に頼む料理を探すべくメニューを眺めている。

「勝手に言わせとけ」「進む道が違うんです♪」「……是」

 あくまでマイペースな男性陣に、ファルマは苦笑を漏らしていた。

「いや、ファルマはぁ、もっと楽しく食事してもいいんだけどねぇ」

 彼女の前には、メニュー全てのデザートが並べられていた。まさか一人で食べきれるのかとランが考えたところ、一口ずつ最も美味しそうな箇所だけ口に放り込み、後はヴィンドに譲っていく。

 そんな彼女が「あんな感じにねぇ?」と促したのは、店内隅のテーブル。

 どこかの部活動の集まりなのだろう。

 制服姿の女子高生たちがテーブルをくっつけ、めいめいに声をあげている。


「くぅっ! このリリィちゃんでさえ、間違い探しが終わらないっ‼」「定規を出せっ! 虱潰しに行くぞ‼」「ジ、ジビア先輩、声が大きいっすよ……」「エルナ、ブドウスカッシュと炭酸水を八・二でお願い」「モニカお姉ちゃんのこだわりは強いの……ただ、エルナ、大問題が生じているの」「おうぉおおぉぉ⁉ エルナちゃんと危うくぶつかりそうになるなんて‼ 俺様、やったりますよぉ⁉」「いや、なんでアネットは悪質クレーマーを演じているの?」「アネットさん、そのネコ型配膳ロボットはお仕事中ですので……」


 賑やかではあるが、ファミレスならば許容範囲内だろうか。

 『鳳』とはまた違う方向性でサイゼを堪能する少女たちを見て、ランは目を細める。

「いや、あれはあれでどうかと思うが……」



 コードネーム「よる」さんより 『サイゼに行く鳳』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る