3月12日の判決直後に行われた被害者代理人の会見の模様。左が若宮隆幸弁護士
病院側が提出した密室での会話録音や内部調査メモ
赤穂市民病院の医療事故を巡っては民事裁判が複数存在しており、患者家族による損害賠償訴訟、松井氏による原告訴訟、そして漫画作者が松井氏に対して起こした債務不存在確認訴訟(のち反訴)と続いている。その後も、松井氏は患者家族やA医師への刑事告訴を行い(不起訴)、患者家族への損害賠償請求訴訟を提起するなど、終わる気配が見えない。
極めて皮肉なのは、松井氏が自ら起こした原告訴訟によって、患者側の訴訟では明らかになっていなかった「赤穂市民病院の内情」が一気に開示された点だ。
医療事故の過失が主争点だった患者側訴訟に対し、松井氏の訴訟では「パワハラや不正の有無」が争われた。そのため病院側は反論・防戦のため、密室での会話録音やLINE履歴、医療安全推進室の内部調査メモ、学会からの警告文書など、秘匿性の高い内部証拠を提出している。自ら被害を訴えた裁判が、結果として自らの不都合な勤務実態や組織の混乱を暴かせる形となった。
そんな「松井氏原告訴訟」での松井氏側の主な主張は、大きく2点あった。ひとつは2020年7月10日、病院内の階段付近でA医師と対峙した際、胸を押されて階段から転落させられ、右肩甲部打撲及び擦過傷、右下腿打撲(全治10日間)の傷害を負ったという「階段転落事故」。
もうひとつは2021年、日本脳神経血管内治療学会の専門医試験の出願にあたり、提出した症例報告リストに誤りがないことを証明する証明書への署名をA医師に求めたところ、正当な理由なく拒否され、受験資格および脳血栓回収療法実施医の認定資格を失わされた……という「受験妨害」。
なお松井氏は一審では「電子カルテの記載がA医師によって削除・改ざんされた」、「それらの自身の申告に病院長が適切に対応しなかった」として、病院長も相手取り損害賠償を請求していたが、控訴審では階段転落と受験妨害に関するA医師・赤穂市への請求部分に絞って争われている。
松井氏は「指導医によるハラスメントと不当な対応により、うつ病を発症し退職を余儀なくされた」と主張し、損害賠償を求めた。一見すると、新人医師が病院組織やハラスメントに苦しめられた構図にも見える。だが、法廷に提出された尋問調書の内容は、松井氏の主張とは異なる勤務実態を映し出していた。