防衛費増額の財源を確保するための法案が2023年6月16日、成立しました。岸田文雄首相が目指す防衛費増額の財源として、東日本大震災の復興費も「転用」する方針です。復興財源は、所得税の増税で捻出してきました。課税期間も延長される見通しで、税負担をさらに上乗せし、防衛費を賄う算段です。そもそも防衛費増額の必要性に関する説明は不十分で、議論も深まっていません。納税者を騙し討ちするような行為を、政府と自民党はなぜ平然と実行しようとするのでしょうか。
実は、復興予算は2011年度から2015年度にかけて、その一部が防衛費に使われていることがわかりました。岸田首相の防衛費増額方針に合わせて新たに出てきた案ではなく、すでに実行したことを再びやろうとしているのです。
予算が執行されたのは、計15事業で総額1270億円超に上ります。重機関銃を備えた装甲車、有事に作戦部隊を送るための輸送機、自衛隊施設の改修など「それが被災地の復興と何の関係が ?」と突っ込みたくなる事業が目白押しです。税金の使い道に関わる、モラルが崩壊しています。
戦後政治の大きな転換点となる、防衛費の増額。その財源に、東日本大震災の復興費の「転用」が検討されている。しかしTansaは2011年度から2015年度にかけて、既に復興予算が防衛費に充てられていたことを明らかにした。納税者を騙し討ちにするような行為が、なぜまかり通るのか。本記事は2022年12月に配信した記事の抜粋です。事実関係は取材時点で確認が取れたものです。
「弾道ミサイル攻撃への対応」が9事業
Tansaは、防衛省が東日本大震災復興特別会計を使った15事業をピックアップした。国の5000事業の予算の使い方を調べられるデータベース「JUDGIT !(ジャジット)」をもとにした。ジャジットは、Tansaが政策シンクタンクの構想日本、日本大学文理学部の尾上洋介研究室、データの可視化が専門のVijualizing.JPと共同制作した。
さらに、各省庁が決算をもとに作成している「行政事業レビューシート」で15事業を精査した。震災関連の費用にも関わらず、関係する計画に「防衛計画大綱」と「中期防衛力整備計画」の双方を挙げている事業が、15事業中14事業あった。当てはまる政策・施策に「島嶼部に対する攻撃への対応」を挙げているのは10事業、「弾道ミサイル攻撃への対応」は9事業あった。記事末尾に一覧表がある。
写真はNBC偵察車。12.7mm重機関銃を備えている(陸上自衛隊HPより)
レビューシートに「東日本大震災」の記載がなく、復興費用と何の関係があるのか全くわからない事業もあった。下記の表で「甲類(その他)(防衛省所管計上)」とある事業だ。
この事業では、「NBC偵察車」を22億6000万円をかけて7台購入した。1台あたり3億2,300万円の計算だ。
陸上自衛隊のホームページによると、NBC偵察車とは、放射性物質(N=Nuclear)、生物兵器(B=Biological)、有毒化学剤( C=Chemical)などで汚染された地域での偵察を目的に開発された。陸上自衛隊の最新鋭の装備だ。12.7ミリの重機関銃もついている。
NBC偵察車を買った目的について、レビューシートを作成した当時の三島茂徳・艦船武器課長と田中利則・防衛計画課長は次のように記している。
厳しさを増す安全保障のもと、防衛力の整備を着実に推進し、各種事態等(島嶼部に対する侵略、ゲリラや特殊部隊による攻撃等)への対応力の向上等を図る。
防衛省報道室「想定事態にゲリラや特殊部隊による攻撃」
ゲリラや特殊部隊からの攻撃に備えるため「NBC」偵察車を買うことが、東日本大震災の復興となんの関係があるのだろう?
しかも、この支出の根拠を示す「計画・通知等」にはこう書いてある。原文のまま、〈 〉内はTansa。
平成26年度〈2014年度〉以降に係る防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画(平成26年度〈2014年度〉〜平成30年度〈2018年度〉) (平成25年〈2013年〉12月17日国家安全保障会議決定・閣議決定)
閣議決定とは、内閣総理大臣以下閣僚が出席した会議で決められた政策のことだ。行政府における最高の意思決定の手続きである。
このNBC偵察車は、第2次安倍内閣(2012年12月26日〜2014年8月18日)の全閣僚が承認した日本の防衛計画のもと、購入されたことになる。レビューシート、つまり国民向けの説明文書には、東日本大震災で被災した地域の復興のために購入したという記述はない。
この点を防衛省の報道室に尋ねる質問状を出すと、こう返ってきた。
「東日本大震災において、自衛隊が保有する化学防護車では、中性子線の測定ができないため、今後起こり得る原子力災害に備えて、放射線環境下における対処能力向上に資する装備品の整備が喫緊の課題であると認識されました。広域にわたって放射線汚染地域の状況を迅速に偵察することができるNBC偵察車の調達を行ったところです」
では、三島艦船武器課長と田中防衛計画課長が記した「島嶼部に対する侵略、ゲリラや特殊部隊による攻撃への対応」という目的はないのか。その点も問うと、次のように回答してきた。
「使用が想定される事態には、原子力災害に加え、島嶼部に対する攻撃、ゲリラや特殊部隊による攻撃等も含まれます」
2012年11月27日の復興推進会議決定の末路
復興予算に関しては、震災翌年の2012年に各省庁の流用が問題となった。総理大臣の野田佳彦氏以下、当時の民主党政権の閣僚らでつくる「復興推進会議」は11月27日、流用を防ぐために使い道を厳格化すると決定した。
それまでは復興税の使い道は3項目だった。
①被災地域の復旧・復興及び被災者の暮らしの再生のための施策
②被災者の避難先となっている地域や震災による著しい悪影響が社会経済に及んでいる地域など、被災地域と密接に関連する地域において、被災地域の復旧・復興のために一体不可分のものとして緊急に実施すべき施策
③上記と同様の施策のうち、東日本大震災を教訓として、全国的に緊急に実施する必要性が高く、即効性のある防災、減災等のための施策
この日の復興推進会議決定では3項目のうち、①の人々の生活や暮らしの再生だけを計上することを原則とした。
野田首相は決定にあたり、次のように述べている。
「復興関連予算については、被災地の復興に最優先で使ってほしいという声に真摯に耳を傾けなければなりません。このため、被災地が真に必要とする予算はしっかりと手当てしつつ、それ以外については厳しく絞り込んでいく」
与党が入れ替われば、納税者との約束は破棄されてしまうのだろうか。
岸田首相の目指す防衛費増額の財源に、東日本大震災の復興費の「転用」が検討されている。しかしTansaは2011年度から2015年度にかけて、既に復興予算が防衛費に充てられていたことを明らかにした。納税者を騙し討ちにするような行為が、なぜまかり通るのか。本記事は2022年12月に配信した記事の抜粋です。事実関係は取材時点で確認が取れたものです。
税金の使い道がわかるJUDGIT!(ジャジット)
平成元年に60兆円だった国の予算は、30年で100兆円を超えました。そこへ新型コロナウイルス対策として、さらに巨額の予算が積み増されています。無駄遣いはもうできません。自分の財布の中身と同じように、税金の使い道をチェックできないか。国の各省庁が行う約5000事業のほぼ全てをデータベースにした「JUDGIT! 」が威力を発揮します。
JUDGIT! では、それぞれの事業の「目的」「内容」「成果」「予算の支払い先」「金額」などを誰でも調べることができます。気になるキーワードや、支出先の企業・団体名での検索も可能です。
JUDGIT! は政策シンクタンクの構想日本、日本大学文理学部情報科学科の尾上洋介研究室、Visualizing.JP、Tansaの4つの団体及び個人によって共同運営されています。
詳しい使い方はこちらでわかりやすく説明しています。
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