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この作品「家族のかたち」は「明浦路司」「加護羊」等のタグがつけられた作品です。
家族のかたち/ちゃんの小説

家族のかたち

5,728文字11分

🧺家の話を書いておきたかったのです……
CPじゃありません。
それとタグはこれでいいんでしょうか……
よく考えたら伏字の意味ないですね!

※もちろんすべて妄想と捏造です

🧺さんが、めいこさんが亡くなったあとも明るかったというのを、すごい父親だなあと思っていました。きっと☀️や🐑さんの前では気丈に振舞っていたと思いますが、じゃあいつ泣いたんだろう、と思って妄想しました。きっと、☀️は🐑と一緒に泣いたんだろうなと思うのですが、どっちの存在も子どもには必要だよ、という気持ちを書きました!

🧺家大好き……

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 芽衣子が亡くなった。

 病室で、親族に見守られて旅立った彼女は、穏やかな顔をしていた。家に帰ってきた芽衣子の顔を見てホッとした。もう痛い思いをしなくていいんだ。彼女は最後まで病と戦うことは諦めなかった。よくがんばったね、心の中で声をかける。隣に座っている羊はまだよくわかっていなさそうな顔だ。きっと、お母さんはいつ起きるんだろうと思っている。死の概念がわかる年頃ではあるが、実際に、しかもいちばん身近なひとに降りかかったことで、まだ実感できていないのだろう。
 玄関のとびらが開いた音が聞こえる。荒い息遣いの割に静かにこの部屋に入ってきたのは、我が家の居候くんだ。
 「……!」
 その居候──司くんは、芽衣子の姿を見て膝から崩れ落ちた。
 「……め、いこ、さん……っ」
 畳にパタパタと水滴が落ちる。司くんは下を向いて嗚咽をあげて泣いた。
 「うっ……ごめ、なさ、い……ごめ、」
 ときどき謝罪をしながら芽衣子の名前を呼ぶ。普段からずいぶん泣き虫だったから、芽衣子も自分が死んだ後のことを心配していた。司くんも脱水しないよう見てあげてね、と。
 「つかさくん、大丈夫?」
 「ごっ、ごめん、……ようさん、ごめんっ、ね」
 羊はうずくまっている司くんの背中をさすっていた。羊も僕も泣いていないことに気付いたのだろう、必死に涙を止めようとしているが次から次へと溢れてきている。
 芽衣子の死が近くなってきたのを知っていて、僕は覚悟ができていた。まだ幼い羊や、大事な試合が近かった司くんには伝えられていなかった。僕も司くんの背中を羊とともにさすった。



 芽衣子が亡くなってから2週間が過ぎた頃、羊の様子がおかしくなった。病院にかかり事情を説明すると、やっと母親とはもう会えないことがわかり精神的に不安定だという。羊はわがままを言ったかと思えば甘えてきたり、突然芽衣子を思い出して泣くこともあれば芽衣子の真似をして自分がお母さんになろうとしたり。僕は、会社の業績が傾いていてなかなか羊にかまってあげることができない。だからこれらの状況はほとんど司くんからの情報であった。羊は僕の両親のことを怖がっており懐いていないため、頼ることができなかった。そんなときに司くんが住み込みでいてくれたから本当に助かっている。司くんは不安定になった羊の通院から身の回りのお世話まですべてを請け負ってくれていて、心身のケアをしてくれている。申し訳ない、と言えば、司くんは僕よりも申し訳なさそうな顔をするから、ありがとう、といつも伝えている。



 もうすぐ芽衣子の四十九日法要という頃。日付が変わってからも家で仕事をしていた僕は、司くんに呼ばれた。
 「加護さん、いま少しいいですか?」
 「うん?いいよ」
 リビングに下りると、羊が着ているパジャマの裾をぎゅっと握り、俯いている。
 「加護さん、……羊さんと、一緒に泣いてあげてくれませんか」
 「羊……?」
 羊は顔をあげると、ものすごく、僕を睨んでいた。しかしその目は涙を貯めていて、いまにも溢れそうだ。
 「羊さん、お父さんきてくれたよ、お話しよう?」
 「羊、羊、ごめんね。最近あまりお話できなかったよね、どうした?」
 その途端、羊は勢い良く僕に抱きついた。
 「ねえ、お父さんはどうして泣かないの?お母さんが死んじゃったんだよ、どうして仕事ばっかりしてるの?!悲しくないの!?」
 もうお母さんと、会えないんだよ……。羊は一気に言ったあと、しゃくり上げながら泣いた。羊の顔を擦り付けている、肩が暖かい。じわっと涙で濡れていく。この体温を感じるのはずいぶん久しぶりだと思った。
 「……羊」
 「お母さんは、お父さんの〝さいあい〟なんでしょ!?ほんとうは好きじゃないの!?〝さいあい〟じゃないの!?」
 さいあい。……最愛か。すごいなあ、もうそんな言葉を知っているのか。ちゃんと会えなかった1ヶ月で、幼い娘はこんなにも成長していた。
 司くんが心配そうに声をかけようとしたが、僕はそれを視線で止めた。大丈夫だよ、と。司くんは泣いてくれませんか、と言ったけど、ごめんね。僕はもう、大人にも、家族を守る父親にもなってしまったんだ。
 「羊、聞いて」
 羊は肩から顔を離して目を合わせてくれた。
 「僕も、芽衣子がいなくなって悲しい。辛い。間違いなく、芽衣子は僕の最愛だから」
 目から溢れる涙を堪えようとしているその姿が、芽衣子ととっても似ている。
 「でもね、僕は覚悟ができていたんだよ。ずいぶん前から。覚悟ってわかる?」
 「……うん」
 読書が好きな羊はいまは僕なんかよりもたくさんの言葉を知っている。幼いと思っていた娘は、いつの間にかお姉さんになろうとしていた。
 「すごいね、さすが羊だ。……だからね、僕は、じゅうぶん覚悟ができていたから、芽衣子がいなくなっても潰れないでいられた」
 「じゃあ、ようも、覚悟ができていたらよかったの?」
 「覚悟っていうのはね、大人になるまで、たくさんの経験をして、色々なことを知ってからじゃないと、できないんだよ。だから、子どものうちはたくさん泣いて感情ぶつけていいんだよ。子どものあいだは、大人になる練習だから、たくさん泣いてもいいんだ」
 「……大人になったら」
 「うん、でも、大人になっても、つらい時は泣いていい。全然泣かないから大人、なんてことはないからね」
 芽衣子の体調がだんだん悪くなっていき、僕は芽衣子とふたりきりの病室で泣いたことがある。芽衣子はそれを見て笑っていた。芽衣子も、ひとりの病室で泣いていたのだろう。僕も、最期に過ごす時間は笑顔がいい、と思い直して泣くのならひとりでと、楽しい思い出を作った。泣くのは決して悪いことじゃない。しかし、そういう先のことを考えてしまうようになる、それが良い意味でも悪い意味でも、大人になるということだ。
 「……お父さんも、つらかった?」
 「つらかったよ、悲しかったよ。でもね、お父さんにはもうひとつ最愛があるから大丈夫だったんだよ」
 羊は首を傾げた。
 「羊のことだよ」
 「……お父さん、最愛はひとつなんだよ?最も愛しているって書くんだから」
 ほんとうに賢いなこの娘は。関心したが、それは否定させてもらいたい。
 「〝最愛〟はひとつじゃなくてもいいんだ。最も愛しているひとが、僕にはふたりいるんだもん」
 「ようも、お父さんの最愛なの?」
 「もちろん。羊と芽衣子が僕の一生のいちばんだよ。羊がいたから、僕は覚悟ができたし、いまもこんなに元気なんだ」
 ありがとう、羊。そう言うと、羊はまた抱きついてきた。そしてお母さん、お母さん、と呼びながら涙を流し、そのまま眠ってしまった。

 「……加護さん、」
 膝で羊の寝息が聞こえ始めると、別室にいた司くんが泣きそうな顔で声をかけてきた。
 「すみません、俺、羊さんをちゃんと」
 「司くん、羊と一緒に泣いてくれてありがとう」
 司くんは、きっと羊がこれ以上悲しまないように、たくさん本や育児書を読んでケアしてくれたんだろう。しかし、羊はいつもそばにいる司くんが、羊が死をわかりはじめたときに一緒に泣いてくれて、それが、羊が感情を出してもいいとわかったきっかけなんだったと思う。そしてそれは、僕の両親やほかの大人ではきっとできなかったことだ。羊のいつもそばにいた、司くんだから。
 「……俺はそんな」
 「司くんがいなかったらさ、羊は誰がそばにいてもひとりだったと思う。僕も、いまこうして仕事ができているのはきみのおかげなんだよ」
 ほんとうにありがとう、そう言うと、司くんはまた申し訳なさそうな顔をした。彼はずっと僕たちにたいして負い目を感じている。ずっと支援してもらっていたのに選手として結果を出せなかったから、芽衣子にスケートで恩返しできなかったから。そう考えているのだろう。でも僕たちからすると、どんなにすばらしいスケート選手だとしても、司くんのようなひとでなければ、応援なんてできない。あの日、芽衣子を救ってくれた日から、彼は僕たちの癒しなのだ。だからその顔の陰りを拭ってあげたいけれど。
 「悪いんだけど、僕は羊を連れてもう寝るよ。あとはお願いできる?」
 「は、はい!おやすみなさい」
 今日は久しぶりに羊と同じ部屋で寝ようかな、と考えて僕の部屋に連れて行くと、羊が腕の中でもぞっと動いた。
 「……つかさくんは?」
 「司くんはまだ下にいるよ、おやすみの挨拶する?」
 「……ううん、」



 加護さんと羊さんが話しているあいだ、途中から俺は自分の部屋にいた。しばらくすると話し声が止んだので見に行くと、羊さんは加護さんの腕の中で眠っていた。
 俺はこの家のひとたちにすこしでも恩返しをしたくて、羊さんの悲しみを減らしてあげたかったが、結局、また俺はなにもできなかった。加護さんは、ありがとうと言ってくれたけれど、そんな言葉を言ってもらうのも申し訳なかった。芽衣子さんに助けてもらって、加護さんに許されて、羊さんに受け入れてもらえたのに、何者にもなれなかった自分が嫌いで情けなかった。芽衣子さんが亡くなって辛かった羊さんのことも任せてくれたのに、その期待に応えられなかった。
 眠った羊さんを抱き上げた加護さんは自室でもう寝るというので、残った家事をさっさ終え俺も部屋に戻る。電気をつけようとしたが、俺がいつも寝ているベッドに人影がふたつ。まさかと思いのぞき込むと、加護さんと羊さんがぐっすり眠っていた。
 
 「……ははっ」
 もう、俺どこで寝るんだよ。
 前に加護さんは、家族は集まるものなんだよ、と言っていた。俺がいる場所になぜか加護さんも羊さんもくるからだ。こんな俺でも、まだ、一緒にいてもいいと思ってくれているのかな。負い目を感じることの方が多いけれど、そのなかにはたしかな喜びがあった。芽衣子さん、どうしようもなかった俺を、あの日この家に連れてきてくれて、ありがとうございます。
 大きいとはいえさすがにひとつのベッドに3人は厳しい。音を立てないよう、だいぶ昔に買った、最悪宿がなくてもどこでも寝れるように用意していた寝袋を押し入れから取り出し、ベッドの下に敷く。いつものふわふわ布団とはまったく違う、久しぶりに感じる背中にあたる硬い床。でもあの頃とは全然違う寝心地だった。ふたりの寝息を聞きながら、俺も目を閉じた。
 翌朝、俺はフローラルな香りで窒息しそうになりながら目が覚めた。なぜか羊さんが無理矢理、寝袋に身体をねじ込み寝ていた。加護さんは優雅にひとり、俺のベッドで大の字になりいびきをかいて寝ていた。



 「司くん、もう出なくて大丈夫?」
 「あっ、ほんとだ!そろそろ行きます!」
 直前まで演技の構成を練っていたのであろう司くんは、慌てた様子で顔を上げた。
 芽衣子が亡くなってから数年経った。いま羊は、司くんがやっているフィギュアスケートに夢中だ。
 ある日、司くんの前には、一等星のように輝く少女が現れた。スケートを始めるには遅い子だった。しかし少女はとにかくスケートが大好きで、氷上を求めるその姿は司くんとそっくりだった。彼らは二人三脚で、夢を実現しようとしている。
 司くんが楽しそう。司くんのこの表情をまた見ることができて、僕も羊も、きっと芽衣子も安心した。司くんの夢は、少女の夢だ。そして、僕たちはいま、芽衣子の夢を叶えようとしている。司くんが大切にしているスケートを目の前で見ること。僕と羊は、今日もまた、司くんと、その少女──いのりちゃんの応援をしに行く予定だ。
 「司くぅ~ん、ネクタイ曲がってるよ」
 「い、急いでて……」
 きみにふさわしい良いスーツなんだから、という言葉は飲み込んで、僕がセットで選んであげたネクタイをなおしてやる。真っ直ぐにしてあげたあと、拳を前に出した。いのりちゃんが滑走前に司くんとやっていたのを見て、少し羨ましかったのだ。
 司くんは一瞬ぽかんとしたが、すぐに笑って拳を突き合わせた。
 「司くん、まだ出てないの!?もう時間なんじゃない?」
 羊が上から降りてきた。いま出るんだよ、大丈夫!と言って、司くんは羊にも拳を出した。羊もすこし恥ずかしそうに合わせる。司くんはニッと笑うと、
 「行ってきます!」と、輝く笑顔で玄関を出て行った。

 「……べつにわたしたちが戦うわけじゃないのに」
 羊は司くんが出ていったあと、合わせた自分の手を見ながらくちびるを突き出して言った。思った以上に恥ずかしかったのだろう。
 「……僕らはずっと一緒に戦ってるんだよ」
 家族だから。
司くんが選手として頑張っていたあの日も、芽衣子が亡くなったあの日も、羊が熱を出したあの日も、僕が仕事をしているこの毎日も。
 羊はその言葉を聞き、目を伏せた。
 「……おじいちゃんたちや友だちからも、どうして司くんと一緒に住んでるのって、よく言われるの。でも、家族だから、って言うと、それはおかしいよって」
 司くんは僕にとって、息子のようで、弟のようで、兄のようでもある。羊にとっても、兄のようで、弟のようで、父のようでもあるのだろう。
 「名前なんてなくていいんじゃない」
 最愛がひとつじゃないみたいに、関係もひとつじゃなくてもいい。細かい名前なんてなくてもいい。それでも一緒に暮らしているのなら、家族以外、なにがあるのだろう。
 「……そうだよね。それに司くん、この家出るとまた穴が空いた靴下大事にしちゃうし」
 「そうそう、それに僕たちだけだと焼肉もしゃぶしゃぶも行けないよ、一人前が多いんだから」
 「色んなものをすこしずつ食べたいよね」
 いつか彼が、彼の最愛を見つけてこの家を出る日が来るのかもしれない。でも、それまでは自分の居場所としてここにいて欲しい。

 今日も、僕は羊と、芽衣子の夢を叶えるため、司くんが夢中になっているスケートを見に行くのだ。

コメント

  • 鳴海

    🧺家尊い。この中には☀先生も勿論入ります。🌱さんが亡くなった後の日々を共に暮らして、失った痛みを互いの存在で少しずつ癒していったんですね。これを家族と言わずなんと言おう。 ☀先生の役割は本人が思うよりずっと🧺家の中で大きかったと思っているので、このお話を書いて下さって感謝です。

    6月17日
  • ginomi
    2025年12月2日
  • ゆん
    2025年11月29日
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