幻想の祝福の口づけ。
夜の果てに明くる日 webオンリー開催おめでとうございます
少しでも賑やかしになれば幸いです 限定公開とかじゃないので後でよかったらご覧ください
原作軸謎時空よだつか お部屋でイチャッとする 成立済み FB2の内容を含みます(🦅の家について若干の解釈があります)
ハッピーよだつか なんとかなれ~~ッ たのむ
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幻想の祝福の口づけ。
夜鷹が喉の渇きをおぼえたところ、何も言わずに司は立ち上がって寝室を後にし、すぐに二本の水のボトルを持って戻って来た。
「つめたいのと、常温の」
「常温」
「はい、どうぞ」
夜鷹に言われた方をキャップを開けてから手渡した。ミネラルだかなんだか知らないが信じられないぐらいまずい、と司が言う海外産の硬水である。
司は夜鷹が求める方をわかっていた、とでも言いたげな笑みを浮かべながら自分は冷たい水のボトルを開けた。
ぷし、と軽いガスの音。たっぷり汗をかいた後によく冷えたガス入りを選ぶところが、どこか少年のように夜鷹には思われた。
ごっくごっくと司がうまそうに飲む眺めは、夜鷹にもそれは美味なのだろうと伝えてくる。
「……そっち」
思わずボトルを交換させるくらいには。
「え、交換?はい」
司はさして気にもした風もなく、Tシャツの裾でボトルの飲み口を拭った。
渡されたボトルはよく冷えている。
「ウェー」
夜鷹の飲んでいたほうの水を司は飲むものの、やはり口を尖らせた。、
「……気になっていたことがあるんですが」
「なに
「以前鴗鳥先生から貴方が沢山の資料を持っているって聞きましたけど……」
「うん」
リビングのソファサイド、書斎のデスク上、そして寝室のタブレット、たしかに本や雑誌、PCの類は雑に置かれている。
「PCで管理しているんですか?なんですか?俺、いのりさんのデータを最初はノートにつけてて、それを最近Excelにまとめ直したんです。動画データとかどうやって整理していこうかと思っていて……」
「書斎とそのクローゼットに置いてる、古いものやあふれた分は隣の部屋」
「書斎のとなり……?」
この家はリビング、寝室、書斎の3LDKだったような。司が勘違いしていたようだったので、夜鷹は訂正した。
「違う、この家の隣の家」
「と、隣の家も夜鷹さんの部屋なんですか?」
「そうだよ」
「ひぇ……ふたつもマンションの部屋を……!」
夜鷹が司を招き入れた(引きずり込んだとも言う)、部屋を含めたら正確には三部屋所有している。
寝起きする部屋(ここ)
スケートの道具を保管し、トレーニングをする部屋
墓場
無意識に夜鷹は三部屋目のことを言わなかった。
「古いものはDVDが多いかな……VHSも」
「VHS……あ、ビデオですね、視聴覚室にあるやつ」
司は一瞬ピンと来ていないことが夜鷹にもわかった、反応からして視聴覚室は小中学校のものだろう。
「……」
自分は八歳も若い男を必死に抱いているのだと思うと、ややいたたまれない。
「近所の図書館に、フィギュアスケートの動画が増えてきたんです、貸出できないものも多いですけど。貴方のもありましたよ!」
動物をかわいがる暮らしをしてきたことは夜鷹にはなかった、けれど、この犬ころみたいな男をどうにか喜ばせてやりたくなる。
たとえそれが過去の、もう取り戻せない過去の栄光残像だとしても。
「見たい?」
「え、資料ですか?いいんですか!?見たいです!」
司はボトルを手放すとベッド脇に落ちていたパンツを掴む、夜鷹の下着だ。穿けって差し出す。
夜鷹は黙って受け取った。
きらきら、ぴかぴか、ぽかぽか、うきうき、わくわく
つぎからつぎへと溢れてくる司の感情はどれも夜鷹から遠いものばかり。
嬉しそうだな。短い感想。
犬が「さんぽ」の三文字を聞きつけてリードを咥えて走ってきたり、主人の靴を玄関から持ってきたりすることがあると聞いたことがある。
夜鷹は煙草を吸いたかったが、このままでは四十歳を越えてパンツを穿かされることになりかねない。
こうして、夜鷹は二つ目の部屋への立ち入りを司に許すことになった。
部屋の清掃については業者に依頼している、入室時刻を決めて顔を合わせないようにしているので作業している姿を見たことはない。
依頼しているのは主に清掃で、整頓については衣服にとどめている。
だからこの資料たちについてはホコリやカビが発生しないようにしているだけでつまり、
「雑然だ……」
雑然としている、夜鷹は整理整頓が得意ではない、知らないわけではない、飽きてしまう。
背の高い棚が居並ぶ、加護の会社の資料室に似た雰囲気の部屋だった。
古いものは奥、新しいものは手前、男子と女子、アイスダンス、ペア、それぐらいに分けている。
DVDはケースにかろうじて入っているものの、目当てのものが見つからない時等にごそっと引っこ抜いて探すため棚にきちんと納まっていないものもちらほら。
DVDは枚、VHSは本と数える。本、VHSの唯一の利点はこの厚みにあった、背側と腹側にラベルを貼れるために、棚に納まったまま探すことができるのだ。
そういう意味ではVHSはずらりと並んでDVDより整理されていると言える。
「あれ、これは……」
床置きのプラスチック収納ケースだけやや雰囲気が違う、手付かずではないが整理もされていない。
「それは僕のやつ」
「!」
司の顔が輝いた。
「……見てもいいよ」
「これ、数字は年月日ですか?」
「そう(おおよそ)」
「ってことは、これはジュニアか……」
司はしゃがみ込んでいくつかのDVDを手に取った。夜鷹は全ての内容を把握しているが、たしかにそれはジュニアのデータだ。
夜鷹の年齢から瞬時に計算したのだろうか、だとすれば計算も得意なうちに入れていいかもしれない。
司はいくつかDVDを手にすると、最後に、夜鷹が金メダルを勝ち取ったオリンピックのものを手にして、戻して、やっぱり手に取った。
その仕草が目に付いた、夜鷹が見ているのを司も分かったようで、
「貴方のオリンピックの動画は毎日見てたし、youtubeでも見られます、無断転載動画だけど……」
資料室、棚に遮られて影の多いこの部屋の中で司の目はやっぱりきらきらしていた。
「何度見たって俺は好きなんです」
「僕のスケートが好きなんだね」
夜鷹の言及に司はきょとんとした、
「はい、貴方が好きです」
その返事はどこか、夜鷹の胸を温めてゆるめた。
「ここに入る時には、僕に声をかけること――そして、外には持ち出さないこと、できる?守れなかったら二度と僕の家には入れない」
「はい」
提示されたルールに頷きながら、司はおとぎ話みたいだなと羊へ読み聞かせた本を思い出す。
そもそも司は夜鷹の家の鍵を渡されていないので第一のルールは無条件でクリアだ。
持ち出さないこと、紛失のおそれを考えたらそんな気は起きない。
とにかく司はどきどきしていた。
夜鷹がDVDを見る時はパソコンを使う事が多いが、気が向けば第一の部屋のリビングにある大きなTVで見ることもある。
TVは最近買い替えたばかりだ。DVDプレイヤーも数回壊している。TVを壊す時テレビが固定から外れて倒れ、プレイヤーも巻き込まれるためだ。
司は見たいと思った資料を夜鷹に頼んで第一の部屋、そのTVの横に取り置かせてもらうことにした。
「ありがとうございます」
「見てから言いなよ」
見る前から司は嬉しそうにしている。あんまりうれしそうだから夜鷹は少し不安になる。
中身が違うかもしれない。
「このありがとうございますは、俺にそれを許してくれたことへのお礼です」
「そう」
この青年は許されたがっている、なのに彼自身が一番許していない。
夜鷹は自分のスケートについては価値があると思っているが、自分自身には価値があると思っていない。
滑稽なことに自分と言うパーツを切り分ければそれぞれに価値を見出すことはできる、
たとえば、4回転を跳ぶ脚、
たとえば、演技へ自在に強弱柔剛を持たせられる手指、
たとえば、身体の軸をぶらさない腹筋、
たとえば、酸素と二酸化炭素の入れ替えを素早く行える強靭な肺、
たとえば、長く優美に見せることのできる首、
たとえば、踏み切りで力を込められる足裏、
たとえば、自分を俯瞰してみることのできる目、
たとえば、不要不必要を判断できる頭脳、
どれも、素晴らしい、価値のあるものだと思う。
なのにそれをすべて持ち合わせた夜鷹純という一人の人間としてはつまらないものだと感じてしまう。
夜鷹のスケートには価値がある、夜鷹は犠牲を払って来た、その犠牲は夜鷹にとって大切なものだった。
大切なものを支払うだけの価値があるスケートでなければいけない。
いつかこの話を司にすることはあるのだろうか、今の夜鷹にはわからない。
もう犠牲を払う事もない夜鷹は、明浦路司を手にしてしまった。
夜鷹は肌寒さに目を覚ました。クスッとしたくしゃみのできそこないが鼻を通りそこねた。
ベッドサイドのデジタル時計を見れば5:52 いつもならこれから眠ると言う時刻である。
広いベッドに夜鷹は全裸でひとり。
すべて明浦路司のせいだった、日付が変わるころに現れて、服を脱いで抱き合った。ここまではよかった。
なにがトリガーだったかわからない、ひどく盛り上がってしまった。
さすがの夜鷹も疲れ果てて煙草も吸わず、服も着ず、シャワーも浴びずに寝てしまったのだ。
この時刻もこの寒さも明浦路司のせいである。
夜鷹は身を起こした、肌寒さを感じたと言っても薄着で過ごしがちな夜鷹にあわせた空調は完璧である。
あの温かい身体を知ったせいで、肌寒さを感じるようになった。
その熱源はここにいない、いないということはリビングに居るだろう。
脱いだ下着を穿きなおす不快感を無視して、夜鷹は失楽園さながら寝室から出ることにした。
この時期の夜明けは6:30頃である。つまりまだリビングは夜のままだった。
カーテンは開け放たれている、太陽をうるさがる夜鷹だが夜行性のため開けっ放しなことも多い。
窓はいまだの夜を四角く切り取り、枠外にあるらしい月がその帳をもろくしていた。
だがそんなかすかな月明かりより何倍もTVの画面の方が眩しい。
TVには銀盤が映し出されている、なまなましい青ざめた白。
夜鷹は立ち止まった。
音はない、その銀盤の上を一人縦横無尽に動くものがある。
夜鷹純、元オリンピック男子シングルフィギュアスケート金メダリスト。
死の舞踏だ、夜鷹純17歳の時の演技である。
黒の衣装に青みがかかった銀と白スパンコールが弾けた。
あの時ですら完璧と言われていたのに、今の夜鷹が見ると青く硬いところがいくつも見つかるからスケートいうのは不思議だ。
今この時間この演技を見ている生きた人間はこの世にたった二人と思われた。
ひとりは現在の夜鷹純。
もうひとりである明浦路司は膝を立て、俗にいう体育座りのような姿勢でその画面を見つめていた。
部屋から出て来た夜鷹に気付いていないらしい。
よく見れば画面の右上には白い文字で『リピート』と表示されている。
この3分の動画を司は何度見たのだろう、夜鷹にはわからない。
動画内滑走は始まったばかりで、これから最初のジャンプを跳ぶところ。
夜鷹はこの動画を当然見たことがあるし、そもそも本人だ。
どの瞬間に跳ぶのかなどわかるよりも先である。
跳んだ。そして降りる。
冒頭は3A、着氷。着氷直後に息つく暇もなく複雑なステップを文字通りブレードで氷の盤面に刻んでいく。
が、画面には夜鷹の顔が大きく映し出された。
ああ。
夜鷹は思い出す。この動画はとあるTV局が撮影したがお蔵入りになったものだった。
あまり詳しくない撮影者だったのか、やたらと夜鷹の顔ばかり写すから公開を取りやめてもらったのである。結果無編集の動画だけが渡された。
当時夜鷹の整った顔面をそういう方面で売り出そうと言う働きかけは確かにあった、だがここまであからさまなものはそうそうない。
どうせ顔を見るなら僕の寝顔でも見ればいいのに。
司が自分の顔を好きな事は知っている。
そして夜鷹は司が夜鷹のスケートを愛している事も知っている。
だからこんな『消費』も許そうと思った。
だがどうも司の表情が気にかかる、いつもの食い入るように見つめてくるあの熱がない。
ひんやりとした横顔で、かといって眠っているわけではない。
ぱちりと司がまばたきをして、少し顔を上げるとまっすぐを見た。
わずかな仕草がそれほどの風を起こすとは思えないが、冷たい風を受けた時のように前髪が払われて司の狭い額があらわになる。
ああ。あれはぼくだ。
夜鷹は気づいた、司のまばたきはいまや画面の中の夜鷹とシンクロしている。
司は夜鷹になって、あの銀盤に立っていた。
スケートを志したものにとっていまもなお夜鷹純という名前は健在だ、夜鷹純になって氷の上に立つ、など、大それたことにもほどがある。
だが夜鷹はそれも許した。
明浦路司にはその資格がある。
最後のジャンプを着氷し、ジャッジに向かって最後のアピール。
ここで撮影者は顔どころか、あろうことか夜鷹の両目のみをアップに抜いた。
スケートの大会の動画ということをまるでわかってなどいない。
これが公開されていたらスケートファンたちはこぞって激怒したことだろう。SNS炎上待ったなし。
しかし夜鷹は、僕はこんな射殺すような、余裕のない、見下ろすような目で審査員を睨んでいたんだなと、どこか面白がってそれを見た。
そして少年夜鷹へ胸の内で語り掛ける。
ねえ、画面の中の僕。君は競技人生を全うする、そして死ぬつもりで氷を下りるんだ。
けど慎一郎くんに見つかって、死なずに生きて、とある女の子と出会う。
コーチの真似事をするんだ、僕が。
あり得ないと思うだろうな……僕は。
でも事実だ。
どころか、君は40歳にもなって、若くてかわいい男の子をせっせと図太く抱いてるよ。
そしてそのかわいい男の子を自分の家に呼ぶ口実に、過去の自分を活用してる。
鍵一つ渡すのを躊躇するような呆れたおじさんに、君はなるよ、それが僕だ。
まあでも今の僕の方が、スケートがうまいけど。
画面。両目のみのアップから少し引かれて、それでも夜鷹の顔面のアップ。
音がないが、夜鷹の顔面からやや緊張がほどけたのでフィニッシュとわかる。本当にカメラマンはとんでもない素人だな。
リピート機能は動画の最後になって10秒後である。
つまりこの顔面大写しの状態で10秒停止することになる。さすがに夜鷹もむずがゆい。
夜鷹は見た。
ふわりとその画面からきらびやかな衣装を身にまとった、競技者としての若い自分がまだ夜の色濃いこの部屋に飛び出してくるのを。
銀盤から氷の粒と星くずの輝きを尾のようにするすると引いて、死の舞踏をたったいま踊り終えた少年夜鷹純。
まだ頬にわずかな丸みのある夜鷹は、夜鷹自身記憶にないほど優しい顔をして司の前に降り立つと、腰をかがめ、優雅にその生え際へごく軽く口づけた。
これは夜鷹の幻想だ、だが司はまるでその口づけに目覚めさせられたように顔を上げる。
そして司は唇の触れたあたりへ手をやった。
幻想の祝福だ。
幻想の祝福を授けられた司は、そこでようやく現実の夜鷹が立っているのに気づく。
「……服着てください」
司は照れ隠しにかわいくないことを言う。顔に全部出る、唇をモニ……と歪めて。
息をするのも忘れるぐらいに、それもスケートファンが怒りそうな顔ファン丸出し動画を見ていたなんて。
知られてしまって恥ずかしい、ファンの名折れ。
かわいい、夜鷹もつい憎まれ口をたたき返した。
「僕に浮気するの」
「本命です、しかも初恋」
澄まして二の矢を持っていた司に、夜鷹は薄く笑った。二の矢に二の句が継げない。
夜鷹はぺたぺたと歩み寄ると司のすぐ後ろに座り、腕を回して背後から絡みつくようにして抱き着いた。
下着一枚の肌に司の抜くもりがじんわり染みていく。さっそくシャツの中に手を忍び込ませる。
「冷たい」
「僕は温かい」
「も~~」
君はコーチだ、僕が必要としたけど得られなかったコーチ。
だから選手としての僕の祝福は要らないだろうけど。
「ねえ、マイナンバーカード持ってる?」
「……悪用するつもりですか……?ッッ痛ァ!乳首!取れちゃう!」
夜鷹は黙って司の乳首へギュッと爪を立てた。
「止めてください!夜鷹純の前で!……あっ」
夜鷹純は後ろにもいるんだけど。でも乳首は少し撫でてやる、たちまち甘ったるい声を出すからこの男。
もちろんゲスト用カードキーを作るために身分証明書が必要なのだ、マイナンバーは人に教えてはいけない。