誰にでも訪れる死とどう向き合うのか。人類の根源的な問いに死生学や医療倫理の面から取り組む研究者がいる。京都大の名誉教授で同大iPS細胞研究所上廣倫理研究部門に所属するカール・ベッカーさん(75)だ。米国出身でありながら、青年期に渡った日本に対して熱烈な愛を抱く一方、経済発展とともに進んだ価値観の変化を危ぶんでいる。
尊敬と憧れが出発点
「日本に対する尊敬と憧れが出発点でした」
少年期を過ごした1960年代の米国では、ベトナム戦争に派遣された知人や先輩たちが命を落としていった。近い将来、自身も戦地に赴くことを危惧する中で抱いたのが、日本への憧憬(しょうけい)の念だった。
「書籍でヒロシマ、ナガサキを知り、原爆がいかにひどいものかを深く印象付けられた。子供ながらに非核三原則を掲げる日本に感動し、日本が核のない世界に導いてくれるに違いないという期待があった」
進学したプリンシピア大では宗教や哲学を専攻し、ハワイ大大学院の東西文化センターでは東西比較哲学を研究した。80年代には「日本のために人生を尽くす」と心に決め、日米の大学を往来。各地の寺院に残された「往生伝」に関する博士論文の執筆に取り組み、平成4(1992)年に京都大大学院人間・環境学研究科の助教授に就任した。