日本政府、国家情報局を新設 第2次大戦後初の中央集権的な情報機関
なぜ今なのか
現在、日本にとっても世界にとっても状況は大きく様変わりしている。
ブラウン氏によれば、戦争の記憶や警察国家への逆戻りに対する恐れは、日本国民の間で十分な時間の経過とともに薄らいできた。また、日本がこれまでにない強力な脅威に直面しているという認識も高まっているという。
海を隔てたすぐ先には北朝鮮、中国、ロシアがあり、いずれも強力な諜報能力を有している一方、日本はそれに十分対抗できる体制を整えているとは言えない。米国の同盟国である日本には約5万5000人の米軍兵士が駐留しており、敵対勢力にとっては魅力的な標的となっている。
ブラウン氏によれば、前述の国々は、日本国内における米兵の活動や、新たな米国製兵器の配備に関する情報を求めている可能性がある。ロシアは、日本のウクライナ政策を巡る今後の方針といった政治的機密の窃取に関心を持つだろう。中国は、日本企業から技術上の機密を引き出したいと考えているかもしれない。
また、日本国民がより警戒感を強めている理由の一つは、上記の3カ国が「ここ何年にもないほど足並みをそろえている」ことだと、RUSIのシェトラージョーンズ氏は述べている。
こうした一連の動きは、この地域の勢力均衡が変化しつつあるという認識につながっている。とりわけ中国の影響力が増す中では、その傾向に拍車がかかる。「日本は(日米)同盟のためにも、自国のためにも、これまで以上の役割を果たさなければならないという感覚が実際に存在する」。シェトラージョーンズ氏はそう語る。「欧州、ウクライナで戦争が展開する様子を目の当たりにしたことで、そうした認識は一層強まっている。たとえ米国のような強大な同盟国を持っていたとしても、先を見越した行動を取らなければならないという感覚がある」
日本の安全保障能力の強化を積極的に支持してきた高市氏は、この流れを完成させる最後のピースとなっている。今年2月の解散総選挙で圧勝したことで、現在では強い権限を持つ衆議院において歴史的な圧倒的多数を掌握。立法上の変更について、ほとんど反対を受けることなく実現できる状況にある。
なぜ物議を醸しているのか
とはいえ、誰もが情報機関改革の推進を支持しているわけではない。国家情報局の設立法案には複数の国会議員が反対し、NHKによると、国会での採決に先立つ5月には、法案に反対する抗議活動に200人以上が参加した。
そうした議員の一人である立憲民主党の鬼木誠氏はNHKの取材に対し、国家の情報機関は最も強力な組織の一つだと指摘。暴走を許せば、国民の人権を深刻かつ不当に侵害するおそれがあるとの見方を示唆した。
高市氏が次に取り組む予定の課題であるスパイ防止法と対外情報機関の創設は、さらに大きな論争を招く可能性が高い。
「このような法律は世界各国に存在し、適切かつ民主的に機能しているものもある。しかし一方で、権威主義的な体制では、このような法律を利用して批判者を訴追する例もみられる」と、ブラウン氏は述べた。例えばロシアでは、反体制派を外国の代理人だと非難することが多く、野党指導者のアレクセイ・ナワリヌイ氏に対してもそのような声が上がった。クレムリン(ロシア大統領府)の批判者でもあった同氏は、獄中で殺害された。
こうした権力の乱用を防ぐため、英国や米国のような民主主義国家では、公聴会や委員会などの制度を設け、情報機関に対する説明責任を確保しているとシェトラージョーンズ氏は述べた。
さらに同氏は、日本の新たな情報機関について、「監督・監視の仕組みが想定されたほど明らかになっていない。これでは人々が依然としてその点に疑問を抱くのも極めて妥当なことだと思う」と付け加えた。