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この作品「噛み合わないやきもち」は「明浦路家兄弟」「よだつか」等のタグがつけられた作品です。
噛み合わないやきもち/唯吹の小説

噛み合わないやきもち

4,654文字9分

明浦路家長男+よだつか の続き
今回はよだつかメイン
会話多めの文章生成練習中なので会話文多め(当社比)
思った以上に明浦路家兄弟の需要があって大変嬉しいです同士がたくさんいる!
閲覧、コメント、ブクマ、フォロー、スタンプ、すき、タグ付け全部ありがとうございます!!
何回も言うけど増えてー!!

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エンカウント 強運の男の続き

「そうだ夜鷹さん。せっかくなんで連絡先、交換しませんか」
 店を出たタイミングで切り出した肇が、右手の中に持ったスマホを軽く振る。
 人懐こそうに笑うその顔は、兄弟だけあって司によく似ていた。
「……要らない」
 素気無く断られたにも関わらず肇は、塩対応すぎて逆に笑えるとひとりで大笑いした後、目尻に浮かんだ涙を拭いながら、尚も食い下がる。
「まあそう遠慮せずに! 何かあった時のためにも、ね?」
「司くん経由で聞くから要らない」
「えぇ〜せっかく司に内緒で、司の小さい頃の写真とか送ろうと思ったのに。ざんねんだなぁ〜」
「肇くん、それ俺の前で言ったら内緒にならないよ」
 肇の冗談だと思った司が、あははと笑う。
 夜鷹はノーと言ったらノーの人間だ。だから肇と連絡先を交換することはないだろう、と司はふんでいた。
「……司くん、この人に僕の連絡先教えといて」
「えええ!?」
「やったー! 有名人の連絡先ゲットだぜー!」
 握ったスマホを宙に翳して喜ぶ肇に、司が慌てて注意する。
「肇くん、流石に個人情報だから」
「分かってるよ。他所にバラしたり、しないしない」
 連絡先送ってよ、と兄に催促された司は、本当にいいのかなとスマホの画面と夜鷹の顔とを何度も見比べながら、立ち上げたメッセージアプリから夜鷹の連絡先を肇に送った。
「きたきた。じゃ早速、司の中学校入学のときの写真送りますね」
「なんでそんなものスマホに入れてるの!?」
「細かいことは気にすんな。あと七五三の写真も」
 ぴこんぴこんと、夜鷹のスマホが立て続けに通知を知らせている。
「あ! あとこれ! 司がお化け屋敷の前で泣いてるやつ!」
「勝手にそんなもの送るな!」
 素早くFace IDでスマホのロックを解除する夜鷹に「めっちゃかわいいでしょ〜」と肇のにやけた声が追いかけてくる。
 恥ずかしさでわあわあと騒ぐ司をいなしている肇と、夜鷹の目が合った。その瞬間、夜鷹は理解した。
 これは所謂マウントだということを。
 口には出さずとも肇の目が雄弁に語っている。俺の方が司のこと知ってるもんね、と。
(くだらない)
 14年もの間夜鷹に憧れていた司を、夜鷹が欲しいと思って手に入れたのはこの半年なのだ。人と人の親密さは、一緒に過ごした時間の長さと必ずしも比例しない。
 夜鷹は送られてきた数枚の画像を保存すると、スマホをコートのポケットにしまった。
 もちろん肇に返信などするわけもない。
 その日はそれで解散になった。
 何とも騒がしい1日の終わりとなったが、司のストーカーの件も解決したし、その上で司の幼いころの写真を手に入れるという思わぬ収穫を得た夜鷹の心は弾んでいた。もちろん決してその顔には、何の感情も映し出されないが。
 また送りますねーとへらへら笑いながら去っていく男のことなど、夜鷹は翌日には完全に忘れていた。


 肇から夜鷹のスマホに再び画像が送られてきたのは、肇と夜鷹の遭遇から3週間ほど経った日のことだった。
 ここ数日はまるで見えない何かによって操作でもされているのでは、と疑いたくなるような日が続いていた。
 何故なら、司と夜鷹の生活が完全に入れ違っていたからだ。
 司が名古屋にいる日は夜鷹が東京にいたり、夜鷹が名古屋にいる日は、司の方に臨時のアルバイトが入っていたりして、夜鷹が起きている時間に司は熟睡中で、逆に司が起き出した時間に夜鷹がベッドに入ったりしていた。
 夜鷹は電話やメールがあまり好きではない。
 声や文字からだけでは入ってくる情報が少な過ぎて、夜鷹には司がどんな顔をしてその言葉を口にしているのか、指で打っているのか想像することしかできないのがもどかしい。声を聞けば会いたくなる。会って触って存在を自分の手で確かめたくなる。
 けれど声も聞けない、会話もできないという状態は、それ以上にストレスが溜まるのだと、夜鷹は初めて知った。
 夕陽が部屋に差し込む時間に、シャワーを浴びて浴室から出てきた夜鷹が、メッセージアプリを開いても司からの連絡はなかった。
 夜鷹はまめな方ではないし、用事がなければ連絡もしない。どちらかというと司の方からの連絡の方が多いのだが、その内容は主に所属しているスケートクラブや臨時で入るアルバイトのスケジュールについてだ。
 随分と先の予定であっても決まった時点で、きちんと連絡してくるのだが、これは恋人同士の連絡というよりも業務連絡に近い。
 あの子は、本当に恋人になった自覚があるのだろうか。と常々夜鷹は疑問に思っている。
「……僕を放っておくとはいい度胸だ」
 自分から連絡すればいいだけなのだが、そのことは棚上げしてつぶやいた夜鷹の恨み言を聞き取ったかのように、スマホがぴこん、とメッセージを受信する。
 いそいそとスマホを確認すると、送ってきたのは想い人ではなく、3週間前に初めて顔を合わせた兄の方だった。 
 思わず舌打ちする。
 連絡先を教えたのは軽率だったかもしれない、と後悔しながらメッセージを開く。
 寝ちゃった、というメッセージと共に送られてきたのは、一枚の画像。
 画面の右端に映る肇とカメラの距離がやたらと近いのは、自撮りの方法で撮影したからだろう。
 端に映り込んでいるテーブルの上には半分ほど中身の残ったビールジョッキと、料理を取り分けたであろう皿が何枚かと使った形跡のある割り箸が置かれていて、どこかの店で飲んだであろうことが推察される。
 問題はそこじゃない。
 問題なのは、座敷席で胡座を組んで座る肇の膝を枕がわりにして眠っている男の方だ。
 軽く捲れたシャツから腹筋と、ズボンからわずかに腰骨が覗いている。肇の太ももに力なく手を置いて、甘えているように見えなくもない姿で写っているその男は、間違いなく司だ。
「は?」
 地を這うような声が夜鷹の口から出た。
 スマホを壁に投げつけこそしなかったが、圧をかけ過ぎて掌の中でみしっと軋む音がする。
 夜鷹は素早く「迎えに行く。どこの店か教えて」とメッセージを返すと、クローゼットからコートを取り出して羽織った。

 タクシーで店の前に乗りつけた夜鷹は、肇の膝枕で幸せそうに眠る司を叩き起こすと、寝ぼけ眼をこする司にミネラルウォーターを飲ませ、居残らせておいたタクシーでそのまま自宅へ連れ帰った。
 不機嫌という名の低気圧を冠した夜鷹の去り際に「お代はこっちが持つから気にしなくていいよー」とへらへら笑う肇の頭に、テーブルの上のジョッキをひっくり返してやりたかったが、生憎夜鷹の手は司の介抱で塞がっていたことが悔やまれる。
 ソファに座ってペットボトル一本分の水を飲み終えた司は、ようやく目が覚め始めたようだ。
 ぽやぽやとしていた目元が、少しずつはっきりとしていく。
「すみません、迎えに来てくれたんですね」
「君って酔うと誰にでもこうなの?」
 何の話だ、と首を傾げる司に、夜鷹は肇からのメッセージを見せる。
 はあ、と司が深いため息をついた。
「夜鷹さん、何回も言ってますけど相手は兄です」
 血を分けた兄弟だろうがなんだろうが、司が夜鷹以外の男の前で無防備な姿を晒すのは不愉快だ。
 それもよりによってあの男、明浦路肇の前で。
 この画像からは、夜鷹を煽ろうとしているとしか思えない悪意が見える。にこにこ笑ってはいるがその裏で、何を考えているのか掴みにくいところが夜鷹の癪に触る男だ。
「信用ならない」
「……そうですか。よくわかりました」
「司くん?」
「夜鷹さんにとって俺は、誰にでも簡単にほいほいついていくような軽佻浮薄で信用ならない人間なんだってことが、よくわかりました」
「そんなこと一言も言ってない」
「もういいです」
「どこ行くの」
「帰ります」
 夜鷹の傍をすり抜けようとする司から、ふわりとスパイスウッドの香りが漂ってきて、夜鷹は思わずその腕を掴んだ。それは初めて会った時に、肇がつけていた香りと同じだった。
「……香水の匂いがする」
「はあ?」
 多分移り香なのだろう、司には自覚がないようだ。
「不愉快だからお風呂に入って」
「いや、あの、いま喧嘩してるんですけど」
「いいから、風呂に、入れ」
「ちょっと、引っ張るのやめて下さい。うわあああ! ベルトに手をかけるな! わかりましたお風呂入ります! 服も自分で脱げますから!」
 浴室に入ってシャワーをかけられている間も、夜鷹の不満は止まるところを知らず、シャワーチェアに座らせた司の髪を、もしゃもしゃと洗いながらもぶつくさと文句を垂れている。
「僕に連絡する時間はないのに、他の男と飲んでる時間はあったわけだ」
「言い方! 他の男って兄ですからね!? たまたま会社帰りのところに鉢合わせただけです!」
「本当に偶然? またストーカーされてたんじゃないの」
「されてませんし俺のことストーカーする人なんていません」
「危機感がない上に学習能力もない」
「学習能力がないのはどっちだよ! 相手は兄だって何回言わせるんですか!」
 ジャーっと頭から盛大にシャワーを浴びせられた司は、シャンプーが入りそうになって慌てて目を閉じた。
 強制的に黙るしかない状態にされてまだまだ反論し足りない司はドライヤーが稼働している間こそ、会話が聞こえないから黙っていたが、夜鷹が髪を乾かし終えてもまだ仏頂面のままだった。その首元に鼻を近づけて匂いを嗅ぐと、あの不愉快な香水はすっかり消え去って夜鷹が使っているシャンプーの清潔な香りしかしない。
 そのことでようやく満足した夜鷹の不機嫌が、急速に回復していく。
「なんで怒ってるの」
「貴方が少しも俺のことを信用してくれないからです」
「信用してるよ」
「さっき、信用ならないって言ったじゃないですか」
「君のことじゃない」
「じゃあ誰のことなんですか」
「……君のお兄さん」
「はああ!? 夜鷹さんいい加減怒りますよ」
「さっきからずっと怒ってるくせに」
「俺のことはどれだけ悪く言ってもいいですけど、兄のことを悪く言うのはやめて下さい!」
「恋人の君のことを、悪く言う道理がない」
 司は黙り込んだ。
 決して許したからではない。これ以上話しても、夜鷹との会話は互いの平行線上を滑るだけだと思ったからだ。
 司は無表情で立ち上がると玄関で靴を履く。
「司くん」
 呼び止める夜鷹の声を背中で跳ね除けて、靴紐を結びながら聞こえないくらい小さな声で呟く。
「俺の人生の半分以上掻っ攫ってるくせに……全然分かってない」
 ドアノブに手をかけざま、振り返って渾身の雑言を浴びせた。
「夜鷹さんのばーか!」
 呆気に取られている間に、司はドアから外へ出て行ってしまった。
 呆然と立ち尽くす夜鷹を部屋の中に残して、ばたんとドアが閉まる無情な音。
 どのくらい固まっていただろうか、夜鷹の口からぽろりと声が漏れた。
「かわいい」
 本気の怒りを表出する恋人の語彙のなさに、夜鷹の胸はときめいた。


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コメント

  • *遼*
    6月10日
  • 夜猫
    1月31日
  • Serene玥
    1月28日
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