light
この作品「夜鷹語講座」は「mdlstCP」「mdlstBL」等のタグがつけられた作品です。
夜鷹語講座/かわかみの小説

夜鷹語講座

5,564文字11分

久しぶりによだつか。
軽めの明るいものを書きました。司くんがわーわーしてるの好きです。
いつもながら鴗鳥一家を巻き込む大人二人のあれこれ話。さっくりふんわり読めます。
謎軸。数年後くらい。その辺りはぼかしてます。

9月のよだつかプチイベント参加を考え中です。
諸々はこれからです。動きましたらXとかキャプションでお知らせします。

1
white
horizontal

 この日、珍しいことが起きた。
 まず、昼にルクス東山にスケート連盟から届いた書類の中身が、名港ウィンドのものだったことが判明した。
「あらら……珍しい」
「宛先はここですね」
「中身が入れ替わってるわね、これ」
 封筒を開けたあと、記載されていた選手の名前が違うことに気付いた瞳が言った。
「名港にも連絡するとして……送る?それとも」
「あ、俺がお使いしますよ」
 急ぎの書類ではなかったが、いのりが学校行事で練習がお休みだったこともあり、司はお使いの名乗りを上げた。
「じゃあ、連絡しておくわね」
 そして、夕方に名港に向かえば、わざわざヘッドコーチの鴗鳥が丁寧に礼をしてくれて、ついでにと久しぶりに理凰のスケーティングを見て、さらにアシスタントコーチたちとなんやかんや話していたら、あっという間に夜になった。
 瞳からは直帰でいいと、あらかじめ言われていたし、さて帰ろうと名港の人たちに挨拶をしてたところ、鴗鳥の親子にぜひ家に!と夕食を強く誘われて、司は流れるように鴗鳥家へとお邪魔したのだった。
「いらっしゃい、明浦路先生」
 突然の訪問にも、エイヴァはにこやかに招き入れてくれて、美味しい夕食をご馳走になった。
 食器洗いを手伝って、ついでにとばかりにお風呂にまで入らせてもらった。
 夜も更けて、汐恩と理凰は明日も早く宿題があるからと、名残惜しげに自室へ戻っていった。
 そして、大人だけの時間になると、エイヴァが嬉しそうに司に尋ねた。
「明浦路先生って、お酒飲めますよね?」
「多少は、ですけど」
「なら、飲みませんか?実家からいろいろ送られてくるんですけど、お酒を飲む人が少なくて、瓶が減らないんですよ」
 助けて、と笑いながら棚に並べてある酒瓶を見せてもらうと、どれも外国のもので、アルコール度数が高いものだと、一目でわかった。
 エイヴァは棚から何本か選んで、鴗鳥はグラスを、司はつまみになるあれこれを持ってバルコニーに向かった。
 数年前、夜鷹と二度目に会ったのもこの場所だったなと懐かしさを覚えながら、司は席に着いた。
 あの時から、ずいぶんと時間が経った。
「とりあえず、初めは甘めのものにしましょうか!あとはこれもオススメ!」
「明浦路先生、妻は本当にお酒が強いので、合わせて飲まないほうがいいですよ。お茶でも飲んで話相手をしてくださるだけで大丈夫ですから」
 はしゃぐエイヴァに対して、こそりと司にフォローをいれる鴗鳥。そんな二人に、司は自然と笑みを浮かべる。
「なら、少しだけ、飲ませてもらうことにしますね」

 結果、エイヴァは大いに酔っぱらい、司もいつもより酔ってしまっていた。
 慎一郎からの助言もあり、エイヴァほど飲んでいないのだが、度数は高いが口当たりがよく、つい飲む量を調整できなかったのが原因だ。
 話の内容は主に鴗鳥の家族のこと、スケートのこと、そして一番盛り上がったのは、目の前にいてゆっくりとお茶を飲んでいる元銀メダリストの鴗鳥慎一郎のスケートについてだった。
「鴗鳥先生のエキシビションは本当に、素晴らしかったです!あのヒヨコ?アヒル?でしたっけ、あれ会場で欲しかったなぁ」
「そう!うちの子たちはドン引きしてたけど!本番とエキシビションのあのギャップがたまらないのに!」 
「わかります!先生は全力で楽しませてましたね!」
「明浦路先生ならわかってくださると思ってました!」
「もちろんです!」
「…………なんだか照れちゃうな」
 恥ずかしそうにしている鴗鳥の手を、横にいたエイヴァが優しく握る。
「そんな貴方だから、私は惹かれたのよ」
「こら……明浦路先生がいらっしゃるから、ね」
 情熱的なエイヴァの言葉に、慎一郎はちらりと司を見ながら照れていた。
「あぁ、俺のことはお構いなく」
 目の前で繰り広げられるいちゃいちゃも、司はにこにこと見守っていた。
 幸せな光景をみると、自分まで幸せな気分になる。
「二人とも、飲みすぎたみたいだね。お水をとってくるよ」
 鴗鳥は恥ずかしそうにそう言って、席を立った。
 その大きな背中を愛おしそうに見つめながら、エイヴァは司に、微笑んだ。
「私ね、明浦路先生にずっとお礼が言いたかったの」
「お礼?理凰さんのことですか?」
「そんな何年も前のことじゃないわ」
 ふふっと笑いながら、エイヴァはウイスキーが入ったグラスを傾けた。
「私ね、明浦路先生と純がお付き合いしてるって聞いて、すごく安心したの」
「安心……?」
 司と夜鷹は、二人の共通となる鴗鳥一家を巻き込んで、なんやかんやあって付き合うことになった。
 エイヴァも知っていることだとは聞いていたが、改めてこうして話すのは初めてだった。
「もしかしたら純は慎一郎に叶わぬ恋をしているんじゃないかって……何度も思っていて」
「あー……」
 エイヴァの言葉は、夜鷹と鴗鳥のファンだった司も、なんとなく思い当たることがあった。
 選手時代から、鴗鳥は夜鷹に対して何かと気を配っていたし、コーチすら邪魔だと言い切る孤高の夜鷹も、唯一慎一郎の言葉には耳を傾ける。
 雑誌やネットでも、あの夜鷹が心を開くのは鴗鳥だけだ、もしかして彼らは、なんて憶測が流れたこともある。
 それは鴗鳥が結婚したことで噂はパタリと消えたが、その鴗鳥と結婚したエイヴァですら、もしやと思ってしまうほど、彼らは濃い関係が続いているのだ。
「だってね!純ったら慎一郎に頼りすぎてるし、慎一郎もそんな純にものすごく甘いのよ!あの人が好きなケーキみたいに甘々なのよ!しかも純は当たり前のように慎一郎の親切を享受してて!それなのに慎一郎はただの友情っていうし。二人の間には、私でも入れない世界があって、ちょっと悔しかったの」
 普段明るいエイヴァから聞く可愛らしい嫉妬の言葉に、司は思わず笑ってしまった。
「本当に、鴗鳥先生のことがお好きなんですね」
「もちろんよ!結婚してもずっと恋してるの!」
 情熱的な言葉だ。 
 お酒を飲んで、高揚しているのもあった。だから、司はつい、心の中の言葉を漏らしてしまった。
「俺も、恋したいなぁ」

「――してるでしょ?僕に」

 突然、暗闇が氷のような冷たい言葉でエイヴァと司の空気を刺した。
「え……?」
「あら、いらっしゃい」
 酩酊しているエイヴァは、冷たい空気を感じさせない明るさで夜鷹に軽く手を上げる。
「純、来る予定なかったわよね?」
「私が連絡したんだよ。明浦路先生、だいぶ飲まれていたからね」
 司の横に夜鷹が座り、煎茶を人数分用意した慎一郎はエイヴァの横に座った。
「それで、何の話をしていたんだい?」
「えっと……」
 本人たちを前にどういえばいいか、酔った頭で考えるが、それより先にエイヴァが口を開いた。
「純と慎一郎の二人の仲が良くて羨ましいって話をしていたの」
「ち、ちょっと……!」
 慌てる司に、エイヴァは楽しそうに笑っている。
 慎一郎は参ったなと頭をかき、夜鷹は煙草に火をつけて表情を変えずにこちらを向いた。
「慎一郎くんに嫉妬してるの?」
 へぇ、と。
 見下すような冷たい視線が痛い。
「しちゃ、いけませんか?!」
 だがアルコールを摂取している司の脳は、いつもよりも心が大きくなっていた。
「君だって、友達いるでしょ」
「いますけど!お二人のような親密さというか、濃い関係なんて、そうそうないですよ」
「まぁ、純くんとは長い付き合いなので……」
 鴗鳥がどうにかフォローしようとするが、それをかき消すように、夜鷹は白い煙をふうと吐いた。
「ふぅん」
 なんでちょっと嬉しそうなんだよ。むかつくな。
 感情を隠すことなく司が口を尖らせると、夜鷹がその頬を掴んだ。
「慎一郎くんと君の違いなんて、一つしかないよ」
「なんれしゅか?」
「君とはセックスできる。それだけ」
 ぱっと手を離した夜鷹は、どこか満足げだった。
 これだけいえばわかるだろ?とでも言うように。
「はぁ?」
 だが、そんな夜鷹の言葉に司の顔が阿修羅のごとく怒りに変わっていく。
 エイヴァはけらけら笑っている。
「純君、それは……」
 鴗鳥はどうしたものかと顔に手を当てている。
「お、俺とは!体だけの関係ですか!」
「……は?なんでそうなるの?」
「なんで言った夜鷹さんが残念そうに溜息つくんですか!言われた俺のほうが泣きたくなってますが!?」
「慎一郎くんならわかってくれるのに」
「なら、その全部わかってくれる慎一郎くんとセックスもしてもらってください!」
 ガタン!と勢いよく立ち上がると、顔を赤くした司は鴗鳥夫婦に「すみません!ちょっと走ってきます!失礼します!」と早口で言うとそのまま玄関を飛び出していった。
 
「……純君、いまのは明らかに言葉が足りないよ」
「あれだけ言ったら、わかるでしょ」
「今までならそれでもよかったけど、純君は明浦路先生と別れたくないよね?」
「なんでそんな話になるの」
「もう少し、相手に伝わるように話さなきゃ。君の短い言葉でも、長い付き合いでその真意を理解できてしまうから、私もいままで何も言わなかったけど、明浦路先生の立場になって考えてみないと」
「難しい」
「大丈夫、明浦路先生は純君のこと、ちゃんと理解してくださるから」
「純、私からもいいかしら?」
 エイヴァがニコニコと笑いながら夜鷹を見る瞳には、嫉妬の炎が揺らめいていた。
 その手にはグラスと、空になった瓶を握られていて、彼女もだいぶ酔っていることがわかる。
「……なに?」
「慎一郎とセックスしたら、氷漬けにしてやるからね」
「エイヴァ……」
 いつも朗らかで明るい妻の情熱的な炎に燃えているのを見て、鴗鳥は困り顔でエイヴァと夜鷹を交互に見る。
「本当に……あり得ない」
 酔っぱらいの戯言だと聞き流し、夜鷹は煙草を取り出した。 
  

「あ゛ーーーーほんと!なんなんだよ!俺は体だけか!セフレか!!鴗鳥先生の代わりか!!」
 爆走しながら、頭が沸騰してきっと湯気が立っている。
 さながら暴走機関車だ。
「あーもう!一瞬でも体だけでも嬉しいとか思っちゃった俺!!ほんと馬鹿!!!夜鷹オタクすぎるだろ!」
 なんでも共有したい、理解できるなんて烏滸がましいことは思わない。ましてや相手はスケート以外はバッドコミュニケーションしかできない夜鷹純だ。
 走り続けていたせいなのか、胸が苦しくて立ち止まってしまう。
「く、そー!俺は、日本語しか、得意じゃ、ないんだぞ!」
 いつまでも喧嘩の度に鴗鳥の通訳を介さないと意思疎通ができないなんて、何のための恋人同士なのか。
「夜鷹語!ぜったい習得してやる!!」
 酔っぱらいの思考では、これがいかにおかしな決意をしているか、わからないのであった。 
  
「おかえり」
 帰りも鬱屈した気持ちを払おうと全力で戻ってみれば、鴗鳥の家の玄関の柱にもたれかかるようにして夜鷹が煙草を吸いながら立っていた。
 自分を待っていてくれたのか、あの夜鷹純が。
 夜鷹が立っていただけで、司は尻尾があれば全力で横に振っていたであろうほどの喜びのGOE+5なのだが、まだ怒りは燻っているわけで。  
「なん、ですか……はぁ、体、だけ、なら、お断り、します、よ」
 全力で戻ってきて、ぜえぜえと息を切らしながら拗ねる司に、夜鷹が近づいた。
「僕は、そんなに性欲強くないよ」
「は?」
 酸素がようやく脳に回ってきたと思ったら、さっそくの夜鷹語に、司の顔が歪み。
 日本語なのに翻訳希望である。
「君だから、抱きたいんだよ」
 これなら、通じる?
 こてん、と顔を傾けた夜鷹に、司は悔しそうに唸ってしまう。
「う、ぐぅ…」
 くそ、年上に、可愛さで絆されそうになるなんて。
 ようやく息が整った司は、しっかりと夜鷹に向き合う。
「俺だって、夜鷹さんが好きだから、セックスしたいんですよ」
「じゃあ、同じだね」
 ほんとに。
 ほんとーーーーーーーに。
 いくらコミュニケーション能力が高い司ですら、拗れるくらい、夜鷹はこれなのだ。
「あーーーーもう!」
 もやもやを吹き飛ばすように、司はがばっと勢いつけて夜鷹を抱きしめた。
「なに、苦しいんだけど」
「いいから!黙っててください」
 司の言葉に、重いため息を吐いたあとは、夜鷹はされるままになった。
 煙草の苦い煙の匂いと、夜鷹の体温が司の心を落ち着かせる。
「俺は、鴗鳥先生みたいに夜鷹さんとはまだ付き合いは長くないですし、きっと鴗鳥先生みたいに夜鷹さんのことを、何から何までわかってやれないと思います」
「そうだね」
「……それでも、俺はあなたの事を理解しようと努力します。夜鷹語を勉強するので、夜鷹さんも努力してください」
「……僕も明浦路語を学べってこと?」
「そこだけなんか理解早いですね!」
 まだまだ前途多難な二人の熱い抱擁とやりとりを、後ろから優しく見守る鴗鳥夫婦がいた。



 蛇足となる二人のその後。
 司は、己の才能がいかに万能か、また夜鷹を好きすぎて努力を惜しまないかを知らなかった。
「……」
「あ、だめですよ!鴗鳥先生も忙しいので俺で我慢してください」
「……」
「お風呂ですか?まだ掃除してないですよ」
 数カ月後、あっさり夜鷹語をマスターし、鴗鳥以上に夜鷹の単語のような言葉と、空気、さらには変わらない表情からですら夜鷹純という人間を理解してしまうのだった。
「司」
「……い、いまは、キスだけで、我慢してください」
「やだ」
「あ、ちょっ、と……ッ」

コメント

  • fujisaki
    2025年5月8日
  • Lilith
    2025年5月7日
  • みりん
    2025年5月7日
センシティブな内容が含まれている可能性のある作品は一覧に表示されません
人気のイラストタグ
人気の小説タグ