明浦路司という男
よだつか、いのつか、りおつか……その他多数。正直推しが愛されていて欲しい人間なので想いを全部ぶち込みました。
ついに原作を知った時からアニメで見れることを待望していた「見なよ俺の司を」回です。
このタイミングで明浦路司愛され小説をアップすると決めてました。ただアニメ後に生きていられる自信がないので先行あぷします。
→一週早すぎでしたが、もうフラグしかないのでオッケーと言うことにしました。
司先生へのみんなの愛がテーマだったので、それぞれのCPとしては弱すぎるところもあるかと思いますが、愛はあるので、私の、推しへの愛だけは。
普通に原作のネタバレあります。
いつもコメントありがとうございます………
どの形でも嬉しくてたまらないのですが見直してニヤニヤしたいのでこちらにいただけますととても嬉しいです😭
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司先生のスケートが視聴者の脳を焼くと確信しています。おいでよ明浦路司の沼!!!
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高峰瞳の《フィリア》
お父さんがある日突然連れ帰ってきた、年下の男の子。
「離れたくない」といったって引き継ぎの間のたった数日というのにこれでもかと寂しがって見せた親バカぶりも中学の時の本気の反抗以来は落ち着いているが、やはり中々に根深い。
そんなお父さんが名古屋のお土産と共に私に〝渡した〟のが彼だった。
これから父に師事することになったという聞きなれない苗字の二十歳の青年は深々と頭を下げた。
「明浦路司です!シングルも…アイスダンスも未経験ですが頑張ります。よろしくお願いします!」
少し緊張した様子の、元気で明るいどこにでもいそうな青年だった。苗字が難しかったのですぐに「司くん」と呼ぶようにした。
正直、お父さんの正気を失った。私の後に同じく自己紹介を受けたアイスダンスの同志であるコウくんやジュナくんもすごい顔をしていた。それほどにその口から出た経歴は信じがたいものだった。
(……だってそれって、全くの素人ってことじゃない)
スケートは世間が思うよりもずっと狭い世界だ。いなくなっていく人間は多く、共に競い合う者は必然的に顔馴染みばかりになっていく。それこそ合宿や大会上位者な知り合いについては好きなものも最近買ったペットも何回転を練習しているのかも知っている。
けれど誰も司くんを知らなかった。そもそもこの歳でスケートレッスン未経験者なんて知らなくて当然だ。そんな彼をお父さんは私たちに紹介した。つまりスケートを滑ることを趣味とするのではなく、選手としてスケートリンクに立つということだ。
「こいつはアイスダンスの選手として練習する」
11歳でも遅いと言われるのに、20歳でスケートを始める?そんなの馬鹿げてる。無謀というより、無駄だ。言葉にせずに誰もがそう思った。
アイスダンスは、誰かと手を繋ぐスポーツだ。
それなのに、私には同じ歩幅で滑る誰かがいなかった。クラブで一番うまいと言われた。それだけの練習をこなしてきたし、結果だって出してきた。けれどそうして突き詰めていった結果ーーー隣には誰もいなかった。
アイスダンスは、実力が人を殺すこともある。スケートがうまくできることがこの競技で成功することとイコールにはならない。実力差の乖離は、致命的な欠陥だ。
アイスダンスは氷の神様の天秤の上にある。実力を載せた天秤が満足に釣り合わなければ共に立つことを許されない。
「瞳、こいつがお前のパートナーになるかもしれない男だ。もちろん合格点が出せなきゃ認めないからまだパートナー見習いってとこだな」
お父さんの言葉はブラックジョークだと受け流した。
誰もついてこれない私のスケートの反対に乗せられる重しにこの子がなれるはずがなかったから。
素人だと司くんは名乗った。
初めて彼が滑る姿を見た。転ぶことも躓くこともなく、自然と美しく滑れていた。フィギュアよりも厚いルールブックのアイスダンスのルールにまだ対応はできないだろうが、それでも末恐ろしさすら感じるほどに基本ができている。これで彼があと10年若ければ、あの夜鷹純にも並べたかもしれない。
(……本当に、持ってない子)
私はお父さんの指導を受ける司くんを尻目に、一人で氷を滑った。
最初に気づいたのは、コウちゃんだった。興奮冷めやらぬ様子で、
「司くんは、凄いよ」
「司くんには才能がある」
「司くんはきっと、瞳ちゃんのパートナーになってみせるだろうね」
その言葉で、ようやく私は司くんという一人のスケート選手を意識した。
それからしばらく経っても私にとって司くんは元気で明るい年下のアイスダンスを始めた素人の子でしかなかった。
「おはようございます!」
「今日はいい天気でスケート日和ですね!」
「今日迷子の犬を見つけたんですけど、無事に飼い主さんが見つかったって聞いて朝から嬉しくて!」
「えっ、いいんですかありがとうございます!美味しそうなお菓子………マカロン?初めて食べます、いや、皆さんから先に……えっと、じゃあ苺味でもいいですか?」
誰にも分け隔てなく話しかけ、壁を作らない。嘘をつくこともしない、真っ直ぐな子。人の悪口を言うことなく、その人のいい部分を自然と見つけられる。そしてそれに嫉妬するのではなく、本心からの賞賛を向けられる善人。
自分以外の誰かのことを心から信頼できる子だから、アイスダンス向きの性格ではあるなと思った。
多分みんな、弟ができたような気持ちだった。明るくて、素直で、まっすぐで、心根が本当に綺麗な子。誰かを憤りの捌け口に絶対にしない、聖人……にしては暑苦しいかもしれないけれど、本当に純粋な子だった。そして何よりスケートに真剣に向き合っている子だった。
皆司くんのことを好きになっていた。
誰からも愛されることなんてできないけれど、人より遥かに多くの愛を向けられるべき子だった。
「瞳、ちょっとこいつと滑ってやってくれ」
お父さんがそう言ったのは司くんがこのクラブに来て僅か半年後のことだった。目を丸くして、頷いた。
一回目の並走は悲惨というしかなかった。お父さんが「普段通りでいい」と言ったから言葉通り一切気遣いはしなかった。当然私は司くんを置き去りにしたし、司くんは振り回されて何度も転んだ。てんで形にならなかった。ステップ一つ、踏めない。
その後お父さんの指示で本来滑るはずだったルートを一人で滑って見せて、その日の練習は終わった。
「瞳さん、今日もよろしくお願いします!」
それから数日後、また同じように滑った。前回と同じルート、同じステップ。不格好ながらも、司くんはロデオマシーンにしがみつくように私のスケートについてきていた。あんなに悲惨だったのに、たった数日でどうやって。それから同じようなことを繰り返した。彼がついてこれずに失敗し、私が一人で滑り、数日あけてまた彼がついてくる。気づけば共に基本のステップが踏めるようになっていた。
こんなの、普通じゃありえない。運動神経がいい、なんて言葉でスケートは決まらない。氷の上という確実性の存在しない世界で、私たちは奇跡を起こさなくちゃいけない。
司くんは存在自体が、奇跡みたいな子だった。
たった一度見ただけで、司くんはプログラムを模倣してしまえた。お父さんの指導の正確さを一番よく知るのは私で、司くんのスケートは元々基礎がしっかりしていたが、アイスダンスで戦えるレベルの演技に引き上げられた。
一年が経った頃、私に並ぶことに必死だった司くんが私より数歩、数センチ程度前にいることに気づいた。私のことを、リードしようとしている。それはきっとアイスダンス選手としての司くんの産声だった。
その時、私は初めて彼を見た。
自分のアイスダンスパートナーになるかもしれない、いや、なるだろう彼のことを。
―――本気だった。
彼は本気で、それこそ身を削り、命すら燃やして氷上に立っていた。
死に物狂いで、私を見る瞳は熱くて痛々しくてなのに目を焼くほどに眩しくて。氷上で生きたいと、足掻く獣がそこにいた。
(―――呑まれる)
技術以外の部分で私は司くんに負けていたことを自覚した。年齢的に今度の大会が最後になるだろう。大会慣れとでもいうのか、次なんてもうどこにもないとわかっていた。けれど本当の意味で理解していなかった。今このリンクの上で女神の天秤は司くんの方に傾いていた。気持ちが、覚悟が足りないのは私の方だった。
長らく一人だった。繋ぐ手の温かさが遠くなり、自分以外の誰かと走ることを忘れていた。
(私が導くんじゃない。一緒に戦うんだ)
アイスダンスのパートナーは人という漢字では表現できない。互いに支え合うだけじゃない、一人で立っているだけじゃない。私たちは、二人じゃない。一つのスケート選手という生き物にならなくちゃいけない。
スケート歴が足りない彼を、私が導いてあげてここまで来たのだと周囲は勘違いしている。誰も本当の意味での彼を知らない。導いたわけじゃない。合わせることなんてしなかった。彼が私と同じ速度で走り、私が彼と同じものを夢見たのだ。孤独に慣れ始めていた私のスケートの最後を共に戦ってくれる人。
司くんは私の最後のスケートの、最高の贈り物だった。
司くんは私の半身だった。リンクを降りても、その思いは変わらない。最後の大会で望む色のメダルは貰えず世界への切符は掴み取れなかった。司くんは私に何度も謝った。けどあれは二人のミスで、司くんだけが悪いなんてことは絶対にない。私は司くんと組めたことが誇りだった。司くんしか、私のパートナーはいなかった。
彼のスケートを一番知っているのは私だ。その気持ちは今も変わらない。
(だって一番近くで司くんのスケートを見てきたのは私だもの)
司くんのスケートがどれだけ辛く孤独で自分を信じられなくなるほどの絶望の積み木の上に成り立っているのか知っている。どれだけ氷を愛しているのか、縋るように私の手を掴んだ体温を知っている。私は、私たちのスケートを愛している。司くんのスケートは、私の誇りなのだ。
だから、司くんが燻っているのが嫌だった。
「うちのクラブのアシスタントコーチになってよ」
引退したらコーチになりたいと、氷と共に生きていきたいと願っていた彼の願いを覚えている。そのために全ての理不尽に奥歯を加味して争っていた彼のことを。
何も知らない有象無象の言葉に司くんの優しく、力強く、真っ直ぐなスケートが押しつぶされていることが嫌だった。司くんが私のスケートを終わらせたんじゃない。司くんがいたから、全日本に出場できた。私にとってあの日を惜しむ声はみんな、司くんがオリンピック選手として立つことが終わってしまった現実を惜しむ声にしか聞こえない。
最後のパートナーの過去を思い出す。たった一人、6年間クラブに入るためにアルバイトを掛け持ちしながらスケートを続けていた。お父さんに目をかけられ、このクラブに流れてきた。そこで偶々ペアのいなかった私にあてがわれた。そして全日本選手権への出場資格を勝ち取った。奇跡の連続により司くんは今この場にいて、それは全て彼自身が身を捧げて掴み取ってきたものだ。
才能という言葉で彼を表現したくなかった。才能のあるなしじゃない、他の誰にもできないことを成し遂げた彼の人生の全て。
私は信じている。世界の誰よりも、彼のスケートを信じている。共に戦うのは貴方しかいない。だから彼が黄金に輝くメダルの色を知るその日まで、卑屈に丸まろうとするその背を叩くのは私の役目だ。
「ほらっ、いのりちゃんが待ってるよ!」
※フィリア………友人同士の深い愛