沖縄の平和団体に忍び寄る「紅い包囲網」の実態とは(時事通信フォト)

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 修学旅行生ら2名の犠牲者を出す転覆事故を起こした沖縄・辺野古の平和団体が、中国共産党系メディアの記者を抗議船に乗せ、米軍基地に接近、撮影を許可した──そう報じた本誌「週刊ポスト」の記事には大反響が寄せられたが、中国共産党の「対日工作」はそれだけに留まらない。沖縄の平和団体に忍び寄る「紅い包囲網」の実態を、紀実作家の安田峰俊氏が追った。【前後編の前編】

【写真】中国語の横断幕を掲げながら自衛隊員に請願書を渡す中国側訪問団のメンバー

中国語のシュプレヒコール

 1本の動画がある。

 2026年4月3日、沖縄県の陸上自衛隊勝連分屯地前。長距離ミサイルの配備に反対する市民団体が、自衛官に要望書を手渡す様子が収められている。往年に深刻な戦争被害を受けた沖縄では、平和思想が強い。一見すると、現地で日常的に見られる反戦運動である。

 だが、動画には異様な点があった。日本国内の運動にもかかわらず、中国語で「日米軍事同盟の阻止」と書かれた横断幕。さらに「中国にミサイルを向けるな」「自衛隊のミサイルは出て行け」と、分屯地前で中国語のシュプレヒコールを上げる姿も記録されている──。

 抗議活動を主導したのは、「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」(以下、ノーモア)。台湾有事に備えた自衛隊の南西諸島防衛体制や在日米軍の活動に反対する、沖縄の市民団体だ。

 彼らはこの日、他の市民団体に加えて中国からの「和平訪問団」とも連帯し、抗議を行なっていた。日米安保筋は話す。

「同様の中国人団体を引き込んだ分屯地への接近は、昨年4月にも行なわれている。今回が2回目とみられます」

 やってきた中国人たちは何者なのか? やや説明が必要になる。

 中国では従来、大戦中の侵略被害をめぐり、「中国民間対日賠償請求連合会」という団体が日本政府に請求運動を行なってきた。今回の和平訪問団も、この団体のメンバーと、中国側で集められた戦争被害者の遺族である。

 こうした被害の訴え自体は、日本人として向き合うべき歴史問題だろう。ただし問題は、一党専制国家である中国に、純粋な「民間」運動はほとんど存在しないという冷酷な事実だ。

「われわれの運動には党の一部の後ろ盾がある」

 2015年4月、私が中国吉林省で取材した同会幹部(当時)の王錦思氏はそう明言していた。

 事実、同会の設立時の名誉会長は、統一戦線工作部(党の協力者獲得部門)の元部長や元海軍上将。さらに顧問は、中国の核ミサイル部隊の政治将校だった元中将らだ。つまり、党や軍の保守派の長老たちが、彼らの「後ろ盾」ということだ。

 今回の訪問団の参加者も、侵略戦争被害研究家を名乗る李暁方氏は元軍人。過去に浙江省の広電総局(言論統制部門)を率いる立場だった中堅クラスの党官僚OBだ。

 一方、動画では訪問団にこんな挨拶をする沖縄側の人物もいた。

「(交流を通じて)中国も二度と戦争をしないということを確認したいと思っています」

 だが、通訳された中国語を聞くと、こうした中国側に不都合な意見はまったく訳されていない。歪な交流と言っていい。

チャイナマネーの提供打診

 この抗議活動を行なったノーモアは、2022年1月に結成された。鳩山友紀夫・元総理のシンクタンクと関係が深く、沖縄メディアでもしばしば好意的に取り上げられる。近年の沖縄平和運動の主役の一角を占める団体だ。ただ、その「平和運動」には、中国共産党員や関連団体との密接な往来も少なからず含まれる。

「2024年に、活動で"友達"になった30代の中国人男性から、中国深センへの個人旅行に招待されました。旅費は全額、あちらの負担でした」

 取材にこう話すのが、同団体の元共同代表・宮里氏(仮名、30代女性)だ。深センに呼ばれたのは、沖縄出身の他の女性活動家と合わせて計2人。現地では極めて豪華なホテルが準備されていた。

「この"友達"は日本語が流暢。日中関係の研究施設に所属する中国共産党員だと言っていました。この当時、私が革新系候補を支援していた沖縄県議選にも詳しかった」

 彼は自民党の特定候補者の名を挙げ『落選すればいい』と話すほど沖縄の政情に精通していた。さらに打ち解けると、真剣な様子で「沖縄の反基地運動と連帯したい」と切り出した。

「私の活動に資金を出すと言われました。さすがに断わったのですが……」

 この人物は、党の協力者獲得工作のエージェントだった可能性が高い。すなわち、党外人士(非党員)や外国人に交流を装い接近して接待。中国や党に好感を抱かせ、最後に利益供与を持ちかけて手駒として取り込む「統一戦線工作」(統戦工作)の実行者だ。

 統戦工作は従来、世論の分断や選挙介入を目的に、香港や台湾で繰り返されてきた。いまや沖縄でも本格的に実行されはじめた一例だと思われる。

 宮里氏にこの人物を紹介したのは、日中関係の中国側重鎮として知られる呉寄南(ウゥ・ジーナン)氏だった。中国外交部と関係が深い上海国際問題研究院に長年所属した、古参の党員だ。

「2023年12月、沖縄選出の参議院議員を団長とする沖縄平和訪中団に参加し、このときは北京に行きました。その際、呉氏から『若者同士で交流せよ』と、例の若手党員を紹介されたんです」

 この北京訪問も「自分は費用を出していない」と宮里氏は振り返る。招聘した組織はシンクタンクを名乗っていたものの、実際は軍や外交部・党宣伝部などと密接な関係があった。

 現地では、わずか6人の訪中団を程永華(チェン・ヨンホア)・元駐日大使が対応する厚遇だったという。この"北京詣で"が、結果的に統戦工作の踏み台に使われることとなった。

▼▼▼後編記事▼▼▼

【つづきを読む→】身元不明の中国側の人物が沖縄の平和団体の手引きで辺野古を訪問、抗議船船長らと接触か "中国共産党イデオロギーの最高学府"も関与

【プロフィール】安田峰俊(やすだ・みねとし)/1982年、滋賀県生まれ。立命館大学人文科学研究所客員協力研究員。『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』(KADOKAWA)で第5回城山三郎賞、第50回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。『戦狼中国の対日工作』(文春新書)など著書多数。近著に『民族がわかれば中国がわかる』(中公新書ラクレ)がある。

※週刊ポスト2026年8月7日号