【長編小説】コーヒーを御一緒に
私は、読書をしながら、コーヒーを啜る。毎日読書に明け暮れることの方が、お酒を飲んで享楽するのよりましに思われた。そして、コーヒーを受した方がお酒を飲んで鈍感になるよりましに思われた。私は、知人どまりであった海斗君と逢って対話してみたかった。私は、海斗君にメールで、逢いたいと思っていることと逢う日時と場所を提案した内容を送信した。すぐに私の携帯が鳴った。海斗君は、「その喫茶店で逢いましょう」とメールで返信してくれた。私は感激のあまり「やったー!」とガッツポーズをしていた。
誘った喫茶店に私が待っているのかと思えば、海斗君の方が先に喫茶店の隅でスマホをいじって待っていた。私は、「待たせてごめん」と陳謝したら、海斗君は、「全然大丈夫」と笑ってくれた。前に再開したときより、匂い立つかのような香りが漂っている。顔も線描的な感がある。つまり、前よりは別人のように変わっていたのである。私は、それが彼の善徴なのだと思い、胸が高鳴った。海斗君は、「赤西も、成長したんだね」と薄く笑いを浮かべた。──私も、海斗君も、成長して、前の名残りも殆ど分からないほど変わっていくんだ──そう?私は成長した?海斗君は、嘘吐いてないよね?
海斗君は、素直に、「本の話かと思った」と言ってくれた。私は、村上春樹を読んだのは少しだけだと伝えた。「ノルウェイの森」が面白いとは思えないんじゃないかということを海斗君に打ち明け、海斗君の反応を待つ、という計画があった。海斗君は、ノルウェイの森は、酷評だね、ただ、カップルのエロティシズムが漂い、微妙な作品かもね、といった。
私は、酷評、というのが、誰の価値観なのか、また、微妙な作品というのが、エロティシズム関連のお話なのか、とゆっくり咀嚼しようと試みた。
海斗君は、気さくに話してくれる、話が上手な人だと、私は考えそうになった。海斗君は、二週間前から大学の知人と恋愛関係になったと明かしてくれた。私は、「それはよかったね」と応えた。何てことない、他人の恋愛など口にする気もない。海斗君は、彼女に困っている、と呟いた。なんのこと?というと、彼は、「彼女はギャンブル依存症でさ」というと、溜め息を吐いた。彼は、恋愛っていうのは、先が見えないものだね、とまだ苦笑をする余裕が残っていた。
先が見えない、それは、死ぬまでのすべての過程なのだろうか、と思って、少し怖くなった。海斗君は、彼女のことで頭がいっぱいであるように見えた。ギャンブル依存症、というのは、ギャンブルに没頭してしまい、お金を浪費するおそれがある、という構造と関係があった。私は、「止めるように言わなかったの」といった。彼は、「それは言ったさ。もう賭け事なんて止めておけ、とは何度も言った」と応じた。
それでも、彼女は海斗君のいうことを聞かずにギャンブルを続行した──海斗君が悩みを打ち明けるとは思ってもみなかった。彼女の話が出てくること自体、予想外だった。私は、雑談が目的で、彼は、悩みを解決するのが目的なんだと頭の中を整理した。
私は、コーヒーを頼むためにインターホンを押した。ぴんぽん、とよくある音が鳴った。すぐに店員がやって来た。「レアリアスコーヒーと……海斗君は?」と尋ねた。海斗君は、僕もそのコーヒーで、と小さくいった。お金がかかるのを気にしていたのであろうか。


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