熊本日日新聞が2026年7月22日、「陸自情報部隊が『愛国心』など調査か 国内有識者ら対象に個人情報収集 数千人分、シビリアンコントロール逸脱も」という見出しでスクープを報じた。
陸上自衛隊中央情報隊の対外情報部門「現地情報隊」(朝霞駐屯地)が、日本人の大学教授やNPO法人の代表ら市民を対象に、「愛国心」や「対自衛隊感情」など思想信条に関する情報を調査・収集しているという内容だ。調査・収集に関する現地情報隊の資料や、元隊員への取材に基づいている。
報道を受けて、小泉進次郎防衛大臣は「不適切な活動は確認していない」と発言。マスコミ各社も小泉防衛大臣の言い分をそのまま報道した。
しかし、小泉防衛大臣は「火消し」に走っただけだ。
Tansaも現地情報隊の資料を入手して精査したところ、そこには暴走する自衛隊の姿があった。
Tansaが入手した陸上自衛隊中央情報隊・現地情報隊の調査報告書(文書の一部を黒塗りにしています)
説明責任から逃げた、小泉防衛大臣と木原官房長官
熊本日日新聞は7月22日の初報後も続報を出している。これまでの報道の要点は以下だ。
・現地情報隊は、自衛隊が海外に派遣される際、現地の情報を収集する目的で2007年に新設された。
・当初の目的とは違い、実際は対象国に精通する国内の学者やNPO代表らの情報を収集している。集めた情報は数千人に上る。
・集める情報の内容には、「愛国心」「対自衛隊感情」「性的嗜好」「異性関係」「負債状況」まで含まれている。対象者への同意は取っていない。
・情報を収集する際は、現地情報隊であるという身分を隠す場合もある。
・現地情報隊の活動は、防衛大臣や防衛省の官僚ら「文民」には知らされていない。
小泉進次郎防衛大臣=静岡県御殿場市で2026年6月7日、友永翔大撮影
これに対して、小泉防衛大臣は7月24日の閣議後記者会見で次のように述べた。
「現地情報隊の情報収集の詳細については、情報収集能力を明らかにする恐れがあるためお答えを差し控えますが、現時点で不適切な活動を行なったことは確認されておりません」
同じ日の記者会見で、木原稔官房長官も熊本日日新聞の報道について問われた。
「個人データをまとめた報告書の存在についてですが、報道にある文書が防衛省から公表されているものではないと承知しております。そういった報道を前提としたご質問について、お答えすることは困難ですが、小泉大臣は今日の会見で、現時点で不適切な活動を行なったことは確認されていないと述べておりますので、それ以上の詳細については防衛省でぜひお尋ねいただければと思います」
木原氏は防衛大臣の経験者であるにも関わらず、小泉防衛大臣に説明責任を負わせた。
41項目の報告書
Tansaは現地情報隊の資料を入手した。調査対象者に関する報告書はテンプレート化されていて、41項目の調査内容がある。
報告書に記された41項目の調査内容
| 01 | コード(アルファベットと数字) |
| 02 | 氏名(旧姓) |
| 03 | 年齢 |
| 04 | 性別 |
| 05 | 顔写真、撮影年 |
| 06 | 身体的特徴(身長、体重、体型、肌の色、瞳の色、髪の色) |
| 07 | 現住所 |
| 08 | 出身 |
| 09 | 国籍 |
| 10 | 部族・氏族 |
| 11 | 信仰 |
| 12 | 身分証明証等(名称、発行国、番号、発行機関等、取得・有効期間等) |
| 13 | 連絡先(電話、eメールアドレス、SNS等) |
| 14 | 職業 |
| 15 | 勤務先(主業務) |
| 16 | 略歴(学歴・職歴・経歴等) |
| 17 | 内面的特徴(性格・態度、時間感覚、虚勢・虚言癖、信頼性、モラル) |
| 18 | 開拓深度 |
| 19 | 用途 |
| 20 | 危険性 |
| 21 | 属人性 |
| 22 | アクセス |
| 23 | 動機 |
| 24 | 能力 |
| 25 | 習慣及び接触適正 |
| 26 | 運用方針、じ後の解明事項 |
| 27 | 保有資格、免許・検定等 |
| 28 | 習得言語(1:ネイティブ 2:取引可能 3:日常会話 4:片言) |
| 29 | 私有車(名称、色) |
| 30 | 趣味・特技等 |
| 31 | 嗜好(飲酒・喫煙、飲食物、アレルギー等) |
| 32 | 家庭環境、婚姻歴等 |
| 33 | 異性関係、性的嗜好 |
| 34 | 対日本感情 |
| 35 | 対自衛隊感情 |
| 36 | 思想・信条(思想傾向、愛国心、公徳心、規律心等) |
| 37 | 渡航歴・頻度 |
| 38 | 金銭状況、金銭感覚、借財等 |
| 39 | 賞罰及び犯罪歴等 |
| 40 | 関係組織一覧 |
| 41 | 関係者一覧 |
公務員であることすら秘匿
対象者を調査するにあたって、隊員は「接触計画」を作成する。
対象者からどのような情報を得たいのか「達成目標」を掲げる。例えば、「現地の治安情報に関する情報を入手する」といった目標だ。
接触方法も、「講演会に出席する体裁をとる」などと事前に決めておく。
接触する際に自分の所属や連絡先、家族構成や出身地をどこまで開示するのかも、事前に決めておく。4段階に分かれていて、レベル1は現地情報隊の所属であり公務であることを明かす。4になると公務員であることすら秘匿する。現地情報隊は「ディスクリート段階基準」と呼んでいる。基準を表にした文書では、注意書きとして「開示の必要がなければ開示しない」と記している。自身に関する各情報は、なるべく明かさない方針をとっているということだ。
現地情報隊の「ディスクリート段階基準」
接触に成功したら、前掲の41項目の報告書とは別に、詳細な報告書を作成する。
例えば情報隊員が、対象者であるNPO法人代表の活動報告会に参加した時の報告書。報告会を妨害している団体がいないかまで確認している。
「報告会場及び面会場所に入る前、会場及び面会場所の周りを確認したところ行動阻害勢力等のポスター等の存在については認められなかった。会場内及び面会場所についても同様であった」
対象者については高評価だ。
「(NPO法人代表の)能力は、事業展開の際関係当局と調整するためプレゼン及びスピーチを実施しており重要人物等の関係構築能力は高いものと思料する」
このNPO法人代表とは、レストランや居酒屋で会った時のことも細かく報告している。
「(NPO法人代表の)事業の考え方等に(隊員が)同調すると非常に喜んでおり、次回も飲みたいとの発言を得たことから、(NPO法人代表との)関係は深化したものと思料する」
このNPO法人代表と交わしたメールのやり取りも、そのまま資料として提出されている。
シビリアンコントロールの不在
現地情報隊の活動は、組織的に行われている。
例えば「継続接触伺」という文書がある。対象者から更に情報を入手するため、引き続き接触するかを上司に仰ぐ文書だ。目標や必要経費が書かれている。
決裁欄には以下の役職者の名前があり、判子やサインがある。
隊長
副隊長
先任
情報幹部
班長
統制幹部
深刻なのは、現地情報隊が組織的に活動しているにも関わらず、文民である防衛省の官僚たちが関知していないということだ。現地情報隊の元隊員は、熊本日日新聞の取材に応じ、現地情報隊の活動について「大臣も知らないだろう」と答えている。Tansaが取材した防衛省の元幹部らも知らなかった。
自衛隊に対しては、文民である政治家が指揮監督権を持つ。「シビリアンコントロール」(文民統制)が原則だ。戦前の軍部の暴走を教訓に、憲法第66条2項では「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない」と定めている。自衛隊法第7条では内閣総理大臣に最高指揮監督権があることを、第8条では防衛大臣が自衛隊の隊務を統括することになっている。
現地情報隊ができた2007年以降の防衛大臣は以下の通りだ。これだけの政治家たちが、憲法に反するような情報収集活動について、本当に知らなかったのだとすれば、日本はシビリアンコントールが不在の国家だということになる。
憲兵の再来を防げ、報道機関と市民は一致団結を/Tansa編集長 渡辺周
小泉防衛大臣が、現地情報隊の活動について「不適切な活動は確認していない」と記者会見で述べたことを、マスコミ各社はそのまま報じている。例えば毎日新聞は「小泉防衛相『不適切活動ない』 陸自部隊の思想信条調査報道受け」、朝日新聞は『不適切活動ない』と小泉防衛相 自衛隊が『愛国心調査』との報道で」と、まるで防衛省の広報課のようだ。
しかし、小泉防衛大臣は「現時点で不適切な活動を行なったことは確認されておりません」と言っている。「現時点で」と言うのは、調査がまだできていないということだ。報道機関ならば以下の点を突いて、報じるべきだ。
・調査はいつまでに、どのような手法で行うのか
・内部調査ではなく、第三者による調査委員会を立ち上げるべきではないのか
・歴代の防衛大臣を聴取するべきではないのか
・調査対象者への連絡と謝罪を行うべきではないのか
・このような状況で、スパイ防止法ができたら市民の人権は蹂躙されるのではないのか
1990年代に内閣情報調査室長を務めた大森義夫氏が、生前、私にこう言ったことがある。2012年に発足した安倍政権が勢いを増していた頃で、私はまだ朝日新聞にいた。
「メディアが弱すぎる。君たちがしっかり権力を監視しなければ、権力側に身を置く者は安心して権力を行使できない」
大森氏は内調の室長になる前は、警視庁の公安部長も務めたことがある。権力の中枢で情報を収集してきただけに、重みのある言葉だった。
あれから15年近くが経つが、メディアはますます弱くなった。
反比例するように、最大の実力組織である自衛隊のタガが外れている。政治家も高市早苗首相を筆頭にタガが外れているので、このままでは自衛隊を制御できなくなる。軍の憲兵が跋扈した戦前のような監視社会に、すでに片足を突っ込んでいるのではないか。熊本日日新聞が明らかにした現地情報隊による情報収集活動は、そのことを示している。
憲兵の再来を招かないために、報道に携わる全ての人と市民が、一致団結して怒るべきだ。
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