自分が悪いと思わされる心理手法
ヴィクティムブレーミングと似ていますが、性加害の議論の中で、たびたび目にするのが「Gaslighting(ガスライティング)」という事象です。
ガスライティングとは、心理的な虐待や嫌がらせなどの被害者が、「実は自分が悪いのではないか」と、あたかもその被害が自分の責任であるかのように感じさせられてしまう心理手法のことを言います。この言葉は、1944年に映画化もされた『ガス燈』という舞台劇に由来しています。
夫が家の中にさまざまな細工をすることで、突然ものが紛失したり、誰かの足音が聞こえたりといった不可解な現象を起こし、怯える妻を「君の勘違いだ」と言って精神的に追い込んでいくストーリーです。妻は騙されている被害者ですが、自分が精神的に病んでしまったことが原因で、不可解なことが起きているのだと思わされてしまうのです。
このような手法は、DVや虐待、いじめなど、人間関係においてさまざまな場面で頻繁に使われています。たとえば、DVでは「殴られたのは私がこんなことをしてしまったせいだ」「こんな私は殴られて当然なんだ」と思わされてしまう。DVのよくある構造です。
また、日本のお笑い文化の「いじり」がガスライティングの例に当たることもあります。私は日本のお笑いは大好きですが、ときどき気になってしまうのが「いじり」です。いじられた本人が喜んでいる、愛のある「いじり」であれば場を盛り上げることもありますが、ときには愛が感じられない、ほとんどいじめのような「いじり」を目にします。後輩が嫌な顔をすると、「先輩にいじられてありがたいと思えない後輩が悪い」「笑いに変えられないのは芸人失格」と言われてしまう。いじめを受けた被害者のほうが悪いと印象づける、こういった言葉はまさにガスライティングです。
同様に、怒ったり傷ついたりしている被害者に、加害者側が「あなたはセンシティブすぎる」「あなたの感じ方が間違っている」と責めること。あるいは、悲しむ相手に「心が弱い」などと、被害は思い込みにすぎず、そう思う感性や心に問題があるかのような言い方をすること。もしくは、「休んだほうがいい」「専門家の診察が必要だ」などと、一見サポートするかのようで、その裏には侮辱する意図がある言葉をかけること。
また、発言の後に傷ついた相手の顔を見ながら「冗談だよ」と自分の言葉の重みを軽減させようと試みることにより、自分が行ったいじめや虐待の責任は取らず、相手の「弱さ」に責任を押し付けること。これらもガスライティングです。加害者側に罪悪感がなく、無意識に相手の正常な思考を奪っていることもあるので、よく注意していないと、被害者は「自分が被害者だ」という事実を忘れてしまうことも少なくありません。
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