バナナにマンゴー 大阪・北摂で南国フルーツ栽培続々

大阪府北部に位置する北摂地域でここ数年、地元産のバナナやマンゴーが人気を集めている。温暖化が進んだとはいえ、冬は氷点下になることもある北摂で南国フルーツを栽培するのは簡単ではなさそうだ。誰が、なぜ、どうやって栽培しているのか。吹田市、茨木市、高槻市の栽培農家を訪ねると、収益や高齢化など農家が直面する課題があった。

福バナナ「農福連携」で付加価値

JR高槻駅から北へ約6キロ。京都府亀岡市まであと少しという里山に「福バナナ」の大型ハウス(大阪府高槻市原)がある。ビルメンテナンスや福祉用具レンタルなどを手掛ける「高浄」(同市)のグループ会社が運営している。

福バナナを育てる松田和也さん。収穫体験や加工品などで収益化を図るという=高槻市原

同グループの農業法人「福福ファーム」の松田和也さん(50)がバナナ栽培の経緯を教えてくれた。「高齢化で耕作放棄地が増えているが、通常の農作物では収益化が難しい。また障害者就労支援を行っているが収入が少ない課題もあったんです。農業と福祉が協力する〝農福連携〟を高槻市が掲げるなか、弊社の長井正樹社長が岡山のバナナ園を知ったことで取り組みが始まりました」。高付加価値作物を目指して令和5年、耕作放棄地に約1000平方メートルのハウスを建て、167本の苗木を植えて事業がスタートした。

高槻市郊外の里山にある福バナナのハウス

松田さんは果物を加工・販売する企業で16年間フィリピンで働き、帰国後は沖縄・石垣島で飲食店を営んでいた。南国フルーツの知識を買われて誘われた。農業経験はなかったが、バナナ栽培に成功した「岡山もんげーバナナ」で研修を受けてノウハウを学んできた。松田さんを中心に、同グループ内の障害者就労支援事業所に水やりや剪定(せんてい)などの業務を委託している。

7年秋に初めて約200本を収穫。1本千円で高槻市内のスーパーと農園で直接販売したところ、無農薬で皮まで食べられるとあって完売した。バナナは収穫後一定期間置く「追熟」が必要なためイチゴ狩りのようにその場で食べることはできないが、農園を見学したり、茎を試食したりできる「収穫体験ツアー」も実施している。

今年は2万本の収穫を目指しているほか、将来的には葉をハーブティーにするなど加工品も手掛けて収益増を目指す。松田さんは「業務委託の契約料を増やし、支援所の利用者が働けてよかったと思える環境をつくりたい。来期くらいには黒字化したい」と目標を語った。

大阪茨木小川農園「安くてうまい」を提供

JR茨木駅から北へ4キロ余り、茨木市東福井に「大阪茨木小川農園」はある。田畑と民家が混じる北摂郊外の風景の中に「マンゴー直売」の看板が立つ。毎年7~8月には近くのハウスで収穫されたマンゴーがここで販売される。

マンゴーの袋掛けをする小川範久さん。マンゴーは一つ一つ天井からつり下げて大切に育てている=茨木市東福井

運営するのは江戸時代から続く農家の小川範久さん(63)。大学卒業後、システムエンジニアなど会社員生活を経て実家を継いだ。「親が米を作っていましたが、赤字続き。定年を前に何かないかと探していたときに沖縄で食べたマンゴーがおいしくてやってみたいと」。調べると栃木県で栽培に成功している農家があり、弟子入りした。8年前、55歳のころだ。

師匠からノウハウを教わった。土、水、温度管理、剪定(せんてい)、袋掛けなど。兼業農家として田畑は経験していたが、果樹は初めて。30本の苗木で始め、1年目に小さな実を収穫したときは「めちゃくちゃうれしかったですよ。できたーって」と笑う。現在は3つのビニールハウス(計1100平方メートル)に120本の木を育てている。

道路脇に掲げられた「マンゴー直売」の看板。小川農園ではイチゴ狩りやタケノコ掘りなども楽しめる

宮崎県産のようなブランド化を勧められるが、「富裕層向けは心が痛い。大阪人に安くてうまいマンゴーを提供できたら」とリーズナブルな価格で販売している。価格表によると約150グラムのSSが500円から、約400グラムのLLが2500円から。「摘果すれば大きいのだけにできるが、市場に出回らないような小さなマンゴーもあります。実は小さい方が甘いんです」。通常糖度16~18度だが、小さいマンゴーは20度を超えることもあるという。肝心の味は宮崎産と食べ比べた友人から「お前、自慢してええぞ」と褒められたという。

目標は農業経営の成功事例となって農業に取り組む若者が増えること。高校生の実習も受け入れており、「ひとり村おこしって言ってます」と笑う。

北摂バナナ圃場「ここにしかないもの」作る

北大阪急行「緑地公園駅」から南西へ徒歩15分ほど、吹田市江坂町の住宅街に高さ約8メートルの大きなビニールハウス「北摂バナナ圃場(ほじょう)」がある。ここで「吹田バナナ」を栽培しているのが建設・不動産、ビルメンテナンスなど複数の会社を経営する紙谷幸弘さん(62)だ。

バナナを栽培する紙谷幸弘さん(右)。ここにしかないものを目指している=吹田市江坂町

「実家はこの辺の農家。いまは野菜を作っても利益が出ない。ここにしかないものを作ることで近所の農家とかに興味を持ってもらえるんじゃないか、と思ってバナナ栽培を始めたんです」と語る。鹿児島の友人から苗を譲り受けて令和4年にスタート。300坪のハウスに現在88本のバナナが植えられている。

住宅地のなかにある「北摂バナナ圃場」のビニールハウス。周囲の建物が強風を防いでくれるという

取材は6月中旬だったが、ハウス内はムッとする熱気。紙谷さんは「夏は天井などを開けないと高温になってしまい、冬場は20度以下になるとボイラーで暖める設定になっている」と教えてくれた。吹田市でのバナナ栽培について「気温は鹿児島とそれほど変わらない。沖縄や鹿児島は台風被害が出ることが多いが、ここは住宅街なので周囲の建物が風を防いでくれる」。立ち並ぶマンション群が〝防風ビル〟となっているようだ。

バナナは熟すと実が膨らみカドが取れて丸くなってくる。「外国産は皮が3~4ミリあるが、うちはギリギリまで育てるので実がパンパン。皮は1ミリくらいで無農薬なので皮も食べられます」と紙谷さん。特徴はモッチリととろけるような食感。収穫したバナナは1キロ約5000円でネット販売しているほか、大阪ミナミにあるショップ「バナナの神様」でスムージーなどに使われている。

実は今春、天王寺動物園から「マレーシアからきたゾウの元気がない。バナナの葉をエサにもらえないか」と連絡があったという。葉や茎を寄贈したところ「バクバク食べたそうです」とうれしそうに笑う紙谷さん。ゾウも新鮮な故郷の味を楽しんだようだ。(中野謙二)

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