検察の現場で起きた性被害を、それまで多くの性暴力事件を担当した女性検事が被害者として告発する。そんな切ないことがあるだろうか。
しかも、その過程でPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症し、検察官として誇りをもってやっていた仕事ができなくなり、2026年4月30日に辞職を余儀なくされた。それがひかりさん(仮名)が訴える、大阪地検の元検事正・北川健太郎被告による性暴力裁判だ。
いったいなぜこのようなことになっているのか。そして問題点はなにか。多くの性暴力の裁判を傍聴し、今回の事件も取材を続けてきたライターの小川たまかさんが詳しく伝える後編。
前編では、誤解も多々ある事件を振り返った。ひかりさんと弁護士は準強制性交致傷罪に訴因変更するよう伝えているが、検察側からは納得できる説明がないまま避けられているという。
中編では、今回の事件においては被告人が守ろうとしているものが「検察のメンツ」である、というねじれがある中、PTSDが性暴力裁判との関係性を綴った。
後編では、ひかりさんが訴えるねじれの背景にある「司法の閉鎖性」についてお伝えする。
※記事内に、性犯罪事件の被害内容を記載しています。
検察、裁判所……背景にある司法の閉鎖性
性犯罪の裁判において、「属人的であることよりも問題なのは、そのバラつきや判断基準が、外側からはほとんどわからないことだ」と前述した。
ひかりさんの事件については、被害者が検察と対立する構図となってしまっている理不尽さがあるが、その他の性犯罪事件において、被害者が警察や検察の捜査に感謝を感じているケースももちろんある。ひかりさん自身も、かつては検察内で性犯罪事件を担当していた。
しかし一方で、「不起訴に納得できない」「検察から二次加害を受けたが、それをどこに訴えれば良いのかわからない」といった経験を持つ人もいる。被害者が頼りとする司法が「ガチャ」のような状況だとすれば問題であるし、検察の対応にどのような問題があるのかを外部から知る術はほとんどない。
ひかりさんは3月に出した法務大臣と最高検検事総長宛ての「要望書」の中で、2019年12月に広島地検検事が次席検事によるパワハラや過労によって自死に追い込まれた被害について触れている。この件は2024年9月に遺族が国賠訴訟を提起。2026年2月に国が遺族に1億9400万円を支払い和解が成立している。
和解に至るまでの期間はちょうど北川被告の事件で初公判が開かれてからの時期と一致している。ひかりさんは、和解時に法務省が「同じような事案が発生した時の対応の方針や、良好な職場環境を確保することなどについて各地検の幹部に周知するための通知を出す」とコメントしていたにもかかわらず、ひかりさんを辞職に追い込むような状況をそのままにしたとして批判している。
このような事件があり、被害者が記者会見を行なって報道が続いた場合、民間企業や組織であれば記者会見での説明を余儀なくされる。しかしこれまでのところ、検察はこの件についてコメントしていない。第三者委員会を設置して実態調査を求めた要望書にも、期日までの回答はなかった。
公判中の個別の事件についてコメントできないというのはわかる。しかし今回の件は検察内での不祥事であり、不祥事を起こした組織としての説明責任はあるはずだ。適切な情報開示を行わず、説明責任を負わない組織は腐敗の温床になる。
通常であれば、このような両者の対立の場合、報道は双方への取材が必要である。しかし検察が沈黙を通すことで、結果的にひかりさん側の主張についてもすべてを報じづらいと判断される場合もある。
そもそも検察と裁判所は、取材のハードルが高い組織である。
検察の広報窓口は次席検事のみで、それ以外の検察官はマスコミ対応を禁止されている。次席検事の対応も組織に認められる範囲の最小限であり、司法記者以外の記者となると、さらに取材しづらい。
今回のように、なぜ情報が開示されないのか、の理由すら容易には引き出せない。
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