「因果関係の立証に難」があっても説明するべき
今回の事件に限らず、性犯罪によるPTSDを「致傷」とするかどうか、検察はどう判断しているのか。性暴力の被害者支援に詳しい弁護士など、複数の法曹関係者に聞いたところ、次のような意見が寄せられた。
(1)PTSDか否かに関わらず、傷害があったとしても、裁判員裁判を避けるために「致傷」をつけないことがある。一般人が裁判員となる裁判員裁判が、被害者にとって負担となる場合があるため。
(2)PTSDで致傷罪をつけると被告人側が間違いなくそこを争うため、立証のハードルが上がることや被害者の負担を恐れて検察が渋ることが多い。因果関係の立証が難しいと捉えられがち。
(3)診断してくれる医師が限られる。法廷で証言に立つ負担があり、引き受けてくれる医師が少ないことが一番の障壁。刑事裁判で求められる診断基準を適切に行うことができる医師も多くはない。
(4)検察官のPTSDに関する知識にバラつきがある。
今回の事件に関わらず、致傷罪は立証ハードルの高さから避けられがちであることがわかる。PTSDの発症や、その因果関係について弁護側が争うことが多いのも事実である。ただし、前述の横浜地裁小田原支部判決のように、事件からかなり時間が経った後の診断など、難しいケースでも致傷が認められていることも事実である。
ひかりさんのケースの場合、本人がこれを望んでいるため(1)は当たらない。(3)については、PTSDの専門家から事件でPTSDを発症し重症であるという意見書を取り、検察も「他の事情は発症原因ではない」とする医師の供述調書を取っているという。
訴因変更を求めるひかりさん側に対し、検察は「因果関係の立証に難がある」から訴因変更しない方針だという。田中弁護士は、検察は「他の事情は発症原因ではない」という医師の供述を立証予定であるのに、「因果関係の立証に難がある」とする姿勢には矛盾があると指摘する。
話を聞いた法曹関係者から異口同音に漏れたのは「結局、検察のやる気次第」という言葉である。この件に限らず、警察や検察の捜査は、一般市民が想像するよりも属人的であると感じることが多い。そして属人的であることよりも問題なのは、そのバラつきや判断基準が、外側からはほとんどわからないことだ。
被害者参加制度では、被害者本人が検察官の立証活動に意見を言うことができ、意見に沿わない場合はその理由の説明を受ける権利がある。
ひかりさんのケースよりも立証ハードルが高いと思われる裁判でも致傷罪は認められている。検事の経験があるひかりさんや田中弁護士が納得いく説明を検察側は行うべきだろう。
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