デビュー作「南極料理人」(2009年)から「キツツキと雨」(12年)、「横道世之介」(13年)と、沖田修一監督は寡作だが、いずれも質が高い。今回の「モヒカン故郷に帰る」=写真=も、ゆったりした流れに、独特なユーモアとぬくもりが漂う人情ドラマの佳作だ。
緑色のモヒカン頭がトレードマークの永吉(松田龍平)は、30歳の売れないバンドマン。妊娠した恋人の由佳(前田敦子)を紹介すべく、7年ぶりに故郷の広島県・戸鼻島(とびじま)に帰る。
迎えた家族は頑固者の父・治(柄本明)と母・春子(もたいまさこ)、弟・浩二(千葉雄大)。相変わらず成長の跡が見えない永吉に治はあきれ、帰省早々のけんかになる。ギクシャクしたある日、治が末期がんということが分かって-。
沖田監督のオリジナル脚本は、登場人物の個性が立っている。頼りないが、意外に真っすぐな永吉。天然おっとり型の由佳。矢沢永吉に心酔して「矢沢は広島県民の義務教育じゃけぇ」とのたまう治。“カープ、命”の春子。永吉とは逆に、すぐ実家に舞い戻って来る浩二。
沖田監督が得意の食事シーンを、うまく使った。例えば、由佳がぎこちなくアジを三枚におろす。その悲惨な刺し身を、みんなが「おいしい」と食べるおかしさ。そうやって、他人が少しずつ家族になる。
先がない治のために永吉が遠方から大量のピザを取り寄せるエピソード、病体を押して中学の吹奏楽部を指導する治の情熱。笑わせ、しんみりさせて、親子の和解と新しい家族の誕生へ。沖田作品のベースには、いつも人間への信頼がある。
キャスティングが、いい。エキストラ出演した島の老若男女の素朴な顔つきも、いい。
2時間5分。9日横浜ブルク13、109シネマズ川崎などで公開。