2025年にノーベル化学賞を受賞した3人の科学者を覚えているだろうか。日本の北川進さん以外は記憶にないという人も多いと思うが、このうちの一人、オマー・ヤギー氏の動向が今、科学界に波紋を広げている。
7月、米カリフォルニア大学バークリー校の教授職を離れ、中国・清華大学でフルタイムの特別教授職に就任したからだ。
米国でトップに上り詰めた61歳の科学者の中国への移籍には驚きがある。人工知能(AI)を活用した材料開発の新研究所を率いるというが、いったい何が背景にあるのだろうか。
ヤギー氏は決して恵まれた道を歩んできたわけではない。パレスチナ難民の両親のもとにヨルダン・アンマンの難民キャンプで生まれ、9人の兄弟姉妹とともに育った。水道も電気もなく、家畜も同居していたという。1~2週間に1度運ばれてくる水を容器に満たしにいくのも彼の重要な仕事だった。
化学に目覚め渡米して受賞
化学に目覚めたのは学校の図書館で分子の図を見た時だった。何の図かわからなかったのに、たちまち魅せられた。
15歳の時、肉屋を営んでいた父親から「おまえはアメリカに行くのだ」と言われ、一旦は拒否したものの、家の貯金をすべて小切手にして持たせてもらい、米国に渡った。
2023年にmRNAワクチンの開発でノーベル生理学・医学賞を受賞したカタリン・カリコさん一家がハンガリーから全財産をぬいぐるみの中に隠して米国に渡ったという逸話にも通じる話だ。
渡米してからはコミュニティーカレッジを出発点にアルバイトをしつつ大学に進学、2012年にカリフォルニア大学バークリー校に着任した。
ノーベル賞の授賞対象となった「金属有機構造体(MOF)」は内部に多数の空洞を持つ結晶で、空気中の二酸化炭素や水蒸気の回収・貯蔵などが期待される。3人の受賞者のうちリチャード・ロブソン氏が基礎を築き、北川氏とヤギー氏が画期的なMOFをそれぞれ独自に作ったことが評価された。北川氏とヤギー氏はライバルであり仲間だという。
「砂漠で育ったからこそ、MOFが空気中から水を取り出す材料として使えることにも気づいた」とノーベル賞受賞時のインタビューで語っていたヤギー氏は、大気中の二酸化炭素や水蒸気を回収する会社も設立している。
トランプ政権の科学予算が影響?
そんな中での中国への移籍には、いくつかの理由が考えられる。
まず、第2次トランプ政権のもとで…
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