【詩】 キメラ
記憶を吸う泉ミーミルの黒い雫は
深海を這うものたちの呟きでもある
一滴は甘美に光り
次の一滴は沈黙の石へと変わる
疲弊した巨人アトラスの影が背後に立ち
頁は目に見えぬ世界の重みにたわむ
円環は永劫を噛む蛇ヨルムンガンドの尾に似て
わたしを締め上げてゆく
ひらめきは焼け落ちるイカロスの翼
終末の炎スルトに呑まれて灰と化す
その灰の裂け目からは
旧き囁きの触手が忍び寄り
次なる比喩をわたしに囁くのだ
未完の草稿は
憧憬の楽園エリュシオンの幻花
凍てつく冥土ニヴルヘイムに封じられた石
閉じても眠らず
夢の底で呻きを続ける
わたしは夜ごと
黄昏の冥府の門をくぐり
霧に沈む海を航り
名もなき虚空の門に額を押し当てた
囁く竪琴を抱いたオルフェウスの影と
無貌の神々のざわめきとを携えながら
不確かな言葉を混淆し続けた
——完成を知らぬことこそが
唯一の完成であると知っている故に
(詩)塔条真理×美馬



コメント