登場人物紹介
僕:数学が好きな高校生。
テトラちゃん:僕の後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。
ミルカさん:数学が好きな高校生。 僕のクラスメート。メタルフレームの眼鏡に長い黒髪の《饒舌才媛》。
ここは僕の高校。いまは放課後。
僕が図書室に入ると、 話をしていたクラスメートミルカさんと後輩のテトラちゃんがこっちを向いた。
ミルカ「やっと来たか」
テトラ「せんぱーい! こっちです! お待ちしてました!」
僕「ねえテトラちゃん。ここは図書室なんだから、大きな声を出しちゃだめだよ」
テトラ「あっ、そ、そうですよね。すみません……つい」
ミルカ「遅かったな」
テトラ「先輩のことをお待ちしてたんですよ」
僕「あ、そうなんだ」
テトラ「フェルマーの小定理の話をミルカさんもしてくれるということで、 先輩がいらっしゃるのを待ってたんです」
ミルカ「話はすぐに終わるんだが、テトラが『おあずけ』と命じるので我慢していた」
テトラ「そ、そんなこと言ってませんよぅ!」
フェルマーの小定理
このとき、
が成り立つ。
ミルカ「フェルマーの小定理の証明は、以前一緒に追った(第400回参照)」
テトラ「はい。数学的帰納法を使いましたね」
僕「先日はテトラちゃんのイメージを形にするような証明を作ったよ(第473回参照)」
テトラ「そうです。たとえば
ここで、
僕「最後のラスボスを倒すのには手間取ったけどね(第474回参照)」
ミルカ「その証明は、さっきテトラから聞いたよ」
テトラ「それで……ミルカさんのお話とは?」
ミルカ「テトラの観察は《
僕「……」
テトラ「……」
ミルカ「ではここで視点を変える。
《ジャンプ》を表す写像
《ジャンプ》を表す写像
集合
僕「つまり、
ミルカ「そうだ。
念のためにいっておくと、
テトラ「はい。
僕「うん、
ミルカ「私が
僕「カギになる主張?」
ミルカ「それは、
写像
という主張だよ。 別の言い方として、
写像
といってもいい」
テトラ「ど、どういう意味でしょう?」
僕「写像
テトラ「ははあ……こういうことですか。
写像
僕「そうだね。 全単射だから《もれなく、だぶりなく》移されてくる。 だから並べ替えになる」
テトラ「あれ? それって、どんな
僕「そりゃそうだよね。だって、
テトラ「えっえっ?」
ミルカ「そこで引っかかるなら、ちゃんと示す価値がありそうだ」
問題
テトラ「わからなくなってしまいました……」
ミルカ「どこまでならわかっている?」
テトラ「はい。
僕「それだよ」
ミルカ「そこだな」
テトラ「えっ、えっ、えっ?」
テトラちゃんが僕とミルカさんを見比べるように顔を振る。
ミルカ「君が、まず単射性を示す」
ミルカさんはそう言って僕を指さした。
僕「テトラちゃんがいま言ったことは、
そのまま
テトラ「あ……《移った先が等しいなら、もとも等しい》。
つまり
ミルカ「そこから全射性はすぐに言える。
テトラ「
ミルカ「単射かつ全射。ゆえに
問題(再掲)
解答
したがって、
(証明終わり)
僕「ところで
《
テトラ「フェルマーの小定理のお話ですよね?」
ミルカ「写像
僕「そうだね」
テトラ「はい、順番は変わるかもしれませんが、
ミルカ「そこで全要素をすべて掛け合わせると、
テトラ「あらららっ!!」
フェルマーの小定理の証明
写像
(証明終わり)
僕「なるほどねえ……この証明は、
数学的帰納法による証明とも、
ループを使った証明とも違うね。
いったい何が違うんだろう。
テトラ「何だか……視野が広いと感じました」
僕「視野?」
テトラ「
僕「そうだね」
テトラ「ミルカさんのご説明を聞いていると、
テトラちゃんは、大きく手を動かして、あっちいけー! こっちいけー! と興奮気味に語った。
僕「確かにね」
テトラ「きゃうんっ!」
テトラちゃんが子犬のような声を上げた。
いつのまにか、 司書の瑞谷先生が近づいていて、 テトラちゃんの後ろから肩をポンと叩いたのだ。
瑞谷先生「お静かに」
テトラ「あっ、す、すみません……」
ミルカ「静かにしろと命じられることもある」
その日の僕たちは、いったん引き上げることにした。
次の日。
僕が図書室で計算をしていると、 テトラちゃんがやってくるのが見えたので、 僕は手を振った。
僕「テトラちゃん!」
テトラ「……」
僕「どうしたの。元気ないね」
テトラ「反省しているんです」
僕「え?」
テトラ「昨日は大声を出しすぎました。テトラはとても反省しています。お恥ずかしい」
僕「でも、そんなに小声にならなくてもいいと思うよ。普通に話そうよ。それは?」
テトラ「村木先生からの《カード》です。でも、《表》と《裏》があるんですっ!」
テトラちゃんは手にしていた《カード》を僕の前に置いた。
《表》と《裏》には、そっくりだけど、違う問題が書かれていた。
カード(表)
カード(裏)
僕「なるほど。 この《表》の方は簡単だね」
テトラ「はい。この《表》って要するに 二次方程式の判別式の話です」
僕「うん……」
テトラ「《裏》はすごく《表》に似ています。 条件も似ていて、式の形も似ていて、問われていることは同じです! あたしでも《表》はわかります。でも、この、《裏》は、さっぱりわかりません!!」
僕「テトラちゃん。声」
テトラ「《裏》は、さっぱりわかりません!」
僕「《表》は僕たちがよく知ってるし、導くこともできる。 でも《裏》は違う。何が問われているかはわかるけれど、 どうすればいいかはわからない」
テトラ「はい」
僕「僕は思うんだけど、これは村木先生からのチャレンジだね、きっと」
テトラ「チャレンジ?」
僕「つまりね、《表》を本当に理解しているなら、 《裏》もわかるはずだろう?……そういうチャレンジ」
テトラ「それは、同じ解法が使えるということでしょうか?」
僕「いや、そこまではわからない。 でも、《裏》への手掛かりが見つかることを期待して、 とりあえずは《表》をていねいに進んでみようよ」
テトラ「《表》の方ならあたしもできますっ! あっ! ……できますっ!」
カード(表)(再掲)
僕「じゃ、テトラちゃん、どうぞ」
テトラ「はい。《表》の答えなら、すぐに出せます。
二次方程式
僕「うん、それは正解」
テトラ「はいっ!」
僕「正解なんだけど…… それは、テトラちゃんが覚えていた判別式を頭から取り出して答えたんだよね?」
テトラ「確かにそうです。
あたしは判別式
テトラちゃんは両手で頭を押さえながら言った。
僕「もちろんそれは正しいんだけど、
いまの僕たちは《裏》に進む手掛かりがほしいんだ。
《判別式が
僕はテトラちゃんにそう言いながら、《裏》の説明を読み返した。
テトラ「で、では、これではどうでしょう。
解の公式を使うんです。
二次方程式
僕「そうだね。それも正しいよ。 正しいけれど、解の公式を手掛かりにするのは難しそうだ」
テトラ「そうですか……」
僕「僕たちは《裏》に進む手掛かりがほしい。
そこは整数の世界、特に《
テトラ「どうしてでしょう」
僕「解の公式には、ルートが出てくる。
《
テトラ「あたし、《表》が簡単だといいましたけど、 違いますね。あたし、わかってないです」
僕は少し考える。
僕「いや、テトラちゃんのヒントからいけそうだ。 判別式から解の公式にさかのぼったように、解の公式からさらにさかのぼってみよう」
テトラ「さかのぼる?」
僕「解の公式を導くときに使う平方完成を行うんだ! 割り算もルートも使わずにできるだけ進んでみる。 判別式の直前まで、ね」
テトラ「ははあ……!」
僕「まず、
テトラ「すみません、先輩。いま、どうして
僕「《表》はそれでも解けるけど、
でも、
テトラ「なるほどです……《裏》を見ながら《表》を進むんですね」
僕「それで、
テトラ「なるほど。
僕「
テトラ「一歩手前……」
僕「《
《
といえば《裏》でも使えそう。ルートも割り算も出てこない。
実数の世界では、《ある実数の平方になっている》ことと
《
《表》の解答
よって求める条件は、
テトラ「《裏》への手掛かりは《平方完成》と《
僕「そうなるね!」
テトラ「《裏》に進みましょうよ!」
カード(裏)(再掲)
僕「《平方完成》と同じことを、
《
テトラ「はいっ!」
こうやって、僕とテトラちゃんは《裏》の解答を作り上げた。
《裏》の解答
よって求める条件は、
テトラ「できました!」
僕「できたね! ぴったり同じだ!」
テトラ「二つの《宝箱》はそっくりです! こう書いてもいいですよね?」
僕「そうだね!」
テトラちゃんが、そこで顔を曇らせた。
テトラ「ちょっとお待ちください。えーっと、蒸し返してすみませんけれど、
《表》では
僕「そうだよね。僕もそこが引っかかる。 《裏》で僕たちが言えたのは
という条件だけだ。《表》のように
テトラ「《表》と《裏》で、《平方完成》というそっくりの道をたどってきて、 そっくりの《宝箱》を見つけたのに、 開ける呪文が違うみたいですね……」
僕「《
参考文献
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(2026年7月24日)