同人音楽での著作権管理団体の活用に関する一案 ~楽曲提供編~
1.はじめに
この記事はタイトルの通り、同人での楽曲提供をする際著作権管理団体をどのように活用するのがよいのか、という問題に対する一つの提案です。
しかし、この問題に関してはそのクリエイターが置かれている立場によって対応が異なるため私が置かれている立場を前提としています。その中で共通する要素のある方が、それぞれの裁量で役に立てていただければ十分と考えています。
そして私の置かれている立場というのは以下の3点です
・商業をメインに活動している
・JASRAC信託者である
・自作自演ではなく他人に楽曲提供をしている
どのような思考で現在の結論に至ったのかがわかるように、序盤は同人や著作権に関する前提知識や認識の整理を長々とやっていきます。
その辺はわかってるよ!って方や対応策だけ見たい場合は4.か5.あたりまで飛ばしてください。
誤解なきように予防線を張りますが、この記事はそもそもがポジショントークでありクリエイターの権利をいかにして守るか、という部分が根幹にあります。しかしながら、権利を声高に主張して戦うようなものではありません。依頼者の要望を叶えながら、いかにしてデメリットを避けながらクリエイターの権利を守れるかというところが本題です。既存利益の取り合いではなく、全体の牌を増やすアプローチを目指しています。
そして記事内で述べられている見解は極めて主観的、個人的な尺度で書かれており、明確なエビデンスに基づいて書かれたものではありません。
2.同人音楽と著作権の現状
まず、現在の同人音楽と著作権管理はどのようになっているのか、という実態について自分なりの見解を述べます。
同人での楽曲提供においてはほとんどのケースで所謂「買取」という形がとられています。
「買取」では、報酬は一括での払いきりとなり印税収入は発生しません。これは商業でも見かける契約形態の一つですが、同人と商業ではやや意味合いが異なるように思います。
同人における「買取」とはなんなのか。「買取」という響きから著作権を譲渡しているというイメージを持つ方が多いと思いますが、同人においては「楽曲利用を全面的に許可し、著作権にまつわる収益権を行使しないという暗黙の了解」という方が実態に即していると感じています。なぜなら著作権(人格権を除くすべての権利)譲渡の契約書面を交わすわけでもなく、提供先の依頼者がクリエイターに代わり著作権収入を得るわけでもないからです。
商業では買取先がJASRACに信託し著作権収入を得るケースもありますが、同人でそのようなケースは聞いたことがありません。(あったら知りたいです)
これは商業での「買取」の本質が「後続利益の買取」なのに対し、同人では別の部分に本質があるからだと思っています。
(ちなみに「暗黙の了解」がなぜ可能なのかというと、著作権が自己管理だからです。JASRAC等の管理団体が管理している楽曲では、楽曲を使用する以上原則使用料が発生します。)
以上のことから同人における「買取」とは、同人という文化から生まれたやや特殊な状態を指していると考えています。この記事内では差別化のため「同人式買取」と呼びます。
※本文における「著作権」は主に収益権を指し、人格権は含みません。
なぜ「同人式買取」なのか
ではなぜ「同人式買取」という形が多くのケースで選ばれているのかというと、依頼者、クリエイター双方に著作権の知識が無いためというケースが最も多いのではないでしょうか。著作権の話自体を出来るだけ避けたい、よくわかっていないので簡素な形で終わらせたいという消極的な選択です。これはトラブルのリスクが高く、可能なら避けるべきだと考えています。
そして多少知識のある方の理由としては、同人活動において煩わしい障壁を無くしたいというものが主だと思われます。
管理団体が著作権を管理している楽曲の場合、楽曲提供を受けて作成したCDを販売(複製)したりするのには著作権使用料を払わなければなりません。その他Youtube等での配信で使う際も間接的ではありますが同様です。これらは活動に対する金銭的な負担や手間を増やします。
買取にすることによってこれらの障壁を取り除きたいというのが根底の理由なのではないでしょうか。
これら2つのパターンから本質的に大事なのは著作権の所在ではなく、「依頼者の同人活動に金銭的マイナスが発生しないこと」「煩雑な手続きが発生しないこと」だと考えました。
3.「同人式買取」の課題
一見うまく回っている「同人式買取」ですが、私は改善の余地があると感じています。
①楽曲の使用料を誰も受け取っていない
昨今はSNSの普及により、同人でも以前より大きな規模感で展開できるようになってきました。以前であれば即売会で限られた人たちに販売して終わっていたものが、配信や動画サイトを通してたくさんの人に長期的に聴かれるようになっています。そして楽曲によってはイベントでカバーされたり楽曲を流してもらえる二次利用の機会も増えています。
そうした中で、楽曲制作を依頼した依頼者本人と楽曲提供したクリエイターのどちらでもない第三者の二次利用による使用料を誰も受け取ることができていません。これは依頼者とクリエイターの利益の取り合いではなく、双方得をしていない状況といえます。
②著作権の所在が曖昧になっている
著作権は結局誰のものなのか、双方で完全に同意がとれているとは言えないと思っています。同人式買取で楽曲提供したものの、提供先が管理団体へ信託し二次使用料を得るのは違うという人もいるでしょうし、買い取った側もそこまでしていいとは思っていないのでやっていないというケースもあるのだと思います。これは双方の認識で宙ぶらりんになっている部分があるということです。
③概念の不安定さ
同人式買取の概念というのは非常に不安定です。定義が無く、各々が概念を無意識に設定しているからです。
この記事では同人式買取の本質は「活動への障壁の排除」であると考えましたが、これに自覚的である人は少数だと思いますし、変化する可能性があるとも思っています。
昨今では配信やサブスクの影響で同人式買取においても「後続利益の買取」という要素を徐々に孕んできていると感じています。環境の変化を受け、「後続利益の買取」が主体だと考える人も徐々に出てくるでしょう。概念が個々人によって変化していくということは、双方の認識が一致する確率はどんどん下がっていくということでもあると思います。
また、同人界隈は善意で成り立っている部分が商業に比べて多く、知識のある人間がこの不安定さを悪用しようと思えばいつでも悪質な著作権ビジネスが生まれてしまう可能性があると感じます。
④現代の使用範囲に対して適切なのか
これは「同人式買取」の課題というよりは賛否ありそうな「買取」自体への問題提起ですが、同人での楽曲販売が配信やサブスクといった長期・広範囲での収益が見込めるビジネスモデルになった今、即売会+委託販売程度だったこれまでと同様の条件で一括買い取ります(収益権を放棄します)というのは本当にフェアなのでしょうか。
いつ何時、楽曲が意図せず拡散するかわからない現代において著作権というものは今まで以上に簡単に手放してはいけないものになっていると感じています。
クリエイター側にも依頼者の活動を支えたいという想いがあり難しいところではあるものの、クリエイターが身を削って回っていくシステムでは長期的にクリエイター側の活動寿命を縮めることになります。双方がより長く健全に活動できるバランスを探っていきたいですね。
この件に関してはTunecoreのスプリット機能を活用して収益を分配したりと私の周りでも工夫が見られ始めているのですが、そこに触れはじめると原盤権の話や利益の取り合いの話になってくるのでこの記事ではこれ以上は触れません。
また、クリエイターから歌い手などへの依頼で相互的にバランスがとれているケースや、歌唱代や演奏代などは適正なのか、演者の権利はどうなのかといった論点も多様にあるかと思いますが前述した通りこの記事はクリエイターサイドのポジショントークなのでそこまでは広げません。
4.JASRAC信託者のよくある同人活動
やっとここから本題です。JASRAC信託者は「買取」ができないという話を聞いたことがある人は少なくないのではないでしょうか。
これはJASRACには著作権譲渡という概念がないという部分が大きく影響していると思われます。JASRAC信託者の楽曲は商業・個人リリースに関わらず原則JASRACが楽曲を管理することになります。しかし、「買取」ができないというのは語弊があると思います。
実はJASRACに信託していても例外的に特定の楽曲を管理から外すことができます。これだけでも「買取」はできる、ということなのですがあくまで例外的であり本記事で目指している方向性とは異なりますので解説はしません。
では、JASRAC信託者だけど同人での楽曲提供をしたい、となった時どうするのが良いのでしょうか。先にすぐに思いつく2つの例と問題点を解説します。
①違う筆名を使う
これは周囲で最も多かった例です。普段の活動で使っている名義を使わず、別名義で提供しJASRACにも申請しないというもの。これによりJASRACから楽曲を捕捉されず、使用料が徴収されません。
しかしこれは見つかっていないだけでありルール内での適切な運用にはなっていません(JASRACに確認済です)。
②JASRACに申請しない
こちらもルールから逸脱しているだけであり、発覚した時にトラブルになる可能性があるので良い方法とは言えません。
5.ルール内での運用法
この項では、私がルール内でなんとかしようと試行錯誤した結果行きついた運用法を紹介します。結論から書きますが、JASRACに演奏権のみを信託するというものです。
JASRACに信託する際は全信託と部分信託を選ぶことができます。
(演奏権、録音権、出版権…etc)
なぜ演奏権のみを信託するのかを解説します。
まず、商業作家がJASRACに信託する理由は概ね金銭的メリットです。JASRAC信託者は商業案件で(出版社を通して)提供した楽曲の著作権使用料(主に二次使用料)を非信託者より多く貰うことができます。
この仕組みに関しては記述している記事が他にもあるので割愛します。海外での使用料を貰えるのも信託者だけです。
この商業案件にまつわるJASRACから直接貰える二次使用料は、クリエイターが部分信託でも全信託でも貰える金額は変わりません。商業案件はJASRACに著作権を預けているのは出版社であり、出版社の信託範囲で決まるからです。クリエイターが選択する信託範囲が適用されるのは、同人などで発表し自分で作品届を提出した作品になります。
ややわかりにくいですが、商業作家として満たしたい要件は「信託者になること」であり、個人としてどこまで信託するかは別の都合で考えてよいということです。何か一つでも部分信託していれば商業作家としてのメリットは享受できることになります。
全信託をしてしまうと同人での楽曲提供にあたり提供先に負担が発生してしまいます。
そこで部分信託で演奏権のみを信託します。そうすることによって同人活動のメインである音源の複製に関しては著作権使用料が発生しません。配信においても同様に発生しません。
演奏権を信託しているのでライブ等での使用には使用料が発生します。
しかし、箱貸しのみの会場に機材を持ち込んで主催するライブ(武道館など)ではない限り使用料を支払うのはライブハウスです。したがって出演者に煩雑な手続きと負担はありません。
(ライブハウスが出演者に使用料相当分をどのように転嫁するかはライブハウスによって異なるので考慮しません)
箱貸しで主催の規模になったらどうするんだと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、もうそこまでいったら払ってください!というのが落としどころかと思っています。
以上のことを依頼者様に説明をし、納得していただくことで管理団体に信託しています。
最大のメリットとしては、第三者がライブで楽曲を使用した場合・本人がライブハウスで歌唱した場合等の著作権収入をクリエイターが得ることができます。これは前述した通り双方得られていなかった利益であり、奪い合うことなく新たな牌を増やすことに成功しています。
第二に、演奏権以外は自己管理となるのでこれまで同様暗黙の了解で許可、ということになりますが著作権はクリエイター側にあるという部分が明確なので無用なトラブルや認識違いが発生しづらいです。認識が整理されているだけなので実態としての運用にはなんら影響がありません。
作曲は信託者で作詞は信託者ではない、といった場合でも信託者が制作した範囲のみが対象となるため問題はありません。(全体で承諾を得る必要はありますが)
3.「同人式買取」の課題で提示した②においては概ね解決することができ、③に関しても不一致があった場合はこの運用を提案した段階で明確になるので防止できます。①、④に関しても部分的に解決できているといえると思います。
しかし課題がないわけではなく、ライブ以外で誰かが使用する場合は当然使用料を得ることができません。(自己管理なので全く方法がないわけではないですが)
現状可能な限りの工夫といった感じで、全てを解決したわけではないです。もっといい方法があれば教えてほしいです。
6.おわりに
この記事は本編はすべて無料で公開しています。
理由としてはいくつかありますが、一番大きな理由は商品として販売してしまうと制度の変更に合わせて記事を更新する必要があったり、誤解を招く表現や誤植があった際に加筆修正する義務があると感じたためです。
私はこの情報で一儲けしようという気もなければ、これ以上時間を割く気もありません(加筆修正は基本しません)。正しい情報を世に発信し続けなければといった高い志もないです。もしも異論反論ある場合はどうかご自身で発信されてください。
万一、この記事を公開していることが社会に損失を与えると判断した場合は記事の削除をもって終結とさせていただきます。
二つ目の理由は、将来の取引相手が読んでくれていたら非常に楽だからです。幸いにも根気強く付き合ってくれた依頼者様のおかげで今の運用法を確立できました。もしもあの時この記事があったなら、もしもお互いにこの知識があったなら、やりとりはもっとスムーズだったはずです。
執筆理由に関しては個人的なもので、年に3回以上同じような相談をされ、都度説明するのが面倒になったためここにまとめた次第です。きっと同じようなことで悩んでいる人も多いのでしょう。もう聞かないでください(嘘です)。
私はJASRACの関係者ではなく、ただ活動していく中での不明点をひたすら電凸して聞きまくっていたモンスターなので細かい語彙の正確性に関しては保証いたしません。読者が挫折しそうなので著作者人格権が~といった細かい分類の話もここでは可能な限り避けています。やや特殊な運用法と思考の公開が主であり、正しい著作権知識の啓蒙が目的ではないからです。興味を持ったら自分で調べてみてください。そして教えてください。
これ以降は本編とは関係がありません。
このnoteこれからどうしよっかな~といった話を少し書いています。(有用なことは書いてないです)
役に立ったなーとか新しい記事(自作自演編とか)書いてほしいなーと思った人は買ってくれるとまた何か書くかもしれません。
ここから先は
¥ 300
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?


購入者のコメント