世界30万本を超えたSteam版goghを振り返る - 開発編
はじめに
この記事は、Steam版goghのリリース前を振り返った「マーケティング編」につづいて、主にリリース以降を振り返る「開発編」です。ここからはディレクターの番匠が担当します!
※マーケティング編はこちら↓↓
(以下、読みやすいようにインタビュー形式でお送りします)
リリース直後の状況
最初に、あなたはどういった立場で関わっていますか?
ディレクターです。主な業務は、開発ロードマップや各機能の仕様検討、3DCG / 2Dイラストなどのアートディレクション、収録楽曲の選定、トレーラーや告知素材などのクリエイティブ制作、Steam / Discord / SNSでの発信もやっています。少人数なので、カバーしている範囲はかなり広いと思います。ゲームエンジンを直接触る以外はだいぶやってます。
「マーケティング編」ではリリース前に8.5万ウィッシュリストあったとのことでした。リリースで一気に話題になったのでしょうか?
正直に言うと「あれ? 思ったより伸びないな…」という感じがありました。スタートダッシュで一気にという目算が外れたため、このままだと1年目で10万本くらいに着地しそうだという雰囲気でした。これは当時立てていた目標を下回る数字でした。
何が原因だったのでしょうか?
シンプルに、ゲームが未熟だったからだと思います。
致命的な不具合があったわけではないのですが、アイテムの色替えで濁ったり思った色にならない、服とアバターの肌がさまざまなポーズで貫通する、部屋ライティングが明るすぎる / 暗すぎる、アイテムが少ない、負荷が高い、有料なのに無料のモバイル版にある機能がなぜないのか、など多くの意見をいただきました。
Steamレビュー自体は90%近い「非常に好評」をいただいていましたが、好評をしてくれたユーザーにも潜在的な不満はあったと思います。現在と比べて、アバターは1体しかつくれず、集中ツールもタイマーとToDoしかなく、マルチプレイもなく超シンプルだったなかで「クオリティが今ひとつ」という印象を与えてしまったかもしれません。
「これはまずいかもしれない」と感じた瞬間はありましたか?
そんな状態で、発売日の翌日にすぐ「今後のロードマップ」を出したのですが、これが良くなかったです。開発チームとしては「今後もどんどん新機能を開発していくのでお楽しみに」ということを伝えたかったのですが、有料DLCについても触れていたことで「まだ直すべきところが多いのにもう次のお金稼ぎ?」というような反応を一部でもらってしまいました。
そこで、「とにかくまずはあらゆる改善に集中しよう」ということで、改訂版ロードマップを出し直して、そこから2ヶ月弱の間に12回のアップデートを行いました。
例えば、リリースの2日後に出したver1.0.2では、アイテムの色替えの仕組みを大きく変えました。彩度スライダーを追加してより幅広い表現を可能にしたり、意図しないくすみが出ないような計算式に変えたりしています。UIも変わっているので、今振り返ってもすごいスピードでアプデしたなと思います。
転機はマルチプレイヤー・アップデート
スタートダッシュに失敗したgoghですが、1年目に30万本を超えました。何があったのでしょうか?
リリースから5ヶ月後に「マルチプレイヤー機能」を入れたことで、一気にユーザー数が増えました。アプデからの3週間で販売本数がそれまでの2.5倍になり、あっという間に10万本を超えて20万本に迫りました。
その2ヶ月後には「絵チャット機能」を入れたことで、イラストレーターや漫画家の方を中心にさらに大きく広まることになりました。
やっぱりマルチプレイによる遊びの広がり方は想像以上に大きかったです。もともとgoghは「部屋づくりの楽しさ」が強みの一つですが、つくった部屋にみんなで集まれるようになったことで「楽しさの次元が上がった」と感じてもらえたのではないかと思います。また、知人や友達に紹介しやすくなったので、SNSでのバズだけではなくバイラルでも広がり始めたのだと想像しています。
マルチプレイヤー機能の投入は最初から決まっていたのでしょうか?
どこかのタイミングでマルチプレイを入れたいということは最初から考えていましたが、どういう体験にするかまでは決まっていませんでした。
大まかに、「誰もが気軽に入れる公式の専用空間を出す案(スペース機能)」と「ユーザー自身がつくった部屋に互いに行き来できる案(マルチルーム機能)」の二つがあり、どちらにするかはリリース後の反応を見ながら決めました。
実際に遊んでもらうと部屋づくりを楽しむユーザーの盛り上がりが想像以上だったため、これはユーザーの部屋に互いに行けるようにするほうが絶対に大きな変化を与えられると確信しました。
ゲーム配信でgoghを見ることも増えました。配信を意識した設計はあったのでしょうか?
最初から意識はしていませんでした。ただ、部屋づくりゲームは雑談配信やデスク周り紹介と相性良さそうだとは思っていました。大作ゲーム配信のようなシリーズ物にはなれないけど、単発企画にはハマるはずだから配信してくれるといいなぁと。
あと、PC画面をOBS経由でゲーム内アイテムに映せる機能をリリース直前に勢いで追加していたので、配信者に楽しく使ってもらえるかも?と期待はしていました。
実際、マルチプレイヤー機能が入ってからは本当に爆発的に広まりました。これはgogh配信の大きな特徴なのですが、想像もしていなかったような有名なイラストレーターさんや漫画家さんが次々に作業配信をしてくれました。開発チームには漫画好きやイラストレーターファンが多いので「え…?あの先生も…!?」とチームのSlackに毎日驚きと喜びが溢れていました。
何もないルームからスタートするのも配信と相性よさそうです。
はい、ただ、一般的なゲームのように丁寧なチュートリアルがあるわけでも、これをクリアしてこれを入手してという手順があるわけでもなく、空っぽの部屋に投げ出されるので難易度は高めだと思います。(笑)
ちなみに、最初にアバターのキャラクリが終わったら部屋に到着するのですが、アバターとの出会い方にはこだわりました。作った自分のアバターが床でまるまって寝ている姿を見て、「この子のために部屋をつくってあげなきゃ」という気持ちになるといいなと思っていました。
ユーザーコミュニケーションは発展途上
goghはユーザーとの距離が近く感じます。ユーザーとはどんな形でコミュニケーションを取っているのでしょうか?
近くありたいけどまだ全然できていない、というのが率直な感想です。もっと開発者の顔を出したりコミュニティに深く入って盛り上げたり、上手い開発チームはたくさんあると思います。
でも、私たちのチームはSteamゲームのリリース自体が初めてで、ユーザーコミュニケーションの経験もほぼなく、専任の担当もいません。右も左もわからなければ、手も回らないという状態です。唯一できることはひたすら意見を聞いてひたすらアプデすることだけでした。
リリースから少なくとも50回アプデしていて、大量の機能追加をしてきました。リリース時と今とでは「別ゲー」と言えるレベルで、やれることもコミュニティの熱量も変わっています。そういった姿勢によって自然と「声を聞いてくれる運営」という評価を国内では一定いただけていると思います。
ただし海外はまだまだこれからですし、本当はユーザーコミュニティと一緒にもっと楽しい企画をいっぱいやっていきたいです。
SteamレビューやSNSなど、ユーザーの声はどのくらい見ていますか?
可能な限りすべてに目を通しています。ただ、Steamレビュー、Steamディスカッション、Discord、各国の公式SNS、問い合わせフォームなど、分散しすぎて見るだけでも大変です。言語もいろいろです。
最初はDiscordに来た投稿すべてに自分が返事していましたが、ユーザー規模が大きくなるにつれて到底無理になったため、CSチームを整備したり、アプリ内のお問い合わせ機能を追加してまとめて管理できるようにしました。このあたりは最適解を探りつつです。
ただ、そのなかでも「ユーザーアンケート」は特にやってよかったです。グローバルで4,000件もの回答をいただくことができました。不具合報告や要望だけでは見えてこないような、どの国のどういう人がどういう使い方をしているのかを把握できたことで、開発の指針を決めやすくなりました。今後も迷ったらアンケートを行いたいと思っています。
ユーザーの声がきっかけで変わった機能はありますか?
リリース後に追加したものはほとんどそうです。すでにお話した「彩度スライダー」もそうですし、他に大きいものだと「服と肌の貫通対策」もありました。特に中国ユーザーから非常に多く指摘されていた部分だったので、着せたファッションアイテムごとに不要なボディパーツを非表示にする仕組みを入れました。素体の改修は少し大掛かりなものですが、これはやらねばとなってやりました。
他にも「棚M事件」という事件がありました。壁に設置できる棚のひとつにバグがあり、そのバグを利用してユーザーが「違法建築」を楽しんでいたのですが、あるとき修正してしまったことで一部のユーザーの部屋が壊れてしまいました。
バグを直すこと自体は正しいのですが、事前にユーザーと密なコミュニケーションができていなかったことが原因で悲しませてしまった。そこで、急ぎ「どこでも床つくーる君」という違法建築を合法にするような公式アイテムを追加した、ということもありました。
開発チームのこと
goghは少人数のチームで作られていると聞きました。開発体制はどのようになっているのでしょうか?
つくっているのはエンジニア2〜3人、デザイナーが1人(会社の全プロジェクト兼任)、CGアーティストが時期によって3〜5人(モバイル版と兼任)で、その他にCSが最近になってようやく2〜3人、日本語以外のSNSを運用するアルバイトメンバーがいます。
チームの雰囲気や開発スタイルにはどんな特徴がありますか?
少人数開発を活かしてかなり自由度高くやっています。プランナー(いません)が仕様書をしっかりまとめてから取り組むのではなく、ユーザーからの報告や要望を並べて次はこれやろうとざっくり決めたら、簡単な要件整理だけして、すぐにエンジニアとUIデザイナーがどんどん作っていきます。
つくりながら進捗共有してもらってフィードバックしたり、こういう機能入れたら面白いかも?というエンジニア発のアイデアもどんどん取り入れています……というより気づいたら実装されています。(笑)
例えば、窓から差し込む光や埃の表現の追加、PC画面をOBS経由でアイテムに投影する機能、カメラフィルター機能、ミニプレイヤーでアバターをつっつくと笑顔を返す機能、アイテムの回転時に良いSEを鳴らす機能、などは気づいたらできてました。他にも、目に見えない部分も含め細かな仕様はエンジニア主導で決めています。
また、CGデザイナーもモデリングだけという人はいなくて、みんなデザイン提案できたりイラストが描けます。例えば「クロダ42」のキャラデザはCGデザイナーが手掛けていますし、音楽プレイリストのカバーアートは1人1つ持ち回りでお願いしていました。
機動力の高いチームだから、少人数でも頻繁にアプデできているのですね。
はい。あとは、Steamのおかげということも大きいです。アプデがしやすく、ストア周りの機能も揃っていて、また独自サーバーを立てずにマルチプレイヤーを実現できる機能も用意されているので、少人数でも機能開発に集中できます。インディーゲームが盛り上がるのも納得です。
開発中、社内で議論になった機能などはありましたか?
マルチルームで「👍️」などのエモートを頭上に表示する機能があるのですが、そもそもマルチルームでどこまでのコミュニケーションを許容するかという点は常に議論しています。
goghは作業集中のためのゲームなので、誰もが安心して使えるように、ボイスチャットやテキストチャットはあえて入れていません。でも、一緒の空間にいて全くコミュニケーションできないのも居心地悪い。結果として、挨拶ができる程度の簡単なエモートだけ入れることにしました。
ただ、最小限のエモートを入れただけでも「挨拶しなきゃ」という文化が発生して、互いに気を使うものになってしまう可能性があります。そこで、エモートを気兼ねなく無視して作業に没頭できる「集中モード」も足しました。
その後「絵チャット」も追加しましたが、これも「書き置き」を残すくらいのゆるやかなコミュニケーションを目指してのことでした。
マルチプレイが関わる部分はいつも作業と交流のベストな塩梅を、かなり慎重に議論をしてから開発に着手しています。特に、国・地域ごとに意見がかなり変わる場合も多いので、どのようにバランスを取るかも悩みポイントですね。
goghのアバターはありそうでなかったデザインですよね。このビジュアルはどのように生まれたのでしょうか?
アバターについては「非-陽キャ」かつ「洗練された」デザインを目指しました。特に、男性向けのデザインが多い中で、女性に良いと思ってもらえることを重視していました。当時、日本発のアバター系サービスでこの領域のデザインはまだ一つもないと思っていて、そこがうまく見つかればグローバルで戦えると思っていました。ちゃんと日本らしさがあり、でも海外発だと思われる、という複雑なことを目指してました。(笑)
やはりアバターを見て即「良い」と思ってもらえるかどうかが全てなので、かなり時間をかけてデザイナーを探して、最終的に「缶詰茶房」さんに出会うことができました。デフォルメ具合とオタク的な感性が強いオリジナリティを発揮していて、goghで目指したい世界観に非常にマッチしていると感じ、デザイン原案をお願いすることにしました。
ルームのデザインも同様でしょうか?
ルームに関してひとつ明確な違いを出そうと考えたのが、「小さい、狭い、近い」というコンセプトです。ゲームもいわゆるメタバースも多くは「広い世界」を志向することが多いと思いますが、オタクにとっては小さなモノのほうが大切だったりします。なので、机の上のペンひとつにも焦点が当たるような距離感から、カメラで映ってくる画面を決めていきました。
日本発ということでセルルックな見た目を採用していますが、見た目よりもこの寸法感覚のほうがgoghをgoghらしくしている理由になっていると思います。
IPコラボはコンセプトの親和性を重視
goghではいくつかのコラボレーションも行っていますよね?
これまでに、『初音ミク』さんと2つの有料コラボDLC、Netflix映画『超かぐや姫!』さんと無料コラボDLCを出しました。goghデザインでキャラクターや部屋の再現をしています。自分のアバターとしてキャラクターを使ったり、自アバターとは別に設置して作業を監視してもらったり、さまざまな遊び方ができます。
また、最近「ミニプレイヤーモード」という小窓でキャラクターを見ながらプレイできるモードが増えたので、PCの隅にキャラクターが常駐するような使い方もできるようになりました。とてもいい感じです。
ちなみにDLCを出すのも初めてだったので、本番でミスらないように、100円の誰にも迷惑のかからないミニDLCを出して制作・公開フローをチェックしました。
コラボはどんな考え方で行っているのでしょうか?
goghのブランドメッセージ “Focus on Your Life.” との親和性や、作業集中の文脈と相性が良いことを重視しています。
初音ミクさんとのコラボも、「初音ミク」というキャラクターとのコラボではなく、『STUDY WITH MIKU』というボカロ曲の作業用BGMとのコラボになっています。あと単に、ディレクターの自分が2010年頃にボカロPをしていて思い入れが強いというのもあります。(笑)
また、『超かぐや姫!』も2人の主人公が夢に向かって部屋で作業をする場面が多く、goghと繋がる点が多かったのでとても考えやすかったです。 今はまだできていませんが、goghユーザーにはクリエイターがとても多いので、今後はクリエイターの方々とのコラボもやっていきたいです。
さいごに
ありがとうございます。では最後に、今後についてお聞かせください。
この記事がきっかけで、goghやgoghの開発に興味を持ってくれる方が増えたら嬉しいです。あんまり開発の裏側の発信もできてこなかったので、今後はもっとしていけたらいいなと思っています。
また、ユーザーの皆様にはいつも感謝しています。あと1ヶ月でリリースして1年になりますが、今も日々たくさんの意見や応援をもらっています。まだまだ思いも寄らない進化を遂げていきたいと思うので、末永くgoghを楽しんでもらえたら嬉しいです。まずは、4月30日の1周年記念を楽しみにしていてください!
現在、goghを開発するambrでは、複数のポジションで採用を行っています。募集中のポジションは下記からご覧ください。


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