「デスキリング」危機にさらされる若者たち
デスキリング(スキル喪失)のリスクは、特にキャリアの浅い若手労働者にとって深刻だ、とハインズ氏は言う。
若手のポジションは従来、複雑な問題を分解し、壊れたものを直し、誰かに異を唱えられたときに自分の考えを筋道立てて擁護する力を養う「訓練の場」として機能してきた。
だが、AIを使えばそうした泥臭い経験をしなくとも、表面上は優秀に見えるかもしれない。たとえ本当の専門性を一切身につけていなくても。
この構造の変化がもたらす影響が完全に現れるまでには、何年もかかるかもしれない。しかし、その兆しはすでに現れており、そのリスクに最もさらされているのは、キャリアの入り口に立っている若者たちだ。
「いまのところ、ほとんどのプロフェッショナルはAIが登場する以前に自分の技術を身につけているため、しっかりとした土台を持っている」
Business Insiderにそう語ったのは『Job Search Guide』『How to Talk to AI』の著者ヤン・テグゼ(Jan Tegze)氏だ。「本当のリスクは、そもそもその土台をまったく築かないまま社会に出てくる世代にある」。
人的資本に関するアドバイザリー企業ライトハウス・リサーチ&アドバイザリー(Lighthouse Research & Advisory)の最高研究責任者ベン・ユーバンクス(Ben Eubanks)氏は、学校で学んだ概念を、現実の仕事に応用する際のギャップは以前から存在したが、AIがそのギャップをさらに押し広げていると指摘する。
「自ら問題に手を突っ込み、解決策を必死に考え抜いたり、これまでのやり方に疑問を投げかけたりする必要がなくなってしまった」と彼は言う。「代わりにAIに尋ねさえすれば、きちんと整理された解決策が瞬時に手に入るからだ」。
この変化が、キャリアの浅い働き手がレジリエンス(打たれ強さ)を身につけるのをいっそう難しくしているという。
思考を鍛える「メンタルジム」が必要かもしれない
それと同時に、一部の企業はむしろ、そうしたAI依存の行動を後押しし始めている。
ハインズ氏によれば、従業員はAIツールをどれだけ頻繁に使うかで評価されることが増えており、深い理解よりもスピードとアウトプットの量が報われる構図になっている。
アトランタに拠点を置き、リーダー向けの実践的な研修を提供するマネージャー・メソッド(Manager Method)のCEO、アシュリー・ハード(Ashley Herd)氏は、この半年、特にIT企業で、AIの利用状況を人事評価に組み込もうとする動きが強まっているのを目にしてきたと語る。
しかし、問題が表面化するのは、何かが壊れたときや、労働者が自力で問題を考え抜かなければならなくなったときだ。人材アセスメント企業SHLの最高科学責任者サラ・グティエレス(Sara Gutierrez)氏はそう指摘する。
冒頭のアンダーソン氏も、自分がかつて行っていた作業に直面したとき、その変化を身をもって感じた。
「頭では仕組みを理解していた」と彼は言う。「でもあの3カ月間、私は(筋トレでいう)反復トレーニングを一切していなかった」。
こうした状況を受け、研修のあり方を見直すリーダーも出始めた。デジタル経済専門シンクタンク、国際データセンター機構(IDCA:International Data Center Authority)のCEO、メフディ・パリアヴィ(Mehdi Paryavi)氏は、企業には今後「メンタルジム」が必要になるかもしれないと語る。筋肉を鍛えるためにジムに通うのと同じように、従業員があえてAIに頼らず問題解決に取り組むトレーニングを積む場のことだ。
「方法は分かっているのに、体が思うように動かない」
アンダーソン氏の実験は、そうした「メンタルワークアウト(思考のトレーニング)」を怠ったときに何が起こるのかを浮き彫りにした。
実験を終える頃、彼は自分が作り上げたプロダクトに誇りを感じていた。ところが、いざ自ら手を入れて修正しようとしたとき、決定的な違和感を覚えたのだ。
彼はそれを、誰かがゴルフをするのを眺めることに例えた。つまり、ほかの人のスイングを見て研究することはできる。その動きを理解することもできる。「自分もあんなふうにやればいいんだな」と言うこともできる。
だが、それは体がその方法を知っていることを意味しているわけではない。そして、いざ自分の手に“クラブを握り直した”とき、彼はそれを痛感した。
「スイングが狂っていた」と、彼は再び自力でコードを書いたときの感覚をそう振り返る。「『やり方は分かっているはずなのに』と思いながらも、自分の体を思い通りに動かすことができなかったのだ」。