第1話 知らない私
星街すいせいの中に生まれた、
たくさんの「星街すいせい」。
知らない時間、知らない行動。
それは、最初の不安。
※楽曲イメージの人格が登場します
※非公式解釈・解釈違いの可能性あり
- 9
- 12
- 341
近年人気のVTuber。私もその1人だ。
私は星街すいせい。自分で言うのもなんだけど、私はVTuberの中でも結構人気がある。
配信を中心に活動するバーチャルYouTuberも多い中、私は特に歌の活動に力を入れているバーチャルアイドルだ。
事務所やホロメン、星詠みのみんなのお陰で私は大きな舞台で歌わせて貰えることが多くなり、この間はついに夢だった日本武道館でのソロライブを成功させることができた。大変だったけど、楽しかったなぁー。
そんなふうに思い出にふけていると控え室にスタッフさんが入ってきた。
「すいせいさん、打ち合わせ始めましょうか」
「はーい、よろしくお願いします」
「では早速、再演ライブについてすいせいさんのイメージをどんどん出して貰って…」
武道館ライブの1年後、再演ライブが行われるということが決定しているのだ。今日はその打ち合わせ。スタッフさんと意見を出し合っていく。
「タイトルはどうします?」
「再演なのでSuperNovaはそのまんまで、SuperNova:REBOOT」
再演は武道館ライブをなぞらえながら新しい展開もてんこ盛りなライブにしたい。アイデアを出すのが楽しくて、どんどん話が盛り上がっていく。
「…それでは今日はこれくらいで、次回また話しましょう」
「はい!ありがとうございましたー」
これで今日の仕事は終わりだ。
今日は仕事が朝早くからあり、早起きしなくちゃいけなかったから今はもうクタクタだ。
「すいちゃん、朝の仕事嫌だって言ってるのに…」
文句を言いながら荷物をまとめて事務所を出る。
呼んでおいたタクシーでさっさと家に帰るとしよう。
家に着くとお姉ちゃんがリビングでゴロゴロしていた。
「ただいまー。お姉ちゃんお腹すいたー。ごはーん」
「おかえりー。温め直すからちょっとまってねー」
お姉ちゃんの姿がキッチンに消えていく。
じゃあ私はその間にお風呂に入ろうかな。今日は特に疲れてるし、手軽にシャワーだけで済まそう。
私がカナヘイのパジャマでリビングに戻るとお姉ちゃんがテーブルに晩ご飯を並べていた。
ご飯を食べた後、ソファーに寝転がってスマホを見ているとふっと眠くなった。寝る前に提出物やっておきたかったけど…ちょっとだけ寝ようかな………
目を閉じると海に沈むように睡魔に飲み込まれる。
─────
「すいちゃんお疲れコメッ?」
誰が私に聞いてくる
「うん。武道館終わって仕事落ち着いたと思ったけど、アイちゃんやサンボさんとのライブの準備とかで忙しいんだよね―…もう1人私がいたらなあー。そうなったら仕事を分担できるのに」
「そっかぁー、じゃあ私がなんとかしてあげるコメッ!」
「どうゆうこと?」
─────
「…い…ちゃ……すいちゃん?」
名前を呼ばれて、気がつくとそこは事務所のスタジオだった。えっと、そうだ。今日は3Dでコラボ配信なんだ。
声がした方を見ると、みこちだった。
「すいちゃん、ぼーっとしてたよ?疲れてる?」
「まあね、でもライブのために頑張らないとだし」
「そっか、無理はしないでね」
「うん。てかみこちそのリボンどうしたの」
「えっ?どっか曲がってる?」
「ううん、大丈夫。でもそれビジネス違反なんじゃない?」
みこちが髪留めに使っているリボンが目に止まった。いつものようなみこちらしいピンクじゃなく、私が着けるような深い青。おまけに星形の飾りまでついている。
「だってすいちゃんが着けてって言ったんじゃん!」
「えー?そんなこと言ったっけ?ていうかコレ私のじゃん」
妙に既視感あるなと思ったら、そうだ。この間買ったお気に入りだ。話題のハンドメイド作家さんから買った物だから世界に1つしかない一点物だった。
「今日事務所着いて最初にすいちゃんがみこにくれたんじゃんか。…ホントにすいちゃん大丈夫?疲れすぎてバナナになってんじゃねーか?」
「バナナ-!…って、そうじゃなくて、ホントに私があげたの?」
「だからそうだって。せっかくすいちゃんから貰ったんだから返してって言われてもちょっといやだなぁー?」
ニマニマしてこちらを見るみこち。貰ったのそんなに嬉しかったのかな。それならまぁ、そのままあげてもいっか。
でも、お気に入りだったのになんで私、あげちゃったんだろう??記憶を辿ってもあげた記憶なんてない。やっぱり疲れてるのかな。そう思ったけど、胸の奥ではなにか違和感が残っている。
「返してとは言わないけど…配信では外しててよ?またみこめっとてぇてぇってお祭り騒ぎになるよ」
「えー。みこちゃん今日他の髪留め無いんですケード」
「私のヘアゴム使いな。その髪留め貸して、私が使うから」
「わがった。…あーあ、今朝のすいちゃんは優しかったのになー?」
髪留めを交換しながら話は続く。
「はぁー?すいちゃんはいつも優しいんだがー?」
「お二人さん、てぇてぇのは良いけど、もうすぐ配信始まるよー」
ニヤニヤして私たちの会話を見ていたのはフブさんだった。私たちは配信のためにカメラの前のイスに座る。
「ねーフブさん、今朝のすいちゃん凄い優しかったよねー?」
「そうですねー。すいちゃん、お母さんかってくらいみこさんのお世話してましたね―」
「みこちがあかたんだからお世話なんて毎日してるんだが?」
「まぁ、それもそうですね」
「おい!あかたんやめろ!」
「フブみこめっとの皆さん、配信開始5分前です!OP流します!」
スタッフさんが声をかけてきて、私たちは気持ちを切り替える。
「はーい!始まりましたー!フブみこめっとさんでーす!早速自己紹介からしていきましょー!すいちゃんからどーぞー」
「はーい!彗星のごとく現れたスターの原石!バーチャルアイドルの星街すいせいでーす。すいちゃんは~今日もかわいいー!そして?」
「はーい!にゃっはろ〜!えりーと巫女アイドル!さくらみ〜こ〜、とぉー?」
「はーい!白上でーす!」
「さぁー、今日は何するんでしたっけ?」
「今日はにぇー………」
どんどん配信は進んでいく。
中盤に差し掛かった頃、ふっと身体が重くなって自然と瞼が降りてくる。周りの音が遠のく………
…あれ…今は配信中だから寝れないのに…なんだか凄く眠たい………
─────
目を覚ますと私は事務所のソファーに横になっていた。
「んぅ…?」
「あ、すいちゃん起きた」
「お疲れならもう少し寝てても良かったんですけどね」
向かい側のソファーにはみこちとフブさんが座っていた。
「あれ……えっ!配信は?」
もしかして私、配信中に寝ちゃった!?
頭真っ白で慌てて2人に聞くと呑気な様子。
「30分くらい前に終わりましたよ、すいちゃん」
「え!?私、寝ちゃって…!あれ!?ご、ごめん!!」
「寝てたって、配信終わってから15分くらい寝てただけですよ?」
「えっ?私、配信中に寝ちゃったんじゃ…」
「え?すいちゃん、配信はいつも通りやってましたよ?」
「まだ寝ぼけてんのかぁー?」
「え?」
訳が分からず、配信のアーカイブを確認する。
『はーい!始まりましたー!フブみこめっとさんでーす!……』
うん、ここは覚えてる。中盤まで一気にとばしてみる。
『いや、みこさんこの前も……』
ここだ。画面の中の私が急に俯き、脱力したように項垂れる。しかしすぐに顔をあげて会話に混ざっていく。
『みこちはさ………』
知らない。
私の記憶ではこの時に眠って、起きたら配信が終わっていた。こんな会話してない。どうゆうこと?意味が分からない。私じゃない私と共に、どんどん配信が進んでいく。
『ちょっとすいちゃんそれ取ってー』
『うん。はいどうぞ。あ、みこち、髪がほどけかかってる。ちょっとじっとしてて。』
『にぇ?』
「えっ…」
私はその光景を見て固まった。
配信の私がみこちの髪を結び直し、配信前に交換した深い青の髪留めをみこちに着けた。
私が目の前のみこちの髪を見ると、確かに深い青の髪留めをしていた。
普段の私なら、配信ではこんな事しない。オフの時ならともかく、配信ではビジネスを守るために絶対に避けてきた。
配信のコメント欄は、私の行動にお祭り騒ぎだった。
〔すいちゃん!?〕
〔みこめっとてぇてぇ〕
〔フブさんがてぇてぇの舞を…〕
〔🦊やっぱ、みこめっとなんすね〕
〔てぇてぇは正義〕
「なにこれ…」
「どしたのすいちゃん」
「私こんなことしてない…」
「ああ、このシーンはてぇてぇかったですね」
「あれはみこもびっくりだったにぇ…」
「あの行動で#みこめっとてぇてぇ がトレンド1位だったらしいですよ」
「えっ…」
「今朝のすいちゃんもあんな感じだったよにぇ?」
「そうですね」
今朝…?そう言えば今朝の事も覚えてない。
いや、私はいつから覚えてないんだ…?
昨日、疲れて帰ってお姉ちゃんとごはんを食べて、提出物をする前に少しだけ寝ようとソファーで横になった所までは覚えてる。
それから…どうやって事務所に出勤したのか、みこちたちとどんな会話があったのか………分からない。
「なんで……どうゆうこと……」
知らない時間、知らない行動、怖い…なのになんで……
胸の奥は私を守るように温かかった。