欧州

2026.07.17 12:30

ウクライナのフェドロウ国防相はなぜ解任されたのか? 国民が怒りの抗議デモ

ウクライナの首都キーウでミハイロ・フェドロウ国防相の解任に抗議する人々。2026年7月16日撮影(BrightBird/Global Images Ukraine via Getty Images)

英紙フィナンシャル・タイムズは関係筋の話を基にこう報じている。「フェドロウは、戦時下で膨れ上がったウクライナの国防予算から利益を得ようとする利害関係者にとって障害になっていた。(中略)フェドロウは、ひいきにされてきた企業に、大きな儲けの出る調達契約を受注させようとする試みを繰り返し阻止したとされ、そのせいで、ウクライナの政治・防衛エスタブリッシュメントの有力者たちと対立するようになった」

フェドロウは軍上層部にも敵を抱えていた。デジタルマーケティング起業家出身の若い国防相が、旧来の秩序を打ち壊していくのを快く思わない伝統主義者たちである。将軍たちのなかには、フェドロウを、元米フォード・モーター幹部でベトナム戦争中に米国の国防長官を務めたロバート・マクナマラになぞらえる者もいる。マクナマラのように、国防省を企業のように運営し、毎月の目標達成を重視し、現場の専門家の助言よりも統計や数字を優先する人物だというわけだ。だが、二人の間には違いがある。フェドロウは実際に成果をあげてきたのだ。

フェドロウの施策でとくに強い反発を招いたとみられるのが、「eポイント」制度だ。これは、ドローン操縦士が敵を撃破するとポイントが付与され、それに応じてさらに多くのドローンが支給される仕組みである。現実の戦争をビデオゲーム化するような制度とも言えるが、優先順位の変化に応じて特定の目標を重点的に攻撃させるうえで、非常に成功してきたのも確かだ。

フェドロウはとりわけ、ウクライナ軍の総司令官であるオレクサンドル・シルシキー大将と衝突したと伝えられる。旧ソ連で士官教育を受けたシルシキーは、旧世代のウクライナ軍人の代表格だ。

現地メディアのウクラインシカ・プラウダによると、フェドロウはテクノロジーを中心に軍を再構築しようと考え、将軍たちが要求する装備ではなく、自らが必要だと判断した装備を優先して供給すべきだと主張していたという。

ドローンとほかの装備、たとえば戦車は、二者択一でどちらかを選ぶというものではない。しかし、こうした点に関して折り合いをつけるという課題が、フェドロウ失脚の一因になったのかもしれない。

各地で抗議デモ

フェドロウの更迭に対する国民の反応は、自ら自国を害することをしているという怒りと失望だ。

Xには典型的な反応として次のような投稿がある。「過去6カ月間にフェドロウが実行した改革は、この戦争において革命的なものだった。彼の更迭と改革の中断はウクライナ軍を弱体化させ、ロシアを利するだけだ」

次ページ > 国防相の後任やフェドロウの今後は

翻訳・編集=江戸伸禎

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2026.07.23 07:00

プーチン露大統領の失脚は先送りか 国防相の更迭巡るウクライナ国内の混乱で

ウクライナの首都キーウで、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領によるミハイロ・フェドロウ国防相の解任に抗議する市民。2026年7月20日撮影(Paula Bronstein/Getty Images)

ウクライナの首都キーウで、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領によるミハイロ・フェドロウ国防相の解任に抗議する市民。2026年7月20日撮影(Paula Bronstein/Getty Images)

大きな反響を呼んだ前回の記事では、現状のままではロシアのウラジーミル・プーチン大統領は失脚に向かうだろうと予測していた。だが、その流れは完全にではないが、大きく変わってしまった。

すべては、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が、就任からわずか半年、しかも大きな成果を上げた半年で、国民から絶大な人気を集めていた若きミハイロ・フェドロウ国防相(35)を解任したことが原因だ。すでに世界中で報じられているように、ウクライナでは首都キーウをはじめ、国内各地で同相の解任を巡る抗議デモが発生している。ソーシャルメディア(SNS)のコメント欄では、現場の兵士も含め、大規模な批判が噴出し、ウクライナ軍は報復をちらつかせている。この混乱は現在も収まっていない。

簡単にまとめると、更迭されたフェドロウ前国防相は、自国に有利な形で戦況を好転させた功績を広く認められている。同相は無人機(ドローン)の大量配備を指揮し、ロシアの夏季攻勢を阻止し、同国の補給線や製油所を壊滅させたほか、首都モスクワを爆撃し、同国が実効支配するウクライナ南部クリミア半島を孤立させるなど、数々の成果を上げた。

世間一般の見方では、フェドロウ前国防相の戦場での功績と、軍内部の旧体制派を標的とした容赦ない腐敗撲滅運動が結び付けられている。そのため、抗議デモのプラカードやインターネット上のコメント欄では、ウクライナのオレクサンドル・シルスキー軍総司令官(60)が、ひそかにフェドロウ前国防相の更迭を要求した悪役として描かれているのも不思議ではない。その結果、抗議の声は高まり、ゼレンスキー大統領は21日、シルスキー総司令官をも解任するに至った。

ウクライナ軍はこれまで、数々の惨事や暗部を抱えてきた。多大な犠牲を伴ったが失敗に終わった2023年の攻勢や、ロシア軍による都市や州の陥落、調達を巡る汚職や横領、兵士に対する虐待や拷問の報告、約20万人に上る脱走兵といった問題だ。シルスキー前総司令官は、こうした負の側面の原因とされる、軍が受け継いだ旧ソビエト時代の悪習と結び付けられていた。こうした旧体制の悪習は、ロシア軍でも同様に悩みの種となっていることから、ウクライナ国民は「小さなソビエト軍は決して大きなソビエト軍には勝てない」という悲観的な批判を繰り広げている。シルスキー前総司令官を巡っては、自分に逆らう兵士や将校に対し、命に関わるほどの報復を執拗(しつよう)に繰り返しているとの話も浮上していた。

シルスキー前総司令官はロシア系で、親族は皆ロシアに住んでいる。同総司令官はロシアで初期の軍事訓練を受けたが、さまざまな役職を経て、2019年以降はウクライナ軍の頂点に立ってきた。ウクライナ国民が、解消不可能な問題の蓄積を同総司令官のせいにし、あらゆる陰謀論が飛び交うのも無理はない。シルスキー前総司令官は勝利ではなく、消耗戦による膠着(こうちゃく)状態を望んでいる、ゼレンスキー大統領が権力を維持し選挙を回避するために紛争を長期化させるべく同総司令官を支持している、2人は共謀して身を守り、過去の汚職を隠蔽しようとしている、そして最終的には、ウクライナが旧ソビエト連邦から独立して以来苦闘してきた新興財閥オリガルヒ体制の最後のとりでを守ろうとしている、といった具合だ。

次ページ > フェドロウ国防相の解任はウクライナ国民の心に大きな打撃

翻訳・編集=安藤清香

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2026.07.21 07:30

ウクライナ侵攻を巡るさまざまな見方 ロシアの主張を繰り返す西側有識者も

ウクライナの首都キーウで握手を交わす同国のウォロディミル・ゼレンスキー大統領(左)と米共和党の故リンゼー・グラム上院議員。2024年3月18日撮影(Ukrainian Presidency/Anadolu via Getty Images)

ウクライナの首都キーウで握手を交わす同国のウォロディミル・ゼレンスキー大統領(左)と米共和党の故リンゼー・グラム上院議員。2024年3月18日撮影(Ukrainian Presidency/Anadolu via Getty Images)

ロシアのアレクサンドル・ノバク副首相は10日、ウクライナ軍による最近の一連の無人機(ドローン)攻撃の影響で、複数のロシアの石油精製所が操業を一時停止したと説明した。英ロイター通信は、ウクライナ軍の無人機攻撃により、ロシアのガソリン生産量は季節平均消費量のわずか65%程度にまで落ち込んでいると報じた。

ロシアのエネルギー産業を標的としたウクライナ軍の無人機攻撃は、ロシア経済に打撃を与えている。同国のエネルギー産業は制裁下のロシア政府を支えてきたほか、輸出収入を通じてウクライナ侵攻に投入する資金を供給し続けている。ロシアのエネルギー生産量が減少すれば、資金の流れが縮小し、武器や人員の調達のほか、兵士に対する給与支払いが困難になるだろう。

ウクライナ軍の攻撃が功を奏していることを受け、一部の西側の政治家や記者は、同軍が勝利するのではないかと推測し始めている。4年にわたる戦闘を経て、ウクライナ軍はロシア黒海艦隊の約半数を破壊し、現役戦車部隊を壊滅させたと伝えられている。ロシアが失った軍事装備は数十億ドル相当に上る。

こうした中でも世論を掌握するための重要な戦いは続いており、ウクライナには勝利の見込みがないとの見方もある。こうした批評家の中には、ロシアの軍事力に圧倒され、率直に懐疑的な見方をしている者もいる。他方で、戦争は西側諸国が始めたものであり、ウクライナの敗北は避けられないというロシア側の主張を露骨に繰り返している場合もある。後者は政治的立場を問わず幅広く存在しているが、ロシアの権力政治に対する見方と、西側諸国の動機に対する冷笑的で偏執的とも言える不信感という点で一致している。

米外交誌フォーリンポリシーによると、右派であれ左派であれ、孤立主義や反西側陣営の動機の多くはロシアを擁護することではなく、米国のあらゆる行動に反対することにある。極左の中には、ソビエト時代の権力への郷愁に浸っていたり、「植民地主義的」な欧米諸国や南半球諸国の「純粋さ」に関する物語に酔いしれており、欧米は破壊され、取って代わられるべきだと主張する者もいる。一方、極右勢力の一部は、「大国」による支配を自然の法則と捉え、ロシアを「伝統的な大国」でありキリスト教正教の旗手として位置付け、侵略を受けた弱者であるウクライナを批判し、同国に対する西側の継続的な支援に反対している。米シンクタンク戦争研究所(ISW)によると、ウクライナ、米国、そして西側諸国全体を標的としたこの認知戦は、時にロシア大統領府(クレムリン)によって操作され、アルゴリズムを利用したエコーチェンバー現象(訳注:自分と似た考えを持つ人のみと交流することで、その意見が増幅され、唯一正しいと錯覚する現象)を生み出すことが多い。

次ページ > ウクライナの支持者だったグラム米上院議員の死を巡る反応

翻訳・編集=安藤清香

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