【短編小説】沈黙の人
いつも、どんなことを言われても黙っている寡黙な人がいた。名前は彼にしか知らなかった。このような人を黙り人、沈黙者と呼ばれるきらいがあった。高校二年生の栄介は、この沈黙の人に、「何か喋ってみては」「何とか言ってみて」と頻繁に茶化した。彼は神社の寺の隅で瞑想しているようだった。栄介は、百回話かかけても押し黙ったままの彼に、悔しいという感情を発露した。「悔しいな、何も応えてくれないなんて」と悔しさを露わにした。なぜ彼は黙ったままなのだろうか。それは、煩悩というものが会話によって増えることを危惧していたからであろうか。あるいは、関わりを持ちたくないという、いわば人見知りというものであろうか。彼は、ただ沈黙し、瞑想の成果を出しているようにも思われた。
ある時だった。沈黙の人が「お腹が空いた」とぽつりといった。栄介はその言葉を精確に記憶したくなった。栄介は笑った。「ははは、やっと喋ったけどそんな言葉でいいのかよ」と可笑しくなった。彼は、お腹が空いて苦しいという表情をしていた。彼は、「誰かお粥をくれ」と少し上げ調子でいった。栄介は、学校に持っていく弁当を与えようと決意した。
栄介は、神社の寺に弁当を持って行った。決してお粥であるわけではない。のり弁当というものを与えようとしているのだ。栄介は、彼に、いいから食べろ、と言うと、それを渡した。彼は、受け取った弁当を見て、涙を流した。そして、涙ながらに頬張った。彼は、この歓ばしい状況に心から感謝した。
誰しも、瞑想をしようと、お腹が空くことは免れない場合がある。彼は、食べ物という大事な物のありがたみが分かったのだと思う。そして、ご飯を与えるという勇気と愛情が、彼を感動へと誘ったのではないだろうか。


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