視点・解説

ウクライナ、軍総司令官も交代 激動の10日間で何が… 要点を解説

ベルリン=藤原学思

 ロシアの全面侵攻を受けるウクライナのゼレンスキー大統領は21日、シルスキー軍総司令官の解任を発表しました。その前には首相や国防相の交代にも踏み切りました。一部の前線でロシア軍を押し戻し、ウクライナ軍に勢いがあるように見えていた矢先の出来事です。何があったのか。要点を解説します。

突然の「内閣刷新」宣言

 騒動の発端は、ゼレンスキー氏が12日に「内閣の刷新が必要だ」と発表したことです。

 多くの議員らにとって、寝耳に水の宣言でした。ただ、主要7カ国(G7)や北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議といった重要な外交日程が一区切りしたことから、外交政策、特に対米関係の強化をにらんだものではないかと当初は受け止められました。

意外だった人事構想

 内閣改造で最初に注目を集めたのは、スビリデンコ首相の交代です。本人はゼレンスキー氏との協議を経て、13日に辞表を提出。最高会議(議会)で翌14日に採決があり、賛成多数で辞任が承認されました。

 一方、この頃、市民も与党議員も「なぜ」と疑うような人事構想が報じられていました。それが、フェドロウ国防相の解任です。

フェドロウ氏とは

 フェドロウ氏は1991年生まれの35歳。ゼレンスキー氏が勝利した2019年の大統領選では、デジタル戦略を主導しました。同年に28歳で副首相兼デジタル変革相に就任。公共サービスや電子文書を一元的に管理するプラットフォーム「ディーア」の立ち上げに奔走しました。

 外相と並び、議会の承認が必要な二つの大臣ポストの一つである国防相になったのは、今年1月のことです。イーロン・マスク氏との交友関係を生かして、スペースX社の衛星通信「スターリンク」へのロシア軍によるアクセスを遮断させたり、ドローン(無人機)の調達を大幅に増やしたりすることで、前線に良い影響をもたらしたと広く評価されていました。

会見での「暴露」

 フェドロウ氏は15日夜、SNSに「国防相としてウクライナ国民に奉仕できたことは、大変な光栄だった」と記し、解任を認めました。投稿では22の成果の一つとして「不人気とはいえ必要な、軍の改革に着手したこと」を挙げました。

 16日には記者や議員を集めた会見も実施し、軍の体質を厳しく非難。組織の硬直化や、部下への責任転嫁など、11項目の問題点を挙げました。

 また、シルスキー氏を名指しして「ロシアを打ち負かす方法を考える代わりに、国を分裂させる方法を考えていた」と指摘。ゼレンスキー氏に総司令官の交代を進言し、断られていたことを暴露しました。

ゼレンスキー氏の主張は

 ゼレンスキー氏は16日、会見で記者からフェドロウ氏とシルスキー氏の対立について問われると、「私がいなければ、彼らは同じテーブルにつかない」と吐露。両者を尊重しているとしつつ、「双方が問題を解決できないなら、私がしなければならない」と苦しい立場にあることへの理解を求めました。

市民の反応は

 フェドロウ氏は国民の間で広く名前が知られ、人気も高い人物です。解任は、大きな反発を引き起こしました。

 退役軍人は16日朝にSNSで抗議デモを呼びかけ、首都で数千人が参加したと報じられました。抗議は他の地域にも波及し、連日続けられました。ゼレンスキー氏に対しては、シルスキー氏の解任とフェドロウ氏の国防相再指名を24日までにするよう要請しました。

シルスキー氏の反論は

 現地の軍事メディアは20日、《私の仕事は戦争である》と題したシルスキー氏の寄稿を掲載しました。そこでは、フェドロウ氏と自身の対立について「驚いた。協力関係を築いていたと考えていた」と主張しました。

 一方で「100万人規模の軍隊を2カ月で『ドローン中心』に転換し、『これからはこう戦う』と言うことはできない」と指摘。フェドロウ氏の進めたい改革が、現場にとっては難題だったことを示唆しました。

後任は統合軍司令官

 後任に就くのは、43歳の統合軍司令官、ドラパティ氏です。陸軍トップも経験した少将です。

 フェドロウ氏は直後の21日夜、「自由と正義を求めて戦う自由な人びとにとって、新たな希望の源だ」と、この人事を歓迎しました。シルスキー氏と電話し、その功績に謝意を伝えたことも明らかにしました。

今回の騒動が示すこと

 ゼレンスキー氏はこの4年半、比較的高い支持率を保ち続けています。ただ、今回の一連の騒動は、国民が必ずしもゼレンスキー氏に白紙委任状を与えているわけではないこと、戦時下といえど不満があれば国民は街へ出て声をあげることを、顕著に示しました。民主主義が機能しているという見方もできます。

 ゼレンスキー氏は総司令官交代を発表した21日夜の演説で「ウクライナはこの状況から、より強くなって立ち直らなければならない。そうすれば、ロシアにとってはより厳しい状況になる」と強調しました。

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この記事を書いた人
藤原学思
ベルリン支局長
専門・関心分野
ウクライナ情勢、ドイツ、中欧、偽情報、陰謀論

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