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マノスフィアとは? オンライン空間での「有害な男らしさ」は女性にどのような影響をもたらすのか

フェミニズムを脅威と位置付け、有害な男らしさを強固にするオンラインコミュニティ「マノスフィア」。マノスフィアが生まれる背景や、男性が傾倒してしまう理由を考察する。
Photo: Courtesy of Pip/Netflix

Netflixドラマ『アドレセンス』は、殺人容疑で逮捕された13歳の少年の現代的な加害性を描き、世界的な話題を呼んだ。このドラマをきっかけに注目を集めた言葉のひとつに「マノスフィア」がある。「man(男)」と「sphere(領域)」を組み合わせたこの言葉は、人びとがネット上で繋がり、アルゴリズムによってより過激なコンテンツが流れてくるようになった現代における「有害な男らしさ」を体現している。

3月、マノスフィアという現象に迫るドキュメンタリールイ・セロー: "マノスフィア"の深層にあるもの』がNetflixで公開された。イギリスのドキュメンタリー作家であるルイ・セローが、Instagramで30万人のフォロワーを持つハリソン・サリバン(HSTikkyTokky)、約160万人が登録しているYoutubeチャンネル「Fresh and Fit Podcast」のマイロン・ゲインズ、Instagramフォロワー100万人のジャスティン・ウォーラーといった、マノスフィアでキャリアを築いてきた人物にインタビューをしている。しかし、このようなインフルエンサーに限らず、マノスフィアは私たちのすぐ身近に存在しているのだ。

『ルイ・セロー: "マノスフィア"の深層にあるもの』はNetflixで配信中

マノスフィアとは

マノスフィアはデジタル空間の緩やかなネットワークであり、父親としての役割からボディイメージ、メンタルヘルスに至るまで、男性を取り巻く問題に取り組むと主張する。しかし実際には、有害な態度や思想を助長することも多く、フェミニズム──すなわちジェンダー平等の追求を、男性の社会的・政治的地位や幸福に対する直接的な脅威として位置づけている。

マノスフィアは、「ここ数年オンライン上で広がってきた反フェミニズム的なコミュニティ」の集合体として理解することができると、『CTRL HATE DELETE: The New Anti-Feminist Backlash and How We Fight It(原題)』の著者セシル・シモンズは述べている。「数年前であれば、マノスフィアの言論空間を簡単に把握することができました。しかし現在では、このような考え方が多かれ少なかれ薄まった形であらゆる場所に広がっているため、オンライン上でマノスフィアについて語る際に、それが具体的に何を指すのか捉えることが難しくなっています」

マノスフィアが生まれる背景

マノスフィアによる被害を広げている責任は、インフルエンサー個人にはない。彼らのコンテンツを拡散させているのは、なによりもテック企業なのだ。『How to Stay Safe Online(原題)』の著者シェイー・アキウォウォは次のように述べている。「マノスフィアの台頭は、有害なインフルエンサーによって引き起こされた文化的危機として語られることがあります。しかし、根本的に重要なのは、マノスフィアがデジタルプラットフォームのなかで成長してきたということです。そうしたプラットフォームは、怒りや屈辱、対立といった、より高いエンゲージメントを生む感情に報酬を与える仕組みになっているのです」

考えてみてほしい。なぜ女性が「貶められる」「打ち負かされる」といった内容のコンテンツは、あれほど簡単に拡散するのだろうか。男性や少年に対してマスキュリニティ(男らしさ)についてのワークショップを行う教育者、アンドリュー・バーニー・バーナードは、以前『Glamour』にこう語っている。

「完璧なツールだと思いませんか? フェミニズムは行き過ぎているという考えがあったときに、それならマノスフィアが彼女たちを引きずり下ろす様子を見てみよう、となる。もしくは、フェミニズムが男性を標的にしているという話をでっちあげて、それから男性たちが反撃する様子を見よう、と考えるのです。そうしたコンテンツは、女性がとても弱く見えたり、ヒステリックに叫んでいるように見えるように切り貼り・編集することでメッセージを強化していきます。まるでフェミニズムが最期のあがきをしているように見せることで、男性が再び主導権を取り戻しているかのように映るのです」

「女性を辱めたり、スケープゴートにしたりすることで手軽にエンゲージメントを生めてしまえば、侮辱することはプラットフォーム経済の一部になってしまいます」とアキウォウォは指摘する。

「マノスフィアは単なる周縁的なカルチャーではなく、テックプラットフォームが生み出した仕組みの必然的な結果だと言えます。こうしたシステムは誰にとっても有害です。暴力の標的となる女性だけでなく、ますます過激なコンテンツ環境へと引き込まれていく少年や男性にも悪影響を及ぼします。それにもかかわらず、この状況から利益を得ているプラットフォームは、そこに巻き込まれる個人に比べて厳しく問われることがないのです」

Louis Theroux Inside the Manosphere. Cr. Courtesy of PipNetflix © 2026
Photo: Courtesy of Pip/Netflix

マノスフィアに関連するグループ

国連女性機関は、マノスフィアに属するコミュニティの主なカテゴリーとして、次のように説明している。

インセル(incels: involuntary celibates 不本意な独身者・禁欲主義者 )
「男性は性行為をする権利を有し、女性が意図的にそれを奪っていると主張。過激なインセル文化は強姦や暴力を奨励し、人種差別や同性愛嫌悪など他の思想と結びついています。インセルは大規模な暴力行為とも関連付けられてきました」

男性の権利活動家(MRAs: Men’s Rights Activists)
「フェミニズムと女性の権利(投票権、教育権、リーダーシップポジションへのアクセス権など)が男性を不利な立場に追いやっていると主張するにあたって、よく学術的なトーンで語ります。MRAsの唱道者たちは、社会が女性中心主義的であり、つまり女性的な利益に支配されていると主張します」

「我が道を行く男たち運動」(MGTOW movement: Men Going Their Own Way movement)
「社会が男性に不利に偏っているとし、女性や主流社会を全て避けるべきだと主張します」

ピックアップ・アーティスト(PUAs: Pick-Up Aartists)
「メンバーに、女性を強制的に性行為に及ばせる方法を教えたり、性的な同意の概念を軽んじます」

男性と少年はなぜマノスフィアに傾倒するのか

ジャーナリストのジェームズ・ブラッドワースは、マノスフィアに引き寄せられ、深くのめり込んでいった男性たちにインタビューを行った。彼は、マノスフィアが男性や少年にとって魅力的に映る理由として、彼らに求められる矛盾した社会的期待など、いくつかの要因を挙げている。

彼は著書『Lost Boys: A Personal Journey Through the Manosphere(原題)』で次のように書いている。「進歩的な制度は、男性や少年たちに寛容さや平等を受け入れるよう求めていた。一方で、日常生活においては、利益を優先し“勝ち抜くこと”が報われる経済システムのなかで競争しなければならなかった。(中略)こうした相反する価値観を解消するひとつの方法が、伝統的なジェンダー役割という確実性に後退することだったのだ」

ブラッドワースはまた、「個人的・心理的な困難に直面しているとき、人は過激なコミュニティに舵を切りやすくなる」と指摘している。

これはデータによっても裏付けられている。マスキュリニティと社会正義のための活動を行うEquimundoによるレポート「State of Men 2025」は、男性に影響を与えているさまざまな社会的・政治的問題について、憂慮すべき実態を示している。

  • 男性の約3分の2が、「自分のことは自分で守らなければならない。誰も自分を支えてくれない」と感じている。
  • 男性の4人に1人が、「自分は一生誰にも愛されないだろう」と考えている。
  • 男性の半数以上が、自分や家族の住まいを維持できるかどうかについて、常に不安を抱えている。

アルゴリズムや社会的な期待が、若い男性や少年たちを有害なオンライン空間へと押しやる一因であることは確かだが、ブラッドワースは政治の影響を見落としてはならないと警鐘を鳴らす。著書のなかで彼は次のように述べている。「自分たちの特権を少しでも手放したくない人びとは、長い間自らが“被害者”であると主張してきた。(中略)マノスフィアの拡大は、世界中で進む女性の権利への反発の一部なのだ」

Louis Theroux in Louis Theroux Inside the Manosphere. Cr. Courtesy of Netflix © 2026
Photo: Courtesy of Netflix

マノスフィアは女性と少女たちにどのような影響を及ぼすのか

「マノスフィアや男性至上主義的な構造は、女性や少女の尊厳に大きな影響を与えています」とセシル・シモンズは語る。「これらのインフルエンサーやコミュニティが力を強めるのと同時に、女性や少女に対するオンライン上の暴力は多様化・増加しており、ディープフェイクの拡散や嫌がらせ、そして女性を黙らせようとするさまざまな動きが見られるようになっています」

彼女はさらにこう続ける。「マノスフィアは、さまざまな有害な行動を“普通のこと”として受け入れさせてしまいます。インフルエンサーが若い男性に対して、『彼女をジムに行かせないようにするのが普通だ』とか『インスタグラムをやらせないのは当然だ』といったことを語ると、支配的なふるまいや家庭内暴力までもが、当たり前のものとして正当化されてしまうのです」

また、暴力的な行動を常態化させるだけでなく、マノスフィアは女性の日常生活に新たなレベルの脅威をもたらしている。「それは公共の場における女性の声を封じます。女性の尊厳や自由、安全に対して、個人的なレベルでも影響を及ぼしているのです」とシモンズは指摘する。

どのような変化が必要なのか

イギリスでは放送通信庁(Ofcom)が、オンライン安全法のもとテック企業に求めるガイドライン「The VAWG Code of Practice(女性・少女への暴力防止行為規範)」を公開した。アキウォウォは、マノスフィアの脅威に対処する責任はテック企業や法を制定する人にあるべきだと主張する。

「マノスフィアに構造的に対処するための実践的な一歩としては、女性や少女に対するオンライン上の暴力に対処するための措置を義務化することが挙げられます。Ofcomが策定している『The VAWG Code of Practice』も任意のガイドラインではなく、強制力のあるものにすべきです」