肉じゃがを安心して食べられなくなる? 米国産ジャガイモ、全面輸入解禁の観測高まる 安全性に不安も
日本政府が近く、米国産ジャガイモの全面輸入解禁に踏み切るとの観測が日米双方で高まっている。実施されれば、ジャガイモ農家に打撃となり、ただでさえ主要国の中で最低の食料自給率をさらに押し下げかねない。食料安全保障の観点からも議論となりそうだ。消費者にとっても、米国産ジャガイモは欧州連合(EU)が人の健康への懸念から使用禁止にしている農薬を使っているなど、現状では不安が多い。
輸入解禁に向けた手続き進む
6月11日付けの日本農業新聞は、生食用ジャガイモの輸入解禁に向けた手続きのひとつとして、農林水産省が「今夏にも、リスク管理措置の検討が必要な病害虫の一覧を同省ホームページに公表する」と報じた。
また、農水省は「今後、産地や農業団体への説明会も開く方針」で、「国内産地では警戒が強まっている」とも伝えた。
米政府が輸出支援金を交付
一方、米国のジャガイモ生産者の団体である全米ジャガイモ協議会(NPC)は4月28日、米農務省が向こう3年間のジャガイモ業界の日本市場開拓活動を支援するため、NPCに対し「特別作物技術支援資金」などの名目で17万9000ドル(約2900万円)を交付したと発表した。
NPC自身も日本への輸出支援強化のため5万ドル(800万円)を追加拠出すると明らかにした。
アイダホ州のジャガイモ生産者でもあるNPCのブレット・ジェンセン副会長は「(トランプ)大統領とロリンズ農務長官に感謝する。これは、日本市場を開放し、新たに1億5000万ドル(約240億円)相当の米国産ジャガイモの輸出先を確保するという両氏の強い意志の表れだ」と述べた。
首脳会談に合わせて米議員68人が書簡
ジャガイモの輸入は現在、米国以外の地域からは禁止、または隔離検疫を受ける必要がある。米国産も、ジャガイモの根に寄生する病害虫ジャガイモシストセンチュウが侵入する恐れから輸入を認めていなかったが、米政府の圧力に屈する形で2006年、ポテトチップス用に限り一定の条件付きで輸入を認めた。
しかし米側は満足せず、加工用以外に関しても一刻も早い市場開放を強く迫っていた。
2025年秋にはNPCを含むジャガイモ関連団体の幹部が農務省の幹部を伴って来日し、東京都内のスーパーを視察した。
今年3月には、ホワイトハウスでの高市首相とトランプ大統領の会談に合わせて、ジャガイモ業界の息のかかった超党派の連邦議員68人がトランプ大統領に、高市首相にジャガイモの市場開放を強く迫るよう求める書簡を送った。
米国に至れり尽くせりの日本政府
日本政府は、拙速な市場開放は避けつつ、着々と受け入れ準備を進めてきた。
たとえば、米企業が開発した遺伝子操作ジャガイモの国内流通を、2017年以降、次々と認可。2020年には生食用ジャガイモの輸入解禁を前提に米側と協議を開始。並行して、殺菌剤のジフェノコナゾールを食品添加物として生鮮ジャガイモに使用できるよう規制を変更した。
ジフェノコナゾールは動物実験で発がん性や神経毒性が指摘されている要注意農薬だ。米国では収穫後のジャガイモに散布する農薬として認可されているが、日本政府はそうしたいわゆるポストハーベスト(収穫後)農薬の使用を認めていない。
そこで政府は仕方なく、ジフェノコナゾールを農薬ではなく食品添加物と解釈することにし、国内法違反とならないようにした。米国産レモンにとったのと同じ手法だ。
ポテトチップスからEUで禁止の農薬が検出
消費者にとって気になるのはジフェノコナゾールだけではない。
米国ではジャガイモの収穫後の発芽を防ぐために除草剤のクロルプロファムが使われている。そのクロルプロファムをEUは2020年、人の健康へのリスクを理由に使用禁止にした。
日本国内で流通するポテトチップス類の残留農薬を、民間検査機関の農民連食品分析センターが2025年に調べたところ、米国産ジャガイモを原料に使っているとみられるポテトチップスの多くからクロルプロファムが検出された。
EUの定めた生鮮ジャガイモに対する残留基準値(安全基準値)0.2ppmを大きく超えると推定される商品もいくつかあった。
国産ジャガイモを原料に使っているとみられるポテトチップスからは検出されなかった。
米国産ジャガイモを使っているとみられるポテトチップスからは、EUなどが禁止している神経毒性のネオニコチノイド系農薬も検出された。
国産ジャガイモを使っているとみられる商品からは検出されなかった。
消費者の自衛は難しい
全面輸入解禁となれば、消費者は、ポテトチップスだけでなく米国産ジャガイモを使った様々な加工食品や生鮮ジャガイモから、クロルプロファムやネオニコチノイド系農薬など安全性に不安のある農薬を摂取するリスクが高まる。
自衛策としては、生鮮ジャガイモやジャガイモ加工品を購入する際に原産地を確認するようにすれば、米国産かそうでないか消費者が自分で判断することも可能だ。
しかし、日本の加工食品の原産地表示ルールは一般の消費者には非常にわかりにくい仕組みになっていて、正しい選択をしたくてもできない恐れがある。
全国の生活協同組合や市民グループは、原産地表示制度や遺伝子操作食品表示制度の見直しを消費者庁に求めているが、消費者庁は見直しには消極的だ。
国産ジャガイモに大打撃も
不安は生産者の間にも広がる。米国産に市場を奪われるだけでなく、「輸入後すぐに加工されるポテチ用と違い、生食用は種芋に転用できるため、国内に病害虫が侵入するリスクが大きい」と日本農業新聞は警告する。
万が一病害虫が繁殖する事態になれば、耐性を持たない国内品種は大打撃を受け、国産ジャガイモの生産量は大きく落ち込む。
肉じゃがを安心して食べられなくなる日が来るなど、想像したくないものだ。