マシュタンの占いは当たる。天気予報よりもさらに精密に、正確な天気の流れもマシュタンの占いなら教えてくれる。棒アイスが当たりかハズレかなのかも教えてくれる。今日何人ぐらい依頼人が来るのかを教えてくれる。くれあが作ってくれるアイスも……教えてくれるけどそれは過去に一度やってみて朝昼晩全て正解でものすごく悔しかったからもう二度と占ってもらっていない。
占ってもらうことはその日の気分で決まる。朝起きた時も、ご飯を食べた時も、身支度を済ませた時も、その時々に応じて私はマシュタンに占ってもらっている。……今思えば、あの日、私はなんであんなことを占ってしまったんだろう。それは私だけじゃない。マシュタン自身もそう思っているはず……。
キュアット探偵事務所 森亜るるかの部屋
ある日、私は悪夢にうなされていた。マコトジュエルを集めている怪盗団ファントムとの戦い。その戦いの中で、私を庇って傷付いていくくれあの姿を。キュアエクレールに変身できたとしても、くれあは女の子。傷つけば傷つくほど、身体は蝕まれていく。最悪の場合はもう普通の女の子としての生活は出来なくなってしまう。だから私はくれあのために彼女を庇おうとした。けど、くれあは私の背中を押して……私の代わりに消えて……!?
バッ!!
「はっ!?」
ビクッ!!
「る、るるか!?」
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
私は掛布団を掴みながら目を覚ました。現実味があり、脳にこびりついてしまうほどの悪夢を私は見てしまった。夢というのは本来少しづつ消えていくはずなのに、今日見た夢だけは消えることなく、覚えていたままだった。たった一つの夢を見ただけで、私は身体中汗でびしょびしょに濡れていた。パジャマの中に来ている下着も汗で濡れてしまっていて気持ちが悪かった。額から零れていく汗が、私の手の甲に落ちていく。その冷たさで、今の自分が現実にいるのだと安堵する。
「ふぅ…………夢……だったのね……。」
私がそう一言呟くと、マシュタンが心配そうに私の元へ寄ってきた。
「るるか、大丈夫?いきなり飛び起きたものだから驚いたわよ。」
「大丈夫……マシュタン……。」
私はマシュタンを心配させるわけにはいかなくてそう言ってしまう。それでもマシュタンは私に食いついていく。それもそうだ。私の全身は汗だらけで、なおかつ呼吸も乱れている。呼吸をする度に身体が上下に微かに揺れ、手も震えている。私を見て心配しないはずがない。何かを隠していると疑うのは当然のことだと思う。
「いいえ、あなたは何か隠しているわねるるか。話して。私はあなたのオトモ妖精よ。」
……そう。マシュタンは私のオトモ要請。だけど言えない。くれあが消えてしまうなんてこと、言えるはずがない。くれあが消えたら……私、どう生きていけばいいのか分かんないもの……。
「私に相談出来ないのなら、くれあを呼んでくるわ。」
ハッとした。嫌だ。それだけは……!!
「待ってマシュタン!!」
私の声でマシュタンは驚き、私の方を振り向く。マシュタンは少しビクッとして声を震わせていた。
「るるか……?」
私は深呼吸をして呼吸を少しだけ落ち着かせてマシュタンに話しかける。仕方がないけれど、マシュタンに話すしかない。
「夢を見たの。くれあが、私を庇って消えていく夢。」
「夢?」
マシュタンは宙を浮きながら首を傾げながら横に振り、呆れていた。
「はぁ……なんだ、夢だったの。驚かさないでちょうだい。」
「違うの!!違うのマシュタン!!」
私はマシュタンに抱きつく。マシュタンは驚いて身体が固まってしまい、逃げ出すことが出来なかった。
「マシュ!?」
「あの夢はただの夢じゃない……正夢になりそうなの……。私、怖い……くれあがいなくなるのが、消えるのが怖い……。私の代わりになってしまうのが……ものすごく……怖いの……。」
私はマシュタンの顔に涙を流しながらマシュタンに話す。マシュタンの身体をより強く抱きしめてしまう。苦しそうにするはずだけど、今の私の状態を察してマシュタンは私を受け入れてくれていた。
「まぁ……あの子はどんなときも一人で突っ走ってしまう子だからね。念の為に、あの子がどうなってしまうのかを占いましょうか?」
「えっ……?」
マシュタンの提案に、私は唖然としてしまう。そうだった。私、今までくれあのことについて占ってもらったことがなかった。なんで気付かなかったんだろう。そうだ。マシュタンにくれあのことを占ってもらえばいいんだ。マシュタンの占いは必ず当たる。だから、くれあがどうなるのかもわかるんだ。
「まぁ、私の占いは外れないから、最悪の結末に向かうこともあるかもしれないけど。」
そんなことは……
「そんなことは無いよマシュタン。さぁ、占って。くれあがどうなるのかを。」
占いをする前に安堵している私を見て、マシュタンは再度確認する。
「本当にいいのね?」
「うん、いいよ。占ってマシュタン。」
マシュタンは静かに頷き、水晶玉をベッドの上に出して占いをする。
「マーシュマシュマシュマシュ~マーシュー!!」
ピロロロン♪
「見えたわ……。」
その一言のあと、マシュタンは黙り込んだ。
何かを迷っているように、ほんの少しだけ視線を揺らしている。
……嫌な予感が、胸の奥で広がっていく。
「……。」
黙「どうしたの、マシュタン?」
マシュタンの身体が少しだけ震えていた。何かに怯えているような、不安になっているような、そう感じさせるものだった。それでもマシュタンは一呼吸置いて、私の方を振り向き、話し始める。
「るるか。あなたの正夢は現実になるわ。」
「……!?」
マシュタンの言葉を聞いて私は息を飲み込んでしまう。今まで生きてきた中で、1番聞きたくない言葉だったから……知りたくなかったことだったから……。
「キュアエクレールは、くれあは、あなたの代わりになるわ。記憶を失うよりももっと残酷なこと……消えてしまうかもしれないわね……。」
マシュタンの占いは当たる。外れることは絶対にない……。たかが占いなんて戯言を吐くことなんて出来ない。今までマシュタンの占いによって生活が出来てきたこともあった。だからこそ、私はマシュタンの占いを……受け入れるしかなかった。
キュアット探偵事務所 帆羽くれあの部屋
「シュシュ~!!くれあー!!今日も一緒に遊ぶでシュ~!!」
シュシュタンがくれあと戯れていた。シュシュタンは甘えん坊で、依頼がある日でも、くれあに甘えられないと駄々を捏ねてしまう困ったオトモ妖精でもあった。
「うーん、今日依頼が入っていなかったらいっぱい遊ぼうね♪」
くれあがシュシュタンの身体を抱き抱えて頭を撫でながら言う。
「わーい!!嬉しいでシュー!!」
「ふふふっ……シュシュタンったら。」
私は、くれあの部屋にノックを2回する。
「るるか?入ってきていいよ。」
私はドアを開けて閉め、くれあの背中を抱きしめる。
「る、るるか!?どうしたのいきなり……」
「どうしたでシュ~?」
首を傾げて不思議がっているシュシュタンの隣にマシュタンが目の前に現れる。
「今は、そっとしてあげて。るるかも女の子だから。」
「シュ~?」
シュシュタンはマシュタンの言葉を理解していないようだった。
「るるか……大丈夫……?」
「……ごめん、怖い夢を見ちゃって。」
怖い夢を見たのは事実。でも、どのような夢を見たのかを私はくれあに話せなかった。……話せるわけが……ないんだ……。
「そう。それは辛かったわね。でも大丈夫よるるか。ここは現実、もう夢の中の世界じゃないわ。」
くれあなりの励ましなんだろうけど……マシュタンの占いによれば、私が見た夢は正夢になる。くれあは記憶喪失になるか、それとも消えてしまうか。もしそうなってしまったら、私はどうなってしまうの?自分を見失いそうになる……。正夢なんて……起きないで欲しい……。
この時、私はマシュタンの占いが外れて欲しいと心の中で思ってしまった……。