短編小説──アゲハ蝶とのキス
これは運命だ、まさしく神がもたらした運命だ、と神田は思いを募らせた。神田は、近くのアゲハ蝶と会話することができた。アゲハ蝶が、「神田くんは素敵だ」と言ったことが、由々しき〔それは素晴らしい〕運命であると、神田は感じたのである。神田は、このアゲハ蝶と甘いキスを交わしたくなった。アゲハ蝶は、神田くんは優しくて、丁寧で、繊細で、とつらつらと述べた。神田は、嬉しくて気分の高揚に揺られていた。素敵、という語は、神田うれしい、という意味を内包している、と神田は、アゲハ蝶を見つめながら気づいた。ふと、あっという瞬間に神田はアゲハ蝶と口づけをした。それはそれは、小さな唇で、神田の口では顔ごと覆いかぶさってしまう予感さえた。「ありがとう」とアゲハ蝶は呟いた。神田は興奮の絶頂を迎えつつあった。大好きな彼女とデート気分でいるような、そんな心地よさを感じていた。口づけというものは、人を気概の高みへと向かわせる、あるいは感情ん絶頂へと向かわせる、極楽とはいわずとも運命を感じさせる行為である、と痛切に感じた。アゲハ蝶の気概もまた高みへと移行していた。大丈夫、この口づけは何かの代償であるわけではない。むしろ口づけの代償が油断というものなのだ、それを神田に分かって欲しかったのだ。


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