【短編小説】泡の水──行く川の水は絶えずして元の水にあらず
昔の俳聖である吉田兼好が、ゆく川の水は絶えずして元の水にあらず、というような句を読んだのを、高校の授業で聞いたっけな。ゆく川の水じゃなくて流れだっけか、日向は思惟を巡らせる。日向(ひなた)は、松下高校の二年生でゆっくりと演劇部でボイトレや身体トレーニングを実践していた。日向の父親は、水を洗う洗剤器を製造する会社に務めていた。日向の母親は、精神科医の仕事を勤めていた。水を泡にするというのは、良くないことらしい。日向の父親は、泡の水が飴よりも新鮮さがあるということを知っていた。なかなかの賢者である。日向の母親も、臨床心理士というだけあって、ふつうのお医者さんより賢いという。日向は、両親に恵まれている、そう実感した日に、吉田兼好の句が過ったのである。俺の人生は、神様のせいだ、でも全然許せるレベルだ、と思った。ゆく何かは絶えずして、変化して、常ではなくて、ゆく諸々の行いも、常に生成と変化を繰り返し、いずれは両親にも変化が来す。その時には、御葬式でも行使するはずである。こんなに幸せに暮らせるはずの人生がどんどん変化していく、それを許せる勇気を持っている。
神様、この人生を与えてくれて、ありがとう


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