「エロ広告規制法案」FAQ
はるかかなた 著
Discordサーバー「表現の自由界隈」管理人のはるかかなたと申します。
表現の自由界隈に、激震が走っています。
国民民主党は7月15日、青少年インターネット環境整備法の改正案を参議院へ提出しました。インターネット上で配信される性的な広告が未成年者の目に触れにくくすることを目的とした法案で、党は通称として「エロ広告規制法案」と呼んでいます。
国民民主党はかねてより「表現の自由シンパ」を公言し、少なからぬ表現の自由支持者が国民民主党に期待を寄せていました。ところがこの法案の提出を受け、「あの国民民主党が表現規制政党に転じたのか?」と、主にX(旧twitter)を中心に大きな物議を醸しているのです。
今のところ玉木代表他、党の中心メンバーからの発言はありませんが、みなさん大変関心のあるテーマだと思います。
この法案が一体どういったものなのか? 何が政策目標なのか? そしてどのようなリスクが考えられるのか? …などについて、わたしが調べた限りで、取り急ぎ「22のQ&A形式」にまとめてみました。
心穏やかではない方もたくさんいらっしゃると思いますが、いったん心を落ち着けて、極力事実に基づいた自分なりの意見が練り上げられるよう、参考までにご活用いただければと思います。
以下の画像は国民民主党が作成した当該法案の概要になります。ざっと目を通していただいたうえで、早速はじめていきましょう。
セクション 1:法案の基本(Q1〜5)
Q1)この法案は何を規制する法律ですか?
結論から言うと、この法案の対象はアニメやゲームなどの作品そのものではありません。有害なインターネット広告の対策を新たに盛り込む、既にある法律の改正案です。
正式には「青少年インターネット環境整備法(以下、『環境整備法』)」の改正案になります。未成年に有害と考えられるネット広告への対応を、大規模プラットフォーム提供者(例えばGoogle、Meta、X、Tiktokなど)に求める条文が追加されました。
大規模プラットフォーム提供者には、有害情報広告が未成年へ表示されないよう計画を作って公表すること、苦情の受付窓口を設けること、対応状況を定期的に公表することなどが新たに義務づけられます。
この法律は広告だけに関係するため、漫画、アニメ、ゲーム、小説などの作品そのものの販売を禁止する内容にはなっていません。
ただし、広告は作品を知ってもらうための重要な手段です。ネット広告が出しにくくなれば、作品のプロモーションや流通に間接的な影響が出る可能性があります。「広告だけの規制だから表現の自由とは無関係である」とも「作品を直接規制する法律である」とも、一概には言い切れません。
広告規制と表現への影響を分けて考えることが、この法案を理解する第一歩です。
Q2 )「エロ広告規制法案」と呼ばれていますが、本当にエロ広告だけが対象ですか?
いいえ。「エロ広告」だけを対象とする法律ではありません。
「エロ広告規制法案」という呼び方は、法案の特徴を分かりやすく伝えるために国民民主党がネーミングした、いわゆる「通称」です。しかし実際に条文を読むと、より幅広い広告が対象とされていることがわかります。
具体的には「青少年有害情報」を含む広告が対象になっているのですが、青少年有害情報については既に環境整備法内に定義が例示されています。
一 犯罪若しくは刑罰法令に触れる行為を直接的かつ明示的に請け負い、仲介し、若しくは誘引し、又は自殺を直接的かつ明示的に誘引する情報
二 人の性行為又は性器等のわいせつな描写その他の著しく性欲を興奮させ又は刺激する情報
三 殺人、処刑、虐待等の場面の陰惨な描写その他の著しく残虐な内容の情報
簡単にいうと、青少年有害情報には、性的な描写だけでなく、極端に残虐な表現や、犯罪・自殺を強く誘うような情報なども含まれます。そのため、法律上はエロ広告のみならず、「未成年の健全な成長を著しく害するおそれがあるネット広告」が対象となっています。
法律を正しく理解するには、通称ではなく条文を見ることが大切です。「名前を見るとエロ広告だけを規制しているように見えるが、法律上はそれより広い範囲を対象としている」という点を押さえてください。
現在は法律で例示されている情報に限定されていますが、この法案とは別の動きとして、現在子ども家庭庁を中心に青少年有害情報の定義拡大の議論が進行しています。今後の法改正や運用変更によって、規制対象となる情報の範囲が広がる可能性があることも念頭に置いてください。
Q3) 「青少年有害情報」と「それに準ずる情報」は何が違いますか?
この違いは、この法案でもっとも重要な論点の一つです。
「青少年有害情報」は、未成年の健全な成長を著しく害するおそれがある情報として、既に現在の法律で定義が例示されていることはQ2で説明しました。
これに対し、改正案では「青少年有害情報に準ずる程度に、青少年の健全な成長を著しく阻害するおそれが大きい情報」という条文が新たに追加されました。
問題は、「準ずる情報」がどこまで含まれるのか、文面だけでは明確ではないことです。エロ広告と聞いて多くの人が思い浮かべるような露骨な性的表現だけでなく、恋愛表現、肌の露出、ジェンダーステレオタイプを含む広告なども規制の対象になる可能性があります(昨年の「赤いきつねCM炎上事件」を思い出します)。加えて、「犯罪描写」や「残虐描写」などでも同じことで、セーフとアウトの線引きは曖昧だと言わざるをえません。
曖昧な基準が企業の萎縮を呼び、「企業が安全を優先して無難な広告に終始するのではないか」と心配する意見がある一方で、具体的な基準は今後の運用やガイドライン策定により明確にしていけるという考え方もあるでしょう。条文の曖昧さをどう補うかが、この法案の大きな課題です。
Q4)何が「広告」に当たるのですか?
実は、「広告」の範囲も重要な論点です。
一般的なバナー広告や動画広告はもちろん広告に含まれます。しかし、インターネットには広告とコンテンツの境界が曖昧なものも多くあります。
例えばインフルエンサーによるPR投稿、アフィリエイト記事、企業公式アカウントの商品紹介、ゲームや漫画の宣伝動画などは、どこまでを広告として扱うかが問題になります。
規制する広告の種類を狭くすれば抜け道が生まれやすくなりますが、反対に広告の定義を広げすぎれば、当然広範な表現規制になります。企業は慎重になり、本来は問題のない宣伝まで控えてしまうおそれがあります。
制度を運用するうえでは、「何が広告なのか」をできるだけ明確にし、企業や消費者が予測できるようにすることが重要です。
Q5)青少年健全育成条例とはどう違いますか?
どちらも青少年を守る制度ですが、役割は異なります。
青少年健全育成条例は、都道府県がそれぞれ制定している条例です。有害図書を指定したり、青少年への販売や閲覧を制限したりする仕組みがあります。
一方、本法改正案は国の法律であり、全国の大規模なインターネットサービスを対象としています。紙の雑誌やリアルに存在する店舗ではなく、デジタル広告への対応を強化することを目的としています。
そのため、条例と法律で「有害の定義」や「規制対象」が完全に一致する必要はありません。しかし条例では問題とされない広告が、全国のインターネットでは事実上表示しにくくなるとすれば、「なぜその違いが必要なのか」を合理的に説明する必要があります。
法律と条例は対立する制度ではありませんが、それぞれの基準に大きな差が生まれると、事業者や消費者が混乱するおそれがあります。基準の分かりやすさと他の法制度との整合性も、この法案を考える上での重要なポイントです。
セクション 2:対象と運用(Q6〜10)
Q6)「義務」と「努力義務」はどう違いますか?
法律では、この違いはとても重要です。
義務とは、「法律で行うことが求められているもの」です。今回の改正案では、大規模プラットフォーム提供者が計画を作ること、苦情受付窓口を設けること、対応状況を公表することなどが義務とされています。
一方、努力義務とは「できる限り取り組むよう努めること」を求める規定です。今回の法改正では、「青少年有害情報に準ずる情報」への対応は努力義務とされています。
努力義務に従わなかっただけで、直ちに罰則や行政指導が科されるとは限りません。しかし企業は社会的信用や利用者からの評価も重視します。とりわけ大規模プラットフォーム提供者の多くは上場していますから、法律上は努力義務でも、実際には義務に近い、積極的な対応を選ぶ企業が多いと考えられます。
つまり、「努力義務だから規制にはあたらない」、「努力義務だが実質的には義務と同じである」と単純に考えるのではなく、法律上の位置づけと、企業行動への影響を分けて考えることが大切です。
Q7)エロ広告以外にも「有害な」広告はあるのではないでしょうか?
あります。そして「なぜエロ広告を優先して規制するのか」は、この法案で十分に説明されていません。
青少年に悪影響を与える可能性がある広告は、エロ広告など有害情報に限りません。例えば、危険な薬物や違法行為を美化する広告、悪質な詐欺広告、科学的根拠の乏しい健康商品の広告なども、青少年の成長に深刻な被害を与えるおそれがあります。
本法改正案がマスメディアに取り上げられる際は、エロ広告が特に大きく取り上げられます。一方で、「他にも多くの『有害』情報広告がある中で、なぜエロ広告への対策を優先する必要があるのか」「他の『有害』情報広告と比べて、どのような被害や緊急性があるのか」といった点については、十分な説明がなされているとはいえません。
もちろん、エロ広告によって子どもが意図せず触れることを問題視する考え方には一定の社会的支持があります。しかし法律で特定の種類の広告を優先的に規制する以上は、その必要性や優先順位について、客観的なデータや被害実態に基づいて説明することが求められます。
制度への理解と納得を得るためには、「何を規制するか」だけでなく、「なぜそれを優先して規制するのか」を立法者が丁寧に説明することも重要です。法律の制定や法改正は法の平等や公平性の精神に反しないよう、慎重に進められる必要があります。
Q8)なぜ大規模プラットフォーム提供者だけが対象なのですか?
いくつか理由は考えられますが、ひとつには、一度の対策で多くの広告に対応できるからです。
インターネット広告は多くの場合、広告配信会社やSNS、検索サービスなどを通じて一斉に配信されています。そのため、個々のウェブサイトを一つずつ規制するよりも、多くの広告を配信・管理する大規模事業者に一定の対応を求めた方が効率的だという考え方があると考えられます。
一方で、大手だけに厳しい対応を求めれば、広告主が規制の少ない小規模事業者や海外事業者へ切り替える可能性があります。そのため、「大手を対象にすること」に一定の合理性は認められますが、それだけで問題が完全に解決するわけではありません。
真に機能する対策がどのようなものなのか、専門家を交えた客観的な議論の積み重ねが望まれます。
Q9)中小や海外事業者への「抜け道」はありませんか?
その可能性は十分考えられます。
もし大規模プラットフォーム提供者だけに厳しい対応を行えば、広告主が規制の少ない別の事業者へ広告を出す可能性があります。特にネット広告は国境を越えて配信できるため、日本国外の事業者を利用するケースは十分考えられるでしょう。
ただし、実際にどの程度そのような「抜け道」が生まれるかは分かりません。広告主は利用者が多いサービスに広告を出したいと考えるため、大規模プラットフォーム提供者の影響力は依然として大きいとも考えられます。
そのため、「すぐに抜け道だらけになる」とも「全く問題ない」とも簡単には言い切れません。法律を制定する前に、政策効果のベンチマークを設定し、法改正後に広告の流れがどう変化したのかを調査するとともに、実効性が乏しければ期間を区切って、規制の撤廃を見直す議論も並行して行うべきです。
Q10)未成年かどうかは、どう判断するのですか?
実は、この点も大きな課題です。
未成年に有害情報広告を表示しないためには、まず「誰が未成年なのか」を判断する必要があります。しかしすべてのネット利用者が正しい年齢を登録しているとは限りません。
年齢確認を厳しくすれば制度の効果は高まりますが、そのために身分証の提出や追加の個人情報を求めれば、プライバシーへの影響が大きくなります。また、年齢を推定するAIなどを利用した場合でも、誤判定が起こる可能性があります。
今回の改正案は、どのような年齢確認を行うべきかを具体的に定めているわけではありません。そのため、どの程度の確認が必要になるかは、今後の制度運用や各事業者の対応によって変わる可能性があります。
未成年保護とプライバシー保護は、どちらも大切です。このエロ広告規制では、その二つをどのように両立させるかが重要な課題になるでしょう。
セクション 3:評価団体と制度設計(Q11〜15)
Q11)評価団体は何を評価するのですか?
評価団体は「個々の広告」ではなく、「大規模プラットフォーム提供者の取り組み」を評価することが想定されています。
改正案では、国や自治体が民間団体(新設を含む)による調査や評価を支援することが盛り込まれています。ここでいう評価とは、プラットフォーム提供者が有害情報広告への計画を作っているか、苦情を適切に受け付けているか、実際に改善に取り組んでいるかなど、「仕組み」や「運用」を調べることが中心です。
ただし、事業者の対応状況を評価するためには、「例えば、⚫︎⚫︎の広告について適切に対応したか」を具体例として取り上げることは十分考えられます。そのため、制度上は事業者を評価していても、実態としては評価団体の個別広告への判断が、評価に影響する場面は出てくるでしょう。
この改正案を理解するうえでは、「評価対象は事業者に限定する運用である」という建前と、「実態としては個別広告が評価材料になる可能性がある」という運用上の問題を区別して考えることが大切です。
Q12)評価団体には広告を削除させる権限がありますか?
改正案には、そのような権限は書かれていません。
評価団体は行政機関でも裁判所でもありません。そのため、広告を削除するよう命令したり、違法だと直接判断したり、罰金を科したりする権限は法案上認められていません。
この意味では、「評価団体=検閲機関」という説明は、少なくとも条文だけを見る限り厳密ではありません。あくまで個別の広告の審査を行うのは、一義的には大規模プラットフォーム提供者であるという立て付けになっています。
一方で、プラットフォーム提供者への評価結果が世間に公表されれば、彼らがその評価を無視しにくくなることは十分考えられます。とはいえ、それは評価団体が法的な権限を持つからではなく、企業が社会的信用や消費者からの評価を重視するためです。
つまり「法的な検閲権限はない」という事実と、「実際には民間検閲と呼びうるような影響力を持つおそれがある」ということは、別の問題として考える必要があるでしょう。
Q13)法的権限がなくても、影響力は強いのではありませんか?
その可能性はあります。ただし、それは法律に書かれた権限とは別の問題です。
企業、とりわけ上場企業は法律だけでなく、消費者からの評価、広告主との取引、社会的信用なども重視しています。そのため、国の支援を受ける評価団体から「対策が不十分」と評価されれば、法的な命令がなくても、自主的に広告基準を厳しくする可能性があります。
その結果、本来は削除しなくてもよい広告まで、企業が安全を優先して配信を控えると考えられます。これを「萎縮効果」と呼びます。
もちろん、そのような影響が必ず生じるとは断定できません。評価結果を企業がどのように受け止めるかは、制度設計や社会状況によって変わります。だからこそ、評価基準を公開し、評価理由を説明するとともに、企業が異議申し立てできる仕組みを整えることが重要だと考えられます。
一方で、改正案はそうした制度設計への具体的な言及がないばかりか、国民民主党所属の地方議員からは「評価団体は未定」との発言があり、物議が重なる展開となっています。
Q14)評価団体が利権団体になる心配はありませんか?
大きなリスクです。事前の制度設計によってそのリスクを極小化する必要があります。
評価団体が国や自治体から継続的に補助金や委託費を受けるようになると、「団体の活動を続けること」が目的になってしまう危険性があります。またいったんは厳しい評価を行い、その後に団体とつながりのある有識者が有償の改善支援を請け負うようなビジネスモデルが出来上がると、公平な評価が難しくなるおそれがあります。
ただし、このような問題は今回の評価団体に限らず、多くの公的制度で指摘されている課題でもあります。
重要なのは、団体の選定方法、資金の流れ、役員や委員の構成、利益相反の有無などを公開し、第三者による監査を受けることです。
「評価団体だから利権団体になる」と決めつけることも、「民間だから不正は起こらない」と楽観視することも適切ではありません。「⚫︎⚫︎な評価団体は利権団体に堕するリスクが高まる」、「××な民間は不正リスクが高まる」など、制度設計を踏まえた具体的かつ建設的な批判が望ましいでしょう。
Q15)誰が評価団体を監督するのですか?
評価団体に大きな影響力があるなら、その団体自身も監督される必要があります。
評価団体は大規模プラットフォーム提供者の取り組みを評価しますが、その評価が社会に大きな影響を与えるなら、「評価する側」がどのようなルールに基づいて活動しているかも公開されるべきです。
例えば、「誰が委員を選ぶのか」、「どのような専門家が参加するのか」、「資金はどこから出ているのか」、「評価基準は何か」、といった情報が透明であることが望まれます。また、評価された大規模プラットフォーム提供者側が事実誤認や不適切審査を指摘したり、反論したりできる仕組みも重要です。
さらに、評価基準が特定の政治思想、宗教観、家族観、あるいは特定のジェンダー理論だけに偏れば、社会にはさまざまな価値観があるにもかかわらず、一つの考え方が事実上の「標準」として正当化されるおそれがあります。
だからこそ、多様な立場の専門家が参加し、情報公開を受け入れるなど、評価団体自身の透明性と説明責任が求められます。民間団体は行政機関とは異なり、情報開示請求権の対象とならず、組織体や運営、審査プロセスがブラックボックス化する懸念があります。
セクション 4:表現の自由との関係(Q16〜22)
Q16)そもそも表現の自由を制約するほどの「有害さ」とは何ですか?
単に「有害だから規制する」という説明では、法律によって表現を制限する理由にはなりません。
わたしたちは生活の中で、「不快だ」「好きではない」と感じる表現に接することがあります。しかし不快であることと、法律で規制すべき「有害な情報」であることは別の問題です。
例えば、性的な表現や暴力的な表現は、人によって受け止め方が異なります。また、ある表現が子どもに悪影響を与えるとしても、他の子どもにとっては成長上、欠かせないということもあります。悪影響の程度や根拠については慎重かつ多面的な検討が欠かせません。
憲法は「一切の」表現の自由を保障しています。そのため、国が表現を制限するには、「本当に重大な害があるのか」、あるいは「他の方法では防げないのか」といった理由を示す必要があります。
青少年保護は重要な目的ですが、「有害」という言葉だけを頼りに規制を広げるのではなく、どのような被害を防ぐための規制なのかを客観的に解明し、広く合意形成を図っていくことが求められます。
Q17)表現の自由と「文面審査の考え方」を教えてください。
法律は、「何を禁止するのか」が誰にでも分かるように書かれていることが重要です。
もし法律の文言が曖昧だと、人によって解釈が変わり、同じ条文を見ても人によって「違法だ」と判断されたり「合法だ」と判断されたり、結論が分かれる可能性があります。曖昧な条文を恣意的に適用されて、事後的に処罰されてはたまったものではありません。
なので裁判所は法律の条文について、「規制対象が十分に明確か」「国民や企業が何をすればよいか(してはいけないか)を予測できるか」といった点を重視します。これを法律の文言が適切かどうかを確かめる考え方として、「文面審査」と呼びます。
今回の改正案では、「青少年有害情報に準ずる情報」という表現が使われています。しかしその範囲は、条文だけでは必ずしも明確ではありません。曖昧な条文を「漠然故に無効」とか「過度に広汎故に無効」などと評価し、法律の違憲性を審査するのが「文面審査」です。
そのため、「どこまでが規制対象なのか分かりにくい」という批判に対しては、あたかも「いちゃもん」のように面倒くさがらず、あくまで法理として、真摯に明晰さを追求することが大切です。法律だけで表現できないなら、併せてガイドラインを策定するなど、法律として通用するしっかりとした文面を練り上げることが必要です。
Q18)表現の自由と「萎縮効果」を教えてください。
萎縮効果とは、法律で直接禁止していなくても、自主的に表現を控えてしまうことをいいます。
例えば、「違反かどうか分からない広告」を出して批判を受けるくらいなら、最初から広告を出さない方が安全だと企業が考えることがあります。
今回の改正案では、「青少年有害情報に準ずる情報」への対応は努力義務ですが、評価団体による評価や社会的な批判が加わることが予想されます。
こうした結果、「本来不適切ではない広告」までを企業が自主的に取り下げるようになれば、結果として表現の幅が狭くなる可能性があります。これが「萎縮効果」への懸念です。
もちろん実際にどの程度の萎縮効果が生じるかは、制度の運用や評価基準によって大きく変わります。ですから事業者が必要以上に萎縮しないよう、透明で、分かりやすい制度設計が重要になるのです。
Q19)表現の自由と「目的審査・より制限的でない代替手段」とは何ですか?
表現を規制する法律は、「目的」と「方法」の両方が適切かどうかを考える必要があります。
まず、「目的審査」とは、法律が本当に正当な目的のために作られているかを考えることです。今回の法案では、「青少年が意図せず性的な広告などに触れる機会を減らす」という目的が掲げられています。青少年を保護すること自体は、重要な公益だと考える人は多いでしょう。
しかし目的が正しいだけでは、どのような規制でも認められるわけではありません。次に問題となるのが、「より制限的でない代替手段(Less Restrictive Alternative)」という考え方です。
これは「同じ目的を達成できるのであれば、表現の自由をより制限しない方法を優先すべきだ」という考え方です。例えば、
年齢設定や年齢確認の仕組みを改善する
フィルタリング機能を充実させる
広告ブロックアプリを使用する
利用者が広告を非表示にできる機能を強化する
といった方法で同じ目的を達成できるのであれば、広範な広告規制よりも望ましい可能性があります。
この法案についても、「広告規制が本当に最も効果的で、しかも自由への制約が最も小さい方法なのか」という点は、まさに議論されるべき重要な論点です。制度への理解を深めるためには、「規制すべきか」だけでなく、「他により自由を制限しない方法はなかったのか」という視点から考えることが欠かせません。
Q20)表現の自由と「広告規制の理論」を教えてください。
広告も表現の一つですが、作品そのものとは少し違った扱いを受けています。
一般に、思想や芸術を表現する創作物は商業広告よりも強い保護を受けると考えられています。
商業広告は商品やサービスを販売する目的を持つ「商業目的の表現」です。そのため純粋な表現とは異なり、消費者保護や青少年保護などの理由から一定の規制を受けることがあります。例えば、虚偽広告や誇大広告が既に法によって規制されているのも、こうした考え方によるものです。
もっとも、広告だからといって自由が全く保障されないわけではありません。広告も憲法上の表現の自由の保護対象であり、必要以上の規制は許されません。
今回の法案も、作品そのものではなく広告を対象にしているのは、このような法的な違いを意識したうえでの制度設計だと考えられます。ただし、広告は作品を知ってもらうための重要な手段でもありますし、広告は消費者や国民の「知る権利」とも関わりがあります。広告規制が間接的に創作活動へ影響する可能性については慎重な検討が必要なことには変わりありません。
Q21)広告主や広告制作会社など、現場の声は反映されているのでしょうか?
制度を作るうえでは、規制する側だけでなく、規制される側の意見も重要です。
広告を実際に制作・配信しているのは、広告主、広告代理店、制作会社、出版社、ゲーム会社、プラットフォーム提供者など、多くの関係者です。制度が現場の実情に合っていなければ、必要以上に広告を控えたり、逆に実効性が乏しくなったりするおそれがあります。
今回の改正案については、国民民主党側は子どもの保護を目的とした制度であると説明しています。一方で、広告業界やクリエイター、プラットフォーム提供者などからどのような意見を聴き、それが法案にどの程度反映されたのかについては、公開されている情報からは十分にはわかりません。
広く国民に納得できる制度とするためには、立法の過程で関係者の意見を幅広く聴き、その内容や検討結果を公開することが望まれます。そうすることで、青少年保護と表現の自由、そして現場実務とのバランスを取りやすくなるでしょう。
Q22)表現の自由の観点から、エロ広告規制法には反対すべき?
みなさんの考えをわたしにも教えてください。一緒に考えましょう。
あと、国民民主党はこのFAQに違う点があるなら「正しい」FAQを作って公表してください。期待しています!!!
(了)


コメント