たらりたれる
舐めないでほしい。私は汗かきである。僅かな温度上昇に反応し、四六時中汗を滲ませている。
クーラーの効いた涼しい部屋でスマホを触っていると、肘の内側の皮膚の接地面は軽く汗ばんでいるし、テレビでサスペンスを見ている時は当然のこと、バラエティ番組で笑っている時でさえ脇から汗がたらり。汗を流すためにシャワーを浴びても、上がる前にはもう汗をかいている。あぶらとり紙など、拭いたそばから後発が吹き出してくるため全くの無意味である。
そしてラーメンを食べた時など、全身びしょ濡れである。
これは、当然と言えば当然。
残念なことに私は非猫舌で、熱いものは熱いほど良いという思想の持ち主でもあるから、指を触れただけで「アツッ」となるようなスープを冷ますこともせずに飲む。つまり、体の中に熱湯を流し込んでいるのと同じ。火照って当然である。額の汗が止まらない。ラーメンを食べている時が最も眉毛の仕事っぷりに感謝する瞬間である。
ただし、多汗症ではないと思っており、知り合いの多汗症の手汗のかき方と比べると私はひよっこで、「汗かき」レベルである。
汗かきで困ることのひとつに、衣服の汗染みがある。
先日、会社のイベントがあった。普段はYシャツにスラックス姿なのだが、ラフな格好で参加して良いとのことで、Tシャツにチノパンで行くことにした。真っ黒のTシャツで、中にエアリズムも着ている。
なのに人と喋っている間に体温が上がり、気づけばTシャツの脇の部分に大きく染みが出来ていた。いや、染みというような生半可なものではない。水浸しであった。グレーのTシャツは染みが目立つから避けた方がいいというのはよく言われることであるが、汗かきを前に中途半端なカラーコーディネートは無力なのだ。
最近は通勤も一苦労である。日傘を差していても暑い。汗だくで会社に着くと、既に冷えたオフィスで一気に体が冷え、サウナから水風呂に入ったような気分になり、少々ぼーっとする時間がある。
デスクワーク中も油断ならない。PCのファンのごとく少しでも熱を溜めると汗をかき続ける私は、デスクと腕の接地面がベタつくのを防ぐため、いつもタオルを敷いている。そして一日の仕事が終わったら、除菌シートでデスクを拭いてから帰る。決して潔癖症や綺麗好きの部類ではない。拭いている範囲のすぐ外には紙が山積みになっている。
タオルといえば、汗は拭いた方が良いのかどうか。
ヒトは、熱くなりすぎた体を冷ますために汗をかく。水が蒸発する時に気化熱を奪っていくため、体温が下がるのだ。生命の神秘である。
つまり、熱を奪っていってもらうには、皮膚の表面についた水滴は、水蒸気になってもらう必要がある。タオルで拭いてしまっては神秘が台無しではないか。しかし汗を残したままでは気持ちが悪い。そんな小さなことを考えているだけでも汗が出てくるのだ。
夏だけではない。冬も汗の季節である。
私は面倒なことに寒がりでもある。しっかり着込んで、通勤電車の暖房が効いていればまず汗をかく。会社に着き、どうしても足元は寒いので極暖ヒートテック靴下と極暖ヒートテックタイツを履いた上で膝掛けを掛けているが、上半身は少し考えごとをしただけで熱くなるため、着てきたカーディガンを脱ぐ。それでも中のエアリズムにはそれなりに汗が染み込んでしまう。
もちろん脇汗パッドを試したこともある。しかし動く度にバリバリと音が鳴ったり、結局は汗まみれになってすぐに剥がれてしまうのだ。
そしてそんなことも忘れた昼下がり。トイレの個室でベルトを外してズボンを下ろした瞬間、Yシャツの裾から肌色の塊が落ちてきた。知らない間に、脇腹に馬鹿でかいデキモノが出来ていて、それが剥がれ落ちたのか!? と半ばパニックになりかけたところで、それが巨大な腫瘍などではなく、ぐちゃぐちゃに丸まった脇汗パッドだと分かった。ちなみにそこでもまたひと汗かいている。
そして困ったことにどうやら私は鼻が鈍くはないらしい。自らのにおいも気になってしまうため、ケアする必要がある。もちろんにおいのキツくない制汗剤に、衣料用洗剤や柔軟剤に至るまで気を使い、インナーもデオドラント機能があるものを選ぶようにしている。靴の消臭スプレーも怠らない。
この涙ぐましい努力。少なくとも自認の上では清潔に保たれているのは、血と汗の結晶と言ってもよかろう。ただしこの場合、散々汗の話をした後では、どうしても塩の結晶が浮かんでしまうのが如何ともし難いところである。


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