EV(電気自動車)のバスやトラックなどを販売する福岡県北九州市のEVモーターズ・ジャパン(EVMJ)のバスにトラブルが相次いでいる。
同社のバスは中国メーカーに製造を委託し、並行輸入のかたちで販売されている。日本仕様にするために架装を施してはいるものの、実質「中国車」だ。その同社が大阪メトロに納車し、自動運転システムを組み込んだEVバスが4月に大阪・関西万博の駐車場でコンクリート擁壁に接触する事故を起こした。
同社は、大阪メトロが自動運転システムメーカーに委託したシステムの設計ミスによりパーキングブレーキが作動しなかったとして「車両側の不具合ではない」ことを強調。対策を講じた上、未改造の有人バスの通常運行は続けるとした。
しかし、その後も同社のEVバスには不具合が相次ぎ、9月1日には大阪市内を回送中のEVバスでハンドル操作がきかず中央分離帯に衝突する事故が起きた。当初、同社は「運転手のわき見運転」と認識したが、ドライブレコーダーの映像からは、ハンドルを切ったのと反対方向に車体が流れ、衝突した様子が映されていた。
事態を重く見た国土交通省は9月3日、道路運送車両法に基づき同社に総点検を指示。10月20日には立ち入り検査を行った。同社は国交省に対し、全国で販売した317台のうち113台で油圧をブレーキ装置に伝えるブレーキホースの損傷などの不具合が確認されたことを報告。修理を行ったが、修理済みの複数台のバスでブレーキホースが運転中に車体に接触するなど、新たな不具合が確認されたという。
EVMJが製造委託しているのは、福建威馳騰汽車(日本名WISDOM)、京恒天嶺鋭汽車有限公司(同YANCHENG)、愛中和汽車(同VAMO)——の3社。WISDOM は、EVMJが設立された2019年4月1日の1週間後に福建省で設立された企業で、万博で事故を起こした車両はすべてWISDOM製だ。福岡県の小学校のスクールバスなどに採用されたYANCHENGや、大阪メトロが市内オンデマンドバスとして運行していたVAMOのEVバスも、「交差点で突然停止」「ハンドルがきかない」といった不具合が多発している。
見かけだけの「国産EVバス」
人命を預かる公共交通機関でトラブルが多発すること自体大問題だが、皮肉なのは、EVMJが国産EV、裏返せば「脱中国」を政府に売り込んでいたことだ。西村康稔元経済産業大臣は、大臣当時、「大阪のバス会社が中国製EVバスの導入を進めていたことに危機感を持ち、日本企業製のバスの導入を奨励しました」と、自らのX(旧Twitter)アカウントで投稿している(2025年4月15日付)。
確かにEVMJは日本企業であり、EVバスの架装など最終工程は日本で行っているが、前述したとおりベースは中国製だ。原産地より水揚げ地を強調するブランド魚のような触れ込みで、安易に「日本企業製」が奨励され、粗悪な製造品質で人々を不安に陥れたことになる。原因究明はこれからだが、4月の万博バスの事故についても、車両側の不具合を指摘する報道が出ている。少なくとも今回の騒動から見て取れるのは、製造委託したEVMJは品質管理ができなかったということだ。
特に、今回の万博専用バスのようなEV車両と自動運転システムの安全性検証はより複雑だ。もともとEVMJの佐藤裕之社長はリチウムイオン電池の充放電装置の開発などに携わるエンジニアだが、バッテリーの信頼性に加え、自動運転に関連するセンサーやカメラ、通信、それらを統合制御するソフトウエアと、車両本体側の制御との連携を確認できなければ安全性は保証できない。EVMJはバッテリーやエアコン、シャシー関連部品も日本製に切り替える方針だったが、むしろ足回り、ブレーキ、ドア、LEDなどの欧州製パーツは中国製に置き換わっている(加藤久美子「『やっぱり税金の無駄遣い』“中国製”万博バスの実態…危険すぎる不具合まで見つかって」現代ビジネス、2025年10月23日)。結果として脱中国は進まず、不具合の多発は中国製バスがブラックボックス化していることを半ば証明してしまった。
ブラックボックス化がリスクを加速
こうした構図の中でさらに懸念されるのは、中国を巡る安全保障上のリスクだ。ノルウェーの公共交通機関ルーター(Ruter)は10月末、自社が導入している中国「宇通(Yutong)」製バスのセキュリティーリスクを指摘。外部通信によるソフトウエアアップデート機能(いわゆるOTA)を備えており、バッテリーと電源の制御システムには、利用者の情報を書き込んだ「SIMカード」を通じてモバイルネットワーク経由でアクセスが可能で、理論上、遠隔操作で車両を停止させることができるとした。
米国では、中国やロシアの企業などによって製造・開発されたハードウエアやソフトウエアを搭載した「コネクテッドカー(外部通信によってつながるクルマ)」の輸入・販売を禁止する規則が今年3月に発効している(適用時期はソフトウエアが2027モデルイヤー、ハードウエアは2029年もしくは2030年モデルイヤーから)。規制対象は乗用車だが、米国は、中露による不正な遠隔操作や情報漏えいといった安全保障上のリスクを強く懸念している。
リスクは遠隔操作だけではない。近年、自動車は走行性能や安全性の向上のため、多くのセンサーを搭載している。自動運転が進展すればその数はさらに増え、高度化する。ここで、中国特有のリスクとして問題となるのは、「国家情報法」により、中国の個人や企業は、政府から情報提供を求められた場合、それに応じる義務があることだ。日本進出時点でEVメーカーやその日本法人が堅固なセキュリティーポリシーを策定していても、中国政府が命じれば、それらのデータを提供することは拒めないはずだ。
これに対し、「日本国内のプロバイダーのクラウドサーバーでデータを保管している場合、日本法が優先する」という主張も聞かれる。だが、科学的に安全が証明された福島第一原子力発電所の「ALPS処理水」を「汚染水」と称して外交の武器に使うような母国から強い圧力があった場合、それに抗えるだろうか。無数の中国EVが日本の都市を縦横無尽に走ることになったとき、中国政府が本気になれば、その都市の構造や状況を丸裸にできるだろう。
自動車は日本の産業を支える大きな柱だが、EVや自動運転の流れの中で、中国への依存は高まっている。ましてや、製造委託先がブラックボックス化していれば、リスクの見積もり自体が困難だ。中国EVを安易に受け入れてよいのか。私たちは再考すべきタイミングに来ている。
写真:ZUMA Press/アフロ