日本の慢性腎臓病患者数は2000万人以上だと推定されています。これは、成人の5人に1人という数字です! さらに、人口透析を受ける人の数は34万人を超えています。じつは、日本では人口透析に毎年1兆円以上が使われているそうです。加齢とともに減少し、再生することのない腎臓。365日24時間休むことなく、全身の各器官のはたらきを裏で支えている腎臓。再生医療でもっとも実現が難しいといわれる臓器を、どうすれば健康に維持することができるのか? 話題の書籍『腎臓の教科書』から、人生100年時代に腎臓と付き合っていくための方法を紹介します。
『腎臓の教科書 体液の循環・浄化から見る驚異の生命維持システム』
髙取優二・著/定価:1000円(税別)
*本記事は、『腎臓の教科書』髙取優二・著から一部抜粋し、再編集したものです。
年齢とともに小さくなっていく腎臓
老化にともなって腎臓は小さく、軽くなります。腎臓の表面にある皮質という部分が萎縮し、これにともない、老廃物を除去するための糸球体という組織が減少します。
これには皮質を通っている葉間動脈・弓状動脈・小葉間動脈などの動脈硬化が関係しています。動脈に血液が通りにくくなるために、腎臓全体の血流量が低下して酸素や栄養が不足します。こうして原尿の再吸収などを行う尿細管が萎縮して、間質が拡大すると同時に線維化が進行します。そのため、見た目だけでなく機能についても変化が起こり、再吸収能力の低下なども起こります。
また、塩分を排出する能力も衰えるため、同じ量を排出するさいに若年者よりも高齢者は時間が長くかかります。高齢者では、尿の濃縮力だけでなく、希釈力も低下します。ですから、体液の量や濃度をコントロールしにくくなり、ホメオスタシスを保つ能力が低くなります。
この記事では、「抗老化(アンチエイジング)」という視点から腎臓を考えてみたいと思います。
空腹は最高の……サーチュイン遺伝子の活性化
「腹八分目に医者いらず」ということわざがあります。この言葉のもとになったのは、江戸時代の本草学(薬学)者・儒学者である貝原益軒が書いた『養生訓』です。
昔から経験的に腹八分目が健康によいと知られていたわけですが、近年、そのメカニズムがわかってきました。
一つは、サーチュイン遺伝子(sirtuin)です。サーチュイン遺伝子は、アメリカのマサチューセッツ工科大学のレオナルド・ガレンテ博士と当時同ラボの博士研究員であった今井眞一郎博士(ワシントン大学卓越教授)によって2000年に発見されました。
サーチュイン遺伝子は「長寿遺伝子」「抗老化遺伝子」とも呼ばれているものです。この遺伝子によって、特定の機能を強めたり、弱めたりできる。さらには、寿命が延びる、縮むことが発見され、一つの遺伝子の機能が、寿命に影響を与えているという発見に世界中が驚きました。
サーチュイン遺伝子は、今まさに研究が進められているものですが、これまでの研究では、サーチュイン遺伝子が活性化すると、腎臓はもとより肝臓、骨格筋、脂肪細胞などすべての臓器において機能が高まるという結果も出ています。また、サーチュイン遺伝子は、細菌から哺乳類にまで広く存在し、人間にはSIRT1からSIRT7まで7種類あることがわかっています。
この中でもとくに重要とされるものがSIRT1です。
サーチュイン遺伝子を活性化させる方法の代表的なものが、体に飢餓状態と似た状況をカロリー制限によって作り出すことです。
サーチュイン遺伝子を活性化して腎臓の機能を高める
サーチュイン遺伝子と腎臓の機能との関係を調べた研究を見てみましょう。
まず、尿の元となる原尿の再吸収を行っている腎臓の近位尿細管のサーチュイン1(SIRT1)に細胞保護作用があるとわかりました。また、ラットの腎障害が、カロリーを60パーセント制限することで改善したという報告もされています。
カロリー制限以外に、サーチュイン遺伝子を活性化させる方法についての研究も行われています。
その一つがポリフェノールです。ポリフェノールは、植物に存在する苦味や色素の成分です。緑茶のカテキン、大豆のイソフラボン、ブドウの果皮のアントシアニンなどが挙げられます。ポリフェノールを摂取するとサーチュイン遺伝子を活性化させるスイッチが入ることが報告されています。
とくに、ポリフェノールの中でも、ザクロやベリー類、ナッツ類に含まれているエラグ酸は、その効果が高いといわれています。ポリフェノールの多くは水に溶けやすい形で含まれているので、効果は摂取した約30分後に出はじめ、3〜4時間で消えるとされています。
ただ、ヒトにおいてどれだけの量のポリフェノールを摂ればサーチュイン遺伝子を活性化できるのかは、まだわかっていません。
細胞の自食作用「オートファジー」
もう一つが、オートファジーです。オートファジー(autophagy)は、ギリシア語で「自ら」を意味する auto と、「食べる」を意味する phagy を組み合わせた造語で、自食作用と呼ばれています。
オートファジーは、細胞が自らのたんぱく質や細胞小器官などをアミノ酸に分解し、エネルギー源にしたり、新しいたんぱく質を作る材料にしたりという、体のリサイクルシステムです。このしくみの発見者は、大隅良典博士(東京科学大学栄誉教授)で、この発見によりノーベル生理学・医学賞を受賞しています。
オートファジーはおもに体の飢餓状態によって起こり、老化や代謝で傷ついたミトコンドリア、そして細胞内の老廃物、余分な脂肪などが分解されます。このようなオートファジーのはたらきが低下すると、細胞の中に傷んだミトコンドリアや老廃物などがたまって機能が低下し、細胞の老化につながります。
腎臓でも、細胞内のホメオスタシスを維持するために、オートファジーが重要な役割を果たしています。
サーチュイン遺伝子とオートファジーは、前述のように、細胞が栄養不足になったとき、つまり飢餓状態で活性化します。一般的に12時間以上の空腹状態が続くとオートファジーがはじまり、とくに16時間の断食は、オートファジーの時間的な目安として知られています。
オートファジーという視点からも、腹八分目にして一日の中で空腹の時間を作ることが腎臓のアンチエイジングにも役立つと考えられます。