スタッフロールの闇
ゲームをクリアすると表示されるスタッフロール。
ビデオゲームを研究している人はこれらを参考にゲーム史をまとめている方も多いと思います。ですが自分が関わった範疇では、ゲームのスタッフロールは信憑性に欠けるものと言わざる得ません。
なのでスタッフロールを真に受けてWikipediaなどに安易に書き込んでしまうと事実とは異なる歴史が広まってしまうわけです。
まずスタッフロールの歴史を軽くおさらいしていきましょう。
まだ家庭用ゲーム機は普及しておらず、ビデオゲームの主流がゲームセンター向けだった頃。
この頃のゲームにはスタッフロールはほとんどありませんでした。
そのゲームを誰が作ったか?というところに目を向けるまでには至らず、
せいぜい「どこのメーカーから出たゲームか?」といったところが話題にあがる程度でした。
また、当時のゲームには終わりがなく、ゲームオーバーになるまでひたすら難易度が上がり続けるステージを繰り返すものであり、スタッフロールを表示するようなタイミングはありませんでした。
やがてパソコンが一般販売されるようになってきて、個人がゲームを作れる時代が到来します。
ゲームコンテストなども開催され、スタープログラマーとして名前が有名になった人達もたくさん出てきました。
すると「どのメーカーが作ったか?」だけでなく「誰が作ったか?」が注目されるようになります。
この頃にはタイトル画面に作ったプログラマーの名前がクレジットされる事が多くなりました。またパッケージに作者の顔写真と名前が載っているゲームも登場していました。
パソコンのスペックが上がっていき、ゲームは一個人で完成できるものから、チームを組んで作り上げるものに変わっていきました。
その頃になるとゲームは無限ループで遊ぶものではなく、物語や展開を完結まで楽しむものに変わっていきます。
さて、ここでクエスチョンです。ゲームのスタッフロールは何のために表示するものでしょうか?
生成AIに聞いてみました。
1.制作者への敬意と感謝
ゲームは多くの人の協力で作られています。
プログラマー、デザイナー、アーティスト、サウンドクリエイターなど、
関わった人々の名前を表示することで、彼らの貢献を称えます。
2.法的・契約上の義務
一部の契約やライセンスでは、スタッフや外部協力者の名前をクレジットに載せることが義務付けられています。
3.業界内での実績証明
ゲーム開発者にとって、スタッフロールに名前が載ることはキャリアの証明になります。
次の仕事や転職の際に「この作品に関わった」という実績として重要です。
4.プレイヤーへの透明性
プレイヤーに「誰がこのゲームを作ったのか」を示すことで、ブランドや開発チームへの信頼感を高めます。
現在のゲームに当てはめるとこれらは正しい回答だと思います。
ですが、ゲームソフトにスタッフロールが採用され始めた頃、これらに該当する意味合いを持ってはいませんでした。
以下はとあるゲームのスタッフクレジット画面です。
表示されているスタッフに本名で記載されている人はいません。
おそらくそのとき限りでしか使っていない個人を特定できないものになっています。
これでは上記の条件に当てはめる事は出来ません。
では何の意味があるのか?
多くの場合は演出的なお遊びでした。
ゲームをクリアしたとき、ただ「THE END」とでるよりも、スタッフロールを流しながら音楽を流した方が締まるからです。
当時のエンターテイメントの王様は映画でした。映画のラストを模倣する事で“それっぽく見せていた”というのも理由の一つだと思います。
そんなゲームのスタッフロールですが、やがて本名を表示するようになります。そのきっかけは供給メディアにCD-ROMを採用した事が大きいと言われています。CD-ROMでゲームに大容量が使えるようになると、ゲームプレイ中に声優によるボイスを再生するタイトルが増えました。
プロの声優さんを起用する場合、その声優事務所や本人との契約で「出演作品には名前をクレジットする」という条項が含まれている場合が標準的な慣例になっています。
それがゲームであってもスタッフロールには声優さんの本名を載せる必要が出てきました。
今までお遊びで作っていたスタッフロールも“表示する必要性があるもの”に変わったわけです。
“声優さんは本名でゲームスタッフは適当な偽名”でもイイっちゃイイんですが、統一して本名にしていこうという流れになったわけです。
「制作者への敬意と感謝」だの「業界内での実績証明」だのは後からの理由付けだと思いますね。
さて、では本名で表示されるスタッフロールは信頼できる情報なのかというと、そんな事はありません。
自分がゲーム業界に入って制作に関わったタイトルのスタッフロールには、いくつかのルールが敷かれていました。
(このルールは業界で統一されたものではないので会社によって、または開発ハードによっても異なります)
複数の業務を兼任していてもスタッフロールでは担当は一つとする
長いゲーム開発の中で、担当する業務は1種類とは限りません。
プログラムを組みながらシナリオを書き、仕様を設計し、サウンドも作曲する・・なんて人もいるでしょう。
ですがその中から担当を1つに絞ってスタッフロールに記載しなければならないルールでした。
これによって実際に担当した人の名前が確認できなかったり、実際にはほとんど担当していない人の名前がその業務をした事になってしまっていたりします。
映画などのスタッフロールを見ると同じ名前が何度もスタッフロールに登場してきます。その方が正しい情報だと思います。
もともとスタッフロールはお遊びの演出から始まっているので、正しい情報よりもテンポやデザインを重視した結果なのかも知れません。途中で開発を離れた人間は全員“SpecialThanks”
自分の関わっていた開発では、開発途中で別の部署へ移ったり、会社を辞めたりした人間の名前は“SpecialThanks”として表示するルールでした。
そのゲームのプログラムを8割作っていたとしてもSpecialThanksです。
するとメインプログラマーの欄には最後にちょっとだけ引き継ぎ作業を受けた人の名前が入ったりします。担当に入っている名前の人物が実作業をやっているとは限らない
例えば「ゲームデザイン」と書かれた人物が、実際には部下に「こんな感じの内容で設計して」と指示し、その部下がほとんどの設計をやっている・・といった事もありました。下請け会社を隠したがるメーカーもある
ゲーム開発を下請け会社に丸投げしているメーカーの中には「メーカーが内部制作している」としておきたい会社も多かったように思います。
そういう場合、下請け会社の名前はスタッフロールに出ませんし、出たとしても「制作協力」としてクレジットされている事が多いと思います。
また、下請け会社のスタッフ名すら出さず、スタッフロールには開発メンバーが一度も顔を見た事が無い人が並んている・・なんて事も実際にありました。
自分が関わったタイトルで経験したルールはこんなところですが、他社ではスタッフ全員が“本名に見立てた偽名”で表示されるなんてものもあったようです。これは冒頭でお伝えした古き良き時代のお遊びとしての偽名ではなく、優秀なスタッフを引き抜かれないための防御策としての偽名だったようです。
とまあこんな感じで「ビデオゲームのスタッフロールは正しい情報源では無いよ」というお話でした。
とはいえ完全にフェイクなスタッフロールというのも逆に珍しいと思いますし、スタッフロールをそのまま信用するのではなく、歴史を掘り起こす上でのヒントとして引用するには有効だと思っています。


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