「長髪にヒゲ面…まさに僕だと思いました」安野貴博が三田紀房の新作“政治マンガ”に激しく共鳴した理由〉から続く

 選挙に出ようとすると、「見たことないくらい大きな袋」が渡される。国会の本会議場にはタブレットもパソコンも持ち込めない。そんな政治の「バグ」をどう潰すのか。チームみらい党首・安野貴博さんと漫画家・三田紀房さんが、漫画『魔界の議場』(小学館)を起点に、選挙・議会の前例踏襲と未来のヒーロー像を語り合った。(全2回の2回目)

(初出:「文藝春秋PLUS」2026年6月7日配信)

「絶望の袋」と呼んでいたもの

――『魔界の議場』では選挙準備の煩雑さが緻密に描かれていますが、安野さんご自身が実際に驚いた選挙の手続きとは。

安野貴博(以下、安野) バグだらけで言いたいことはいっぱいあるんですが、一番衝撃だったのはポスター掲示板の場所一覧です。選挙の時、役所に行くともらえるんですが、私はデータで欲しいと思ったんですよね。「メールで送ってください」とお願いしたら、「メールでは送れません、来てください」と。

 行くと、見たことないくらい大きな袋があって、全市区町村の書類がどさっと入っている。僕は「絶望の袋」って呼んでいました。

 都知事選はまだ都庁で一括してもらえるからいいんですが、参院選でびっくりしたのは、県によっては県庁に行っても出してくれない。「全市区町村を回ってください」と言われるんです。70個、80個ある自治体を全部回れと。メールで送れば一瞬なのに。

三田紀房(以下、三田) そこまで紙にこだわる理由って何なんですかね。

安野 前例があるかないか、というのが一つ。公平性もあるのかもしれませんが、すでにやっている自治体もありますし、さすがにもういいんじゃないかと思います。

ポロシャツで国会へ

――前例を打ち破るために、安野さんが今取り組んでいることは。

安野 直近で関心があるのは、本会議場にタブレットやパソコンを持ち込めないという問題です。「前例がない」「品位がない」と言われるんですが、あった方が明らかに理解度は上がる。聞きながら検索もできるし、メモも取れる。今は紙にメモを書いて、議員室に戻った後に打ち込み直すという方もいて、効率化とはかけ離れたところにあるんですよ。

 ちょっと変わった話で言うと、参議院のクールビズ期間の服装ルールです。以前は上着の中身はワイシャツでなくてはいけませんでした。

 それが最近、服装を除外する文言から「ポロシャツ」という言葉が抜けたんですよね。明示的に「OK」とは書かれていないけれど、明示的な「NG」からは外れた。これは千載一遇のチャンスだと思って、ポロシャツを着て本会議に出席し、前例を作りました。行けそうな時にちゃんと行かないとダメだなと。

三田 しょうもない話に聞こえるかもしれませんが、何事も「蟻の一穴」ですよね。ほんの小さいところから穴を開けて、少しずつ崩していく。それが新興政党にとって一番確実な戦法なのかなと思います。ちっちゃい穴をいっぱいプスプス刺して、少しずつ崩していけば、国会も変わっていくのかなと。パソコンの持ち込みも、もうそろそろですよね。

安野 絶対数で見ると、パソコンを持ち込んだ方がいいと思っている国会議員の方が多いと思います。政策課題って無限にあるんですが、まだ誰にも指摘されていない、発掘されていない課題も無数にある。そういうところを見つけて、蟻の一穴みたいな形でどんどん差し込んでいくことに、今の政党として取り組んでいます。

「安野さんを主人公にするなら…」

――三田先生、もし安野さんを漫画の主人公として描くなら、どんな作品になりますか。

三田 安野さんのキャラクターからすると、「日本変えるぞ」という日本改造的な、若干現実離れしたSF的な目標で国政に乗り込むという形になると思います。エンジニアとしてのキャラクターを最大限活かすなら、日本を根底からひっくり返して作り変えるという大胆な発想を、派手にぶち上げるような作品が読者の興味を引くんじゃないかなと。

安野 もうちょっとキャラを立たせた方がいいというアドバイスを複数の方からいただいたこともあるので、参考にさせていただきます(笑)。

これからのヒーロー像とは?

――最後に、お二人が考える「これからのヒーロー像」について聞かせてください。

安野 意外かもしれませんが、これからのヒーロー像ってカリスマというよりも、地味だけど粛々と仕事をしている人なんじゃないかと思っています。委員会で誰も指摘していなかった新しい論点を持ち込む人がいるのに、まったく報道されない。

 一つの案としては、AIなどで「新しい論点を持ち込めた度合い」を可視化することができれば、「実はこの人がヒーローだった」と見つけられるかもしれない。アピール合戦だけでなく、粛々と成果を出す人にも注目してほしいですね。

三田 安野さんのお話にほぼ共通しています。一つ足すとすれば、やはり「可愛げ」が必要だと思う。実務型でしっかり結果を出すんだけど、もう一面、愛らしさがある。大谷翔平くんがヒーローなのに普段の素の可愛らしさを見せるように、それがヒーロー像をさらに増幅させる。真面目であり正直であることが大前提で、強さやパワフルさで引っ張っていくリーダー像は、少しずつ世間の感覚から離れていくのではないかと思います。

安野 『魔界の議場』を読んで市議会議員になる人が今後出てきてもおかしくない。大きくない政党であっても議会で変えられることはある。そのことがこの作品を通じて、もっと多くの人に伝わってほしいですね。

(「文春オンライン」編集部)

安野貴博氏