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政治・経済・投資 #野口悠紀雄「経済最前線の先を見る」

長期金利はなぜ「29年ぶりの高水準」まで急騰したのか? 日銀の金融政策正常化だけが原因ではない「国債価格下落」の全貌

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日銀
4月の金融政策決定会合で政策金利を据え置いた日銀。長期金利上昇を受けてどう動く?(写真:ブルームバーグ)

INDEX

日本の長期金利が顕著な上昇を続けている。この背景には、日本銀行の金融政策の正常化への動きがある。だが、理由はそれだけではない。2025年秋以降の状況を考察し、足元の金利上昇の本質を考えてみたい。

長期金利のこれまでの推移を見ると、25年9月の1.6%台から26年5月の2.5%台へと、約0.9%ポイント上昇した。25年9〜11月の期間は「急騰」というより、1.6%台でじりじり上がる局面だった。その後、25年12月から26年2月にかけて2%台に乗せた。

この時期の金利上昇の背景としては、まず日銀による金融政策正常化がある。すでにマイナス金利政策とYCC(イールドカーブ・コントロール)は終了しており、市場は「日銀は追加利上げを続ける」と見るようになっていた。

また、日銀は長期国債の買い入れ予定額を段階的に減額し、事実上、量的引き締めに近い運営を進めるとしていた。26年4〜6月期以降は月間の長期国債買い入れ予定額を、原則として毎四半期2000億円程度ずつ減額し、27年1〜3月期には月間2兆円程度まで減らすとしていた。

金融市場の基本認識が変わった

これは、国債市場にとって大きな構造変化だ。それまで日銀は国債の巨大な買い手だった。その買い手の購入量が少しずつ後退するなら、国債価格は下がりやすくなる。国債価格が下がれば、利回りは上がる。

もちろん日銀は、長期金利が急激に上昇する場合には買い入れ増額や指し値オペなどを実施する余地を残している。 しかし、市場の基本認識としては「日銀が以前のように無制限に長期金利を抑え込む局面ではない」という方向に変わった。

25年12月には10年国債利回りが1.872%と、18年ぶりの高水準にまで上昇した。これは、それまでの1.6%台から明確に一段上がった局面だ。同年秋以降の長期金利上昇は、日銀が国債市場を強く支える時代が終わりつつあることを市場が織り込んだ動きと見ることができる。

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だが、年明け以降の長期金利上昇を説明するには、高市政権の積極財政への市場の警戒を考慮に入れる必要がある。

投資家が「今後も財政赤字が続く」「国債発行が増える」「日銀の買い支えは以前ほど期待できない」「将来、インフレや円安で国債の実質価値が目減りするかもしれない」と考えるようになると、国債により高い利回りを要求する。つまり、国債価格が下がり、利回りが上がる。

10年国債利回りの上昇には、26年2月の衆議院選挙で高市政権の積極財政路線が政治的な信任を得たとの受け止め方も影響したとみられる。さまざまな分析が、高市政権の発足以降に長期金利の上昇が加速した原因として、市場が同政権の積極財政を警戒しているためと説明している。

ベッセント財務長官(左)と会談する高市首相(写真:ブルームバーグ)

つまり、25年秋以降の長期金利上昇は、日銀要因、インフレ要因、財政要因の3つが重なったものだ。高市政権が掲げる積極財政によって、今後も国債発行が増え、政府債務残高が膨らみ続けるとの見方が市場に広がったことも、利回り上昇の重要な要因となった。

日銀が国債買い入れを縮小する中で、投資家は日本国債を保有するリスクに対して、より高い利回りを求めるようになったのである。したがって、長期金利の上昇は、金融政策正常化の反映であると同時に、財政運営に対する市場の警告でもあると捉えることができる。

ただし、「高市政権だけが原因」というより、日銀の買い支えが弱まる局面で積極財政への警戒が金利上昇を加速させたと見るべきだろう。

長期金利2%が象徴する「ゼロ金利時代からの離脱」

26年1月には、10年国債利回りが2%台に入った。2月には2.249%まで上がった。これは、日本の金利としては非常に大きな変化だ。

16年以降のYCC期には、10年金利は長期間にわたってゼロ%近辺に抑えられていた。その当時と比較すると、2%台という水準はデフレ・ゼロ金利時代からの離脱を象徴する水準だ。

以上を要約すれば、この時期における長期金利の上昇は、日本経済がデフレ・ゼロ金利体制から抜け出したことの表れであると同時に、財政と金融政策の持続性が市場からより厳しく問われ始めたことの表れでもあると解釈することができる。

26年3月には、10年国債利回りはいったん2.122%へ低下した。しかし、これは上昇トレンドの終了ではなく、一時的な調整と見るべきだ。

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同年4月以降の日本の長期金利は、明確な上昇局面に入った。新発10年国債利回りで見ると、4月1日は2.300%だったが、4月上旬に2.4%台へ上昇した。4月30日には一時2.535%まで上昇し、1990年代後半以来の高水準となった。

上昇過程をもう少し詳しく見ると、次のとおりだ。4月初めの段階では、10年債利回りは2.3%台前半だった。4月下旬にはさらに上昇し、30日に一時2.535%まで上昇し、約29年ぶりの高水準になった。

その後も上昇圧力は続いている。5月に入ると、10年債利回りは7日に2.475%、11日に2.515%、12日に2.545%と、2.5%前後で推移。そして、14日には一時2.625%まで上昇し、1997年5月以来、約29年ぶりの高水準となった。 18日には新発10年国債利回りが2.800%となり、29年ぶりの高水準を更新した。

この局面では、10年債だけでなく、20年、30年、40年といった超長期債の利回りも上昇しており、国債市場全体で金利水準が上がっている。

なお、日本の金利だけが単独で動いているわけではない。アメリカ国債が下落し、G7全体で長期債利回りに上昇圧力がかかっている。世界的に、インフレ再燃、原油高、財政赤字、地政学リスクなどを背景に、長期債の利回りが上がりやすくなっているのだ。日本国債もその流れから無縁ではない。

この先の金利動向はどうなるのか

4月以降の金利上昇には、イラン戦争を背景とするインフレ懸念も強く影響している。とくに重要なのは、原油高と円安の影響だ。

イラン情勢の混迷も長期金利の上昇に影を落とす(写真:ブルームバーグ)

日本はエネルギー輸入国だから、原油価格が上がると同時に円安が進むと、輸入物価が上がる。それが、電気代、ガソリン代、物流費、食品価格などに波及し、物価上昇が長引くとの見方が強まる。

電気・ガス料金補助の再開観測が出たことで、早期の補正予算編成への思惑が広がり、長期・超長期ゾーンに追加的な売り圧力がかかった可能性が指摘されている。これは、電気・ガス料金補助だけの問題ではない。市場が気にしているのは「今後も物価対策、減税、補正予算、複数年度予算などで国債発行が増えるのではないか」という見方だ。

日銀は4月の金融政策決定会合で政策金利を0.75%に据え置いたが、9人の審議メンバーのうち3人が1.0%への利上げを主張した。これは、市場に「近い将来、追加利上げがある」と受け止められた。日銀も4月の金融政策決定会合後の説明で、エネルギーショックが広範な物価上昇に波及するリスクに注意しているとした。

長期金利は、現在の政策金利だけでなく、将来の短期金利の予想を織り込む。したがって、日銀が今後も利上げを続けると市場がみると、10年国債利回りも上がる。4月会合での決定は「利上げが遠のいた」というより、「6月以降の利上げ可能性が残った」と読まれた可能性が高い。

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