第15話

🩷 慰め
606
2026/07/11 16:38 更新
今日は最悪な一日だった。

頑張って準備してきたことがうまくいかなくて、思うような結果も出せなくて。

家に帰ってからもずっと気持ちが沈んだまま。

泣きたくなんてなかったのに、気を抜いたら涙が出そうで、私はソファに座ったままぼんやりと床を見つめていた。

そんな時だった。
勇斗
ただいまー
玄関のドアが開いて、聞き慣れた声がする。

佐野勇斗くんだ。

今日はうちに来る約束をしていた。

慌てて顔を上げて笑おうとしたけれど、
あなた
おかえり
その声は思ったより弱かった。

勇斗くんは靴を脱ぎながら首を傾げる。
勇斗
ん、どうした?
あなた
なんでもないよ
そう答えた瞬間。

ぽろっと涙が落ちた。

自分でもびっくりした。

隠そうとして顔を背けるけれど、もう遅い。

勇斗くんは何も言わずに隣へ座った。
勇斗
なんでもなくないじゃん
その優しい声を聞いた途端、我慢していたものが全部溢れた。
あなた
…今日ね
途切れ途切れに話す。

頑張ったこと。

失敗したこと。

悔しかったこと。

自分が嫌になったこと。

勇斗くんは途中で口を挟まなかった。

ただ静かに聞いてくれる。

それだけなのに、救われる。
あなた
私、向いてないのかな
最後にそう呟くと、勇斗くんは少しだけ眉をひそめた。
勇斗
それは絶対ちがう
いつもより真面目な声だった。
勇斗
頑張ってたの知ってるし
勇斗
見てたから
その言葉に胸が熱くなる。

結果しか見てもらえてないと思っていた。

誰も気づいてないと思っていた。

でも違った。
勇斗
ちゃんと頑張ったでしょ?
優しく言われて、また涙がこぼれる。

勇斗くんはそっと私の頭を撫でてくれた。

大きな手が心地よくて、少しだけ力が抜ける。
勇斗
今日はもう何も頑張らなくていいよ
勇斗
いっぱい頑張った日だから
勇斗くんの肩にそっと頭を預ける。

すると嬉しそうに笑う気配がした。
勇斗
もっと甘えていいの
まるで子どもをあやすみたいに髪を撫でられる。

恥ずかしいのに、離れたくなかった。

しばらくして涙が落ち着くと、勇斗くんが私の顔を覗き込む。
勇斗
もう大丈夫?
あなた
大丈夫だよ、ありがとう
勇斗
俺さ…あなたの下の名前ちゃんの笑った顔の方が好きだからもっと笑って欲しい
心臓が跳ねた。

こういうことを急に言う。

本人はたぶん無意識だ。

だから頬に残った涙を指で拭う。
勇斗
でも、俺今日来てよかった
勇斗
最近忙しくて会えてなかったじゃん
確かにそうだった。

連絡は取っていても、顔を合わせるのは久しぶりだった。
勇斗
ずっと会いたかったんだ
さらっと言われて息が止まる。
勇斗
そんな顔しないで
あなた
え?
勇斗
かわいい顔
また不意打ちだ。

恥ずかしくて顔を隠そうとすると、勇斗くんに手を掴まれる。

少しだけ距離を縮めると、私の額を軽く小突いた。
勇斗
今日はさ
あなた
うん
勇斗
いっぱい頑張った
勇斗
だからもう自分のことは責めないで
胸の奥がじんわり温かくなる。

勇斗くんは最後にもう一度頭を撫でた。
勇斗
また辛くなったら俺のところおいでよ
あなた
…うん
勇斗
何回でも話聞くからさ
そして少しだけ照れたように笑ってから、ぽつりと続けた。
勇斗
俺、あなたの下の名前ちゃんのこと好きだし
その一言に、今日一日抱えていた苦しさが全部溶けていく気がした。

私は勇斗くんの肩にもたれながら、小さく笑った。

すると勇斗くんも安心したように笑って、もう一度優しく髪を撫でた。
ご愛読いただきありがとうございます♩ ܸ
毎日投稿していましたが、当方受験生で少し忙しいため数日に1回の更新に変更させて頂きます;;
引き続きお楽しみいただけると幸いです 💘

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