休日の午後。
太智くんの家に来るのも、付き合ってから何度目だろう。
最初は緊張していたはずなのに、今ではソファに座って映画を見ながら他愛もない話をする時間が心地いい。
テーブルの上の飲み物を指差すと、太智くんはそう言いつつ手を伸ばして渡してくれた。
私が寒そうにしていればさりげなくブランケットをかけてくれるし、高い棚の物は当たり前みたいに取ってくれる。
優しいのに、それをわざわざアピールしない。
そういうところがずるいと思う。
映画が終わる頃には外はすっかり暗くなっていた。
時計を見る。
そう言うと、太智くんはスマホから目を離してこちらを見た。
少し悲しそうな顔をする太智くん。
一緒に片付けをして、玄関へ向かう。
いつもの流れ。
何度か繰り返してきたお別れの時間。
靴を履きながら振り返る。
と相変わらず不服そうに返事をする。
私がドアノブに手をかけた。
その時。
後ろからふいに名前を呼ばれる。
そう聞くと、一瞬だけ視線を逸らす。
何か言いたそうなのに、言葉を探しているみたいだった。
一瞬何を言いたいのか分からなかった。
でも次の言葉で全部伝わる。
その声は思っていたよりずっと静かだった。
きっと、まだ一緒にいたいのだろう。
いつもみたいな余裕のある言い方じゃない。
だから胸が少しだけ高鳴る。
からかうように聞いてみる。
すると太智くんは少し眉を上げた。
近付いてくる。
一歩。
また一歩。
さっきまで広かった距離があっという間になくなった。
低い声。 思わず息を飲んだ。
その一言があまりにも本音だった。
胸がぎゅっとなる。
名前を呼ぶと、今度は真っ直ぐ目が合った。
そう言って私の頭を優しく撫でる。
その言葉に頷くと、太智くんは満足そうに笑った。
いつもの余裕のある顔に戻っていたけれど。
耳だけは少し赤くて。
たぶん今のは、頑張って隠していた本音だったんだろう。
そう思うと、どうしようもなく愛おしかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。