――たしかに、日本版は他の国のものと印象が異なりますね。
小林:性に関する作品においてもその傾向が見られます。人間の性行動について調査した報告書「キンゼイ・レポート」を発表したことで知られる性科学者アルフレッド・C・キンゼイ博士の生涯を描いた映画が2005年に日本公開されました。原題は『KINSEY:Let's Talk About Sex』で、さまざまな人にインタビューして調査を行ったことを示唆していますが、邦題は『愛についてのキンゼイ・レポート』でした。
「セックス」を「愛」という言葉に置き換える傾向は、厚生労働省や保健所などの公共機関が作成する性感染症予防啓発ポスターについても同様です。セックスという言葉を目立つように使うのは避け、「大切な人を守るために」や「愛」という情動的で道徳観に訴えかける表現を使って問題の本質を伝えず、曖昧にする傾向があります。
そもそも性感染症とセックスをする関係のあり方は無関係です。しかし日本の政府は、「不特定多数とのセックスはよくない」「愛する大切な人と以外、セックスをしてはいけない」というニュアンスを帯びた文言を用いることが多く、そのことが性感染症に対するスティグマ(差別・偏見)に裏づけられていると言えますし、またこのような価値観は宗教右派的な価値観とも親和性が高いと言えます。
冷静なまなざしを養うには
――自分が日常的に目にするものに潜む問題に気づくことはなかなか難しいと思うのですが、小林さんのように広告など公共の表象に対する冷静なまなざしを持つにはどうすればよいのでしょうか。
小林:まずは、日本の特殊性に気づくことだと思います。それには、特定の表象を他国と比較するのがわかりやすいです。どこの民主主義国家にも選挙ポスターがあるので、それを比較してみるのもひとつの手。国の名前と「election poster(選挙ポスター)」で検索すると、選挙報道をするニュースサイトなどで、選挙ポスターが掲出されている情景を捉えた写真が出てきます。他の国では違う選挙の景色があると知るだけでも、日本の特殊性を客観的に見ることができます。そして、なぜそのような選挙ポスターが作られたのかを想像することも大事。そうすることで、国の特徴が見えてきます。
例えば、女性がトップにいたドイツやフィンランドの女性政治家の選挙ポスターは、スーツの色が強めでポーズも堂々としています。一方日本は、女性政治家にはピンクの背景や文字が使われていることが多く、ブルーを基調とする男性政治家のポスターと組み合わせられることが多いですし、髪型も非常にフェミニン。保守層にアピールするために作られていることが窺えます。
こんなふうに専門家ではなくても、気づくことがたくさんある。気づいたことを他の人とディスカッションしていくことも、非常に大切です。
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